特許法第1条の工業的発明の意義 抗告審判の審決取消請求事件 最高裁判所 | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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特許法第1条の工業的発明の意義

 

 

              抗告審判の審決取消請求事件

【事件番号】      最高裁判所第1小法廷判決/昭和25年(オ)第80号

【判決日付】      昭和28年4月30日

【判示事項】      特許法第1条の工業的発明の意義

【判決要旨】      特許法第1条の工業的発明とは自然法則の利用によつて一定の文化目的を達するに適する技術的考案をいうのであつて、何等装置を用いずまた自然力を利用した手段を施していない考案は、発明ということはできても、同条にいう工業的発明ということはできない。

【掲載誌】        最高裁判所民事判例集7巻4号461頁

             行政事件裁判例集4巻4号910頁

             判例タイムズ30号35頁

【評釈論文】      別冊ジュリスト86号10頁

 

 

特許法

(定義)

第二条 この法律で「発明」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。

2 この法律で「特許発明」とは、特許を受けている発明をいう。

3 この法律で発明について「実施」とは、次に掲げる行為をいう。

一 物(プログラム等を含む。以下同じ。)の発明にあつては、その物の生産、使用、譲渡等(譲渡及び貸渡しをいい、その物がプログラム等である場合には、電気通信回線を通じた提供を含む。以下同じ。)、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出(譲渡等のための展示を含む。以下同じ。)をする行為

二 方法の発明にあつては、その方法の使用をする行為

三 物を生産する方法の発明にあつては、前号に掲げるもののほか、その方法により生産した物の使用、譲渡等、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為

4 この法律で「プログラム等」とは、プログラム(電子計算機に対する指令であつて、一の結果を得ることができるように組み合わされたものをいう。以下この項において同じ。)その他電子計算機による処理の用に供する情報であつてプログラムに準ずるものをいう。

 

 

 

       主   文

 

 本件上告を棄却する。

 上告費用は上告人の負担とする。

 

       理   由

 

 上告人(選定当事者)の上告理由第一点について。

 本件では、本件発明について事実上の争はなく、その争点は原告等の本願発明が特許能力を有するや否やの一点にあつたことは明白なところである。そして、原判決は、その争点に関し、先ず、特許に値すべき発明の本体は自然法則の利用によつて一定の文化目的を達するに適する技術的考案ということにあつて、特許法一条にいわゆる工業的発明とはあらゆる産業に利用されうるものであるが技術産業的特質をもつた発明に限る趣旨と解した上、原告等の本願発明は結局何等装置を用いず、又、自然力を利用した手段を施していないから、特許に値する工業的発明であるとはいえないと説示してその特許能力を否定したものである。裁判所は法律の解釈については自己の自由な判断に従うべきものであつて、当事者の主張する解釈の争点に拘束を受けるものではない。従つて、原判決には、所論の違法を認めることができないから、本論旨に採用できない。

 同第二点について。

 しかし、原判決は、あらゆる発明がすべて特許能力を有するものではなく、その発明が工業的であることを要する旨説示したのは正当であるから、本願発明が所論のごとく発明には該当するとしてもそれだけでは特許能力を有するものとはいえない。それ故、本論旨は、原判決の判断に影響を及ぼさないこと明白であつて、採用できない。

 同第三点について。

 本訴請求は、所論審決の取消を求める訴訟である。所論法律の解釈に関する審決の理由に誤りがあるとしても、審決の結論に誤りがなく、本訴請求にして認容できないときは、主文においてこれを棄却するのが当然である。そして、所論解釈の当否は、判決理由中で説明すれば足りるものであつて、主文において言渡すべきものではない。それ故、原判決には所論の違法は存しない。

 同第四点について。

 しかし、所論答弁書の答弁は、被告(被上告人)の法律上の見解であつて、原告(上告人)の主張事実に対する自白とはいえない。それ故、裁判所は、前述のごとくかかる当事者の法律上の見解に拘束される理由がなく、原判決には、所論の違法は認められない。

 同第五点、第六点について。

 原判決が、所論特許法一条所定の特許の要件は所論条約一条三項並びに特許法三三条により何等左右されない旨、並びに、工業的発明の意味を技術産業的特質をもつた発明に限る趣旨と解した解釈は右条約等により毫末もこれを変更するの要あるを見ない旨説示したのは、当裁判所においてもこれを正当として是認すべきものと考へる。それ故所論は、いずれも採用することができない。

 同第七点について。

 法律の解釈は、前述のごとく裁判所の自由に判断すべきものであり、所論が学界の通説であるとしても、これを採らなかつた理由を示さなかつたからといつて、違法であるとはいえない。それ故、本論旨も採用できない。

 同第八点について。

 しかし、原判決が口頭弁論に基いたものであることは明白であり、そして、原判決は、主として特許法の解釈を示したものであつて、その判断をするのに特に証拠その他の資料に基くことを要しないものであることその判文に照し明らかであるから、原判決には、所論の違法を認めることはできない。

 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

     最高裁判所第一小法廷