中小企業等協同組合法に基づく組合の設立にあたり創立総会で承認された設立費用のほかに設立のために要した費用がある場合において、設立後の理事会がした右超過費用を組合が支払う旨の決議の効力
創立費用立替金請求事件
【事件番号】 旭川地方裁判所判決/昭和36年(ワ)第208号
【判決日付】 昭和37年1月18日
【判示事項】 中小企業等協同組合法に基づく組合の設立にあたり創立総会で承認された設立費用のほかに設立のために要した費用がある場合において、設立後の理事会がした右超過費用を組合が支払う旨の決議の効力
【参照条文】 商法168
中小企業等協同組合法27
中小企業等協同組合法27の2
中小企業等協同組合法36の2
【掲載誌】 下級裁判所民事裁判例集13巻1号33頁
【評釈論文】 ジュリスト313号143頁
中小企業等協同組合法
(創立総会)
第二十七条 発起人は、定款を作成し、これを会議の日時及び場所とともに公告して、創立総会を開かなければならない。
2 前項の公告は、会議開催日の少くとも二週間前までにしなければならない。
3 発起人が作成した定款の承認、事業計画の設定その他設立に必要な事項の決定は、創立総会の議決によらなければならない。
4 創立総会においては、前項の定款を修正することができる。ただし、地区及び組合員たる資格に関する規定については、この限りでない。
5 創立総会の議事は、組合員たる資格を有する者でその会日までに発起人に対し設立の同意を申し出たものの半数以上が出席して、その議決権の三分の二以上で決する。
6 創立総会においてその延期又は続行の決議があつた場合には、第一項の規定による公告をすることを要しない。
7 創立総会の議事については、主務省令で定めるところにより、議事録を作成しなければならない。
8 創立総会については、第十一条の規定を、創立総会の決議の不存在若しくは無効の確認又は取消しの訴えについては、会社法第八百三十条、第八百三十一条、第八百三十四条(第十六号及び第十七号に係る部分に限る。)、第八百三十五条第一項、第八百三十六条第一項及び第三項、第八百三十七条、第八百三十八条並びに第八百四十六条(株主総会の決議の不存在若しくは無効の確認又は取消しの訴え)の規定(第三十六条の三第四項に規定する組合であつて、その監事の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨を定款で定めた組合(以下「監査権限限定組合」という。)にあつては、監査役に係る部分を除く。)を準用する。
(設立の認可)
第二十七条の二 発起人は、創立総会終了後遅滞なく、定款並びに事業計画、役員の氏名及び住所その他必要な事項を記載した書面を、主務省令で定めるところにより、行政庁に提出して、設立の認可を受けなければならない。
2 信用協同組合又は第九条の九第一項第一号の事業を行う協同組合連合会の設立にあつては、発起人は、前項の書類のほか、業務の種類及び方法並びに常務に従事する役員の氏名を記載した書面その他主務省令で定める書面を提出しなければならない。
3 第九条の九第一項第三号の事業を行う協同組合連合会の設立にあつては、発起人は、第一項の書類のほか、火災共済規程、常務に従事する役員の氏名を記載した書面その他主務省令で定める書面を提出しなければならない。
4 行政庁は、前二項に規定する組合以外の組合の設立にあつては、次の各号のいずれかに該当する場合を除き、第一項の認可をしなければならない。
一 設立の手続又は定款若しくは事業計画の内容が法令に違反するとき。
二 事業を行うために必要な経営的基礎を欠く等その目的を達成することが著しく困難であると認められるとき。
5 行政庁は、第二項に規定する組合の設立にあつては、次の各号のいずれかに該当する場合を除き、第一項の認可をしなければならない。
一 設立の手続又は定款、事業計画の内容若しくは業務の種類若しくは方法が法令に違反するとき。
二 地区内における金融その他の経済の事情が事業を行うのに適切でないと認められるとき。
三 常務に従事する役員が金融業務に関して十分な経験及び識見を有する者でないと認められるとき。
四 業務の種類及び方法並びに事業計画が経営の健全性を確保し、又は預金者その他の債権者の利益を保護するのに適当でないと認められるとき。
6 行政庁は、第九条の九第一項第三号の事業を行う協同組合連合会の設立にあつては、次の各号のいずれかに該当する場合を除き、第一項の認可をしなければならない。
一 設立の手続又は定款、火災共済規程若しくは事業計画の内容が法令に違反するとき。
二 共済の目的につき危険の分散が充分に行われないと認められるとき及び共済契約の締結の見込みが少ないと認められるとき。
三 常務に従事する役員が共済事業に関して十分な経験及び識見を有する者でないと認められるとき。
四 火災共済規程及び事業計画の内容が経営の健全性を確保し、又は組合員その他の共済契約者の利益を保護するのに適当でないと認められるとき。
(役員の組合に対する損害賠償責任)
第三十八条の二 役員は、その任務を怠つたときは、組合に対し、これによつて生じた損害を賠償する責任を負う。
2 前項の任務を怠つてされた行為が理事会の決議に基づき行われたときは、その決議に賛成した理事は、その行為をしたものとみなす。
3 前項の決議に参加した理事であつて議事録に異議をとどめないものは、その決議に賛成したものと推定する。
4 第一項の責任は、総組合員の同意がなければ、免除することができない。
5 前項の規定にかかわらず、第一項の責任は、当該役員が職務を行うにつき善意でかつ重大な過失がないときは、賠償の責任を負う額から当該役員がその在職中に組合から職務執行の対価として受け、又は受けるべき財産上の利益の一年間当たりの額に相当する額として主務省令で定める方法により算定される額に、次の各号に掲げる役員の区分に応じ、当該各号に定める数を乗じて得た額を控除して得た額を限度として、総会の決議によつて免除することができる。
