出張先の同じ現場で働いていた者の送別会に出席し、飲酒して宿舎に帰った後行方不明にとなり、後日近く | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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出張先の同じ現場で働いていた者の送別会に出席し、飲酒して宿舎に帰った後行方不明にとなり、後日近くの川で溺死しているのが発見された事故につき、本件会合の趣旨および開催の経緯からすれば、本件会合への参加に業務遂行性があるとは認められないとされた例

 

東京地方裁判所判決/平成11年(行ウ)第4号

平成11年8月9日

遺族補償費等不支給処分取消請求事件

【判示事項】    一 出張先の同じ現場で働いていた者の送別会に出席し、飲酒して宿舎に帰った後行方不明にとなり、後日近くの川で溺死しているのが発見された事故につき、本件会合の趣旨および開催の経緯からすれば、本件会合への参加に業務遂行性があるとは認められないとされた例

二 右災害は業務と関連のない、自己の意思に基づく私的行為により、自ら招来した事故によるものであるとして、業務起因性が否定された例

【掲載誌】     労働判例767号22頁

 

労働者災害補償保険法

第七条 この法律による保険給付は、次に掲げる保険給付とする。

一 労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡(以下「業務災害」という。)に関する保険給付

二 複数事業労働者(これに類する者として厚生労働省令で定めるものを含む。以下同じ。)の二以上の事業の業務を要因とする負傷、疾病、障害又は死亡(以下「複数業務要因災害」という。)に関する保険給付(前号に掲げるものを除く。以下同じ。)

三 労働者の通勤による負傷、疾病、障害又は死亡(以下「通勤災害」という。)に関する保険給付

四 二次健康診断等給付

② 前項第三号の通勤とは、労働者が、就業に関し、次に掲げる移動を、合理的な経路及び方法により行うことをいい、業務の性質を有するものを除くものとする。

一 住居と就業の場所との間の往復

二 厚生労働省令で定める就業の場所から他の就業の場所への移動

三 第一号に掲げる往復に先行し、又は後続する住居間の移動(厚生労働省令で定める要件に該当するものに限る。)

③ 労働者が、前項各号に掲げる移動の経路を逸脱し、又は同項各号に掲げる移動を中断した場合においては、当該逸脱又は中断の間及びその後の同項各号に掲げる移動は、第一項第三号の通勤としない。ただし、当該逸脱又は中断が、日常生活上必要な行為であつて厚生労働省令で定めるものをやむを得ない事由により行うための最小限度のものである場合は、当該逸脱又は中断の間を除き、この限りでない。

 

事案の概要

(1)事業主の命令により、発電所への長期出張中、ボイラー関係試験の試験員(補助)の業務に従事していた原告の息子Aが、同じ現場で働いていた者の送別会に出席して飲酒し、宿舎に帰った後行方不明となり、四日後、近くの川で溺死しているのが発見された。そこで、原告がAの死亡は業務に起因するものであると主張して、労災保険法に基づき被告に対して遺族補償一時金および葬祭料の支給を請求したが、これを支給しない旨の処分を受けたため、その取消しを求めた。

(2)判決は、本件会合が、いっしょに什事をした他社従業員の送別会であり、有志の企画、任意の参加、勤務終了後に会費制、幹事による開会の挨拶や閉会の挨拶なしの流れ解散という趣旨および開催の経緯からすれば、参加に業務遂行性があるとは認められないとした。

 また判決は、原告による、(1)Aは過重な業務により、精神異常を来していたものであり、本件災害と業務との問に相当因果関係が存在する、(2)極度の疲労が蓄槓された状態にあったため、飲酒したことにより病的酩酊となって異常な行動に及び、本件災害に至ったので本件災害の業務起因性が認められる、という主張についても、本件会合での飲酒によって中等度の酩酊状態となっていたものと認められ、その後入浴したことにより酔いが増幅され、自らの意思に基づき全裸のまま外出し、知覚鈍麻の状態で川に滑り落ち、運動失調の状態からそのまま溺死するに至ったものと認められることから、本件災害はAの業務とは関係のない自己の意思に基づく行為により自ら招来した事故によるものであって、業務起因性は否定される等として、原告の請求を棄却した。