一 代表理事 六
二 代表理事以外の理事 四
三 監事 二
6 前項の場合には、理事は、同項の総会において次に掲げる事項を開示しなければならない。
一 責任の原因となつた事実及び賠償の責任を負う額
二 前項の規定により免除することができる額の限度及びその算定の根拠
三 責任を免除すべき理由及び免除額
7 監査権限限定組合以外の組合の理事は、第一項の責任の免除(理事の責任の免除に限る。)に関する議案を総会に提出するには、各監事の同意を得なければならない。
8 第五項の決議があつた場合において、組合が当該決議後に同項の役員に対し退職慰労金その他の主務省令で定める財産上の利益を与えるときは、総会の承認を受けなければならない。
9 第四項の規定にかかわらず、第一項の責任については、会社法第四百二十六条(第四項から第六項までを除く。)及び第四百二十七条の規定を準用する。この場合において、同法第四百二十六条第一項中「取締役(当該責任を負う取締役を除く。)の過半数の同意(取締役会設置会社にあっては、取締役会の決議)」とあるのは「理事会の決議」と、同条第三項中「責任を免除する旨の同意(取締役会設置会社にあっては、取締役会の決議)」とあるのは「責任を免除する旨の理事会の決議」と読み替えるものとするほか、必要な技術的読替えは、政令で定める。
主 文
原告の請求を棄却する。
訴松費用は原告の負担とする。
事 実
原告は、「被告は原告に対し金一二○○、○○○円およびこれに対寸る訴状送達の日の翌日から右完済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」旨の判決および担保を条件とする仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、「(一)被告は昭和二七年四月三日設立登記をした中小企業等協同組合法に基く信用協同組合である。(ニ)原告は昭和二六年八月彼告の設立を企て、じ来その発起人の一人として費用を皮出して右設立に尺力した。しかして右費用として原告の支出したものは、人件費八○、○○○円、旅費八、○○○円、事務用品費二○、○○○円、通信費一○、○○○円、光熱費三○、○○○円、創立総会開催費一○、○○○円、設立準備諸会合費五○、○○○円、役員就任披露宴会費五○、○○○円、交通費一五、○○○円および雑費その他三○、○○○円の合計三○三、○○○円である。(ニ)原告は、昭和二七年二月五日の発起人会において創立総会に提出すべぎ設立費用負担の承認に関する議案が審議された際、自ら支出した曲記費用中金三○○、○○○円の計上を求めたところ、右発起人会は設立費用については北海道知事の行政上の指導方針として金五○、○○○円を限度としそれ以上は認められないことになつているとの理由で、原告が支出した前記費用は組合が成訊し事業を開始した後別途脇議のうえ支払うことを約した。(ニ)被告の創立総会は同年三月一日開かれ設立費用負担の承認に関する議案については金五○、○○○円が計上議決され、右は営業開始に必要な帽簿類、印刷物の購入費および登記費用等の支出に充てられることとなつた。(五)原告は同年七月頃被告組合事務所において理事会が開催された際、前記原告支出の設立費用の支払を詩求したところ、右理事会は原告に対し右設立費用の支払義務あることを認め、被告において組合員の出資金に対し配当ができるようになつたとぎその支払をすることを約した。(六)被告は右出資金に対し昭和三四年度において年六分、昭和三五年度おいて年七分の割合による配当をなすに至つ5た,そこで、原告は被告に対し、原告支出の前記設立費用中金三○○、○○○円およびこれに対ずる本訴状送達の日の翌日から右完済まで民法所定の年五分の割合による遅柾一損害金の支払を求める。」と述べ、被告の抗弁に対し、「原告の被告に対する設立費用の請求は前記のとおり停止条件付債催に基くものであり、右条件は昭和三四年に成就したものであるから未だ消滅時効は完成していない。」と述べた。(託拠省略)
被告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、答弁として、「原告主張の請求原因事実中、(一)および(六)は認め、その余は否認する。」と述べ、抗弁として、「仮に1被告にいて原告に対しその主臣一の費用の支払義務があるとしても、右は昭和三二年四月三日の経過を以て被告組合成立一の日である昭和二七年四月:百から五年を一比過したこととなり滴滅時効が完成しているものであるから、右時効を援用する。」と述べた。(証拠省略)
理 由
中小企業等協同組合法に基く信用協同組合の設立に要した費用については、同法中に一株式会社におげる商法第一六八条第一項第七号のような規定および同法条を準用する規定はない。しかしそうだからといつて、右中小企業等協同組合法の各法条から考えて右費用について組合の無制限な負担を許しているものとは解し得ず、却つて右費用については右商法の規定を類推適用したうえ中小企業等協同組合法第二七条および同条の二によつて、発起人の過大な見積や濫費不正等によつて組合の財産的基礎が危寅なることを防止するため定款に配載したうえ創立総会における議決を経て行政庁の認可を得たものに ついてだけ組合の負担とし、その余は支出した発起人自らの負担に帰せしめているものと解すべきであるから、たとえ、後日組合理事会札おいて右超加費用につぎこれを支出した発起人に支払うべきことを議決して右発起人にその旨約諾したとしても、これらはいずれも前記定款の記載創立総会の議決および行政庁の認可を潜脱する目姓でなした脱法行為にして無効のものというべく、右発起人は右約定を以て組合に対し右超加費用の請求はなし農ないものといわねばならない。してみると、原告の請求はその主張事実の有無につき判断するまでもなく失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 高田政彦)