弁護士出身の裁判官について、弁護士当時の一方当事者との関係が忌避事由に該当しないとされた事例 | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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弁護士出身の裁判官について、弁護士当時の一方当事者との関係が忌避事由に該当しないとされた事例

 

 

              裁判官忌避申立事件

【事件番号】      東京地方裁判所決定/平成7年(モ)第11113号

【判決日付】      平成7年11月29日

【判示事項】      弁護士出身の裁判官について、弁護士当時の一方当事者との関係が忌避事由に該当しないとされた事例

【参照条文】      民事訴訟法37

【掲載誌】        判例タイムズ901号254頁

 

 

民事訴訟法

(裁判官の除斥)

第二十三条 裁判官は、次に掲げる場合には、その職務の執行から除斥される。ただし、第六号に掲げる場合にあっては、他の裁判所の嘱託により受託裁判官としてその職務を行うことを妨げない。

一 裁判官又はその配偶者若しくは配偶者であった者が、事件の当事者であるとき、又は事件について当事者と共同権利者、共同義務者若しくは償還義務者の関係にあるとき。

二 裁判官が当事者の四親等内の血族、三親等内の姻族若しくは同居の親族であるとき、又はあったとき。

三 裁判官が当事者の後見人、後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人又は補助監督人であるとき。

四 裁判官が事件について証人又は鑑定人となったとき。

五 裁判官が事件について当事者の代理人又は補佐人であるとき、又はあったとき。

六 裁判官が事件について仲裁判断に関与し、又は不服を申し立てられた前審の裁判に関与したとき。

2 前項に規定する除斥の原因があるときは、裁判所は、申立てにより又は職権で、除斥の裁判をする。

(裁判官の忌避)

第二十四条 裁判官について裁判の公正を妨げるべき事情があるときは、当事者は、その裁判官を忌避することができる。

2 当事者は、裁判官の面前において弁論をし、又は弁論準備手続において申述をしたときは、その裁判官を忌避することができない。ただし、忌避の原因があることを知らなかったとき、又は忌避の原因がその後に生じたときは、この限りでない。

(除斥又は忌避の裁判)

第二十五条 合議体の構成員である裁判官及び地方裁判所の一人の裁判官の除斥又は忌避についてはその裁判官の所属する裁判所が、簡易裁判所の裁判官の除斥又は忌避についてはその裁判所の所在地を管轄する地方裁判所が、決定で、裁判をする。

2 地方裁判所における前項の裁判は、合議体でする。

3 裁判官は、その除斥又は忌避についての裁判に関与することができない。

4 除斥又は忌避を理由があるとする決定に対しては、不服を申し立てることができない。

5 除斥又は忌避を理由がないとする決定に対しては、即時抗告をすることができる。

 

 

 

       主   文

 

 本件申立てを却下する。

 

       理   由

 

一 本件申立ての趣旨及び理由

 別紙忌避申立書のとおり。

二 当裁判所の判断

1 一件記録によれば、次の事実が認められる。

(一)申立人は、丙山太郎(以下「丙山」という。)を仲介人として有限会社Cビルから土地(以下「本件土地」という。)及び土地付建物(以下「本件建物」という。)を買い受け、本件土地をさらに丙山に転売したが、本件建物には雨漏りが生ずるという瑕疵があったにもかかわらず、丙山らが右瑕疵を秘して申立人に本件建物を売り付けたとして、丙山に対し、本件土地の転売による転売差損の賠償を求める前記本案訴訟(以下「本案事件」という。)を提起した。

(二)申立人は、当庁民事第四一部に係属中の別件訴訟(東京地方裁判所平成六年(ワ)第二五四一七号)において、本件土地・建物を売り付けたこと自体を丙山らの共同不法行為とし、同人らに対し損害賠償を求めているが、その被告中には、株式会社A銀行(以下「訴外銀行」という。)も含まれている。

(三)裁判長として本案事件を担当する当庁民事第三八部の甲野一郎裁判官(以下「甲野裁判官」という。)は、もと第一東京弁護士会に所属する弁護士であり、平成元年四月に裁判官に任官して以降現在に至っているものである。

2 そして、裁判官に対する当事者の忌避権を定めた民事訴訟法三七条一項にいう「裁判ノ公正ヲ妨クヘキ事情」とは、裁判官が担当する事件の当事者と特別の関係にあるとか、訴訟手続外において既にその事件につき一定の判断を形成している等の当該事件の手続外の要因により、その裁判官によっては当該事件について公正で客観性のある裁判を期待することができない客観的事情を指すものと解するのが相当であるから、その訴訟内における裁判官の訴訟指揮権ないし審判の方法・態度等は、それが合理的にみて当該事件の手続外の要因によって動かされているものと認めざるを得ないような場合は別として、それ自体では直ちに忌避の理由とすることはできないものというべきである。

3 そうすると、本件において申立人が忌避の理由として主張する事実は、いずれも前記法条の定める忌避事由には該当しないと言わざるを得ない。すなわち、

(一)申立人は、まず、甲野裁判官が裁判官任官前に弁護士として所属していた共同法律事務所が訴外銀行を有力な顧客としていたから、同裁判官も訴外銀行の法律事務を取り扱った可能性がある、仮にそうでないとしても、右事務所の構成員であった以上同裁判官も訴外銀行と利害関係を有していたと考えるべきであり、これらに照らすと、同裁判官によっては公正な裁判が期待できないと主張する。

 確かに、甲野裁判官がもと弁護士であったことは前示のとおりである。

 しかしながら、裁判官が当該事件ないしはこれと訴訟的には同一と評価される事件について訴訟前に一方当事者のために助言を与えたり私的鑑定をした場合は格別、単に一方当事者の顧問弁護士事務所に所属する弁護士であったこと、あるいは弁護士として当該事件と無関係な法律事務を取り扱ったことがあることから直ちに裁判官につき裁判の公正を妨げるべき事情があるものとはいえないから、申立人の右主張の理由のないことは明らかである。

 それだけではなく、そもそも本案事件において訴外銀行は当事者となっていないし、甲野裁判官が本案事件及びこれと同一と見られる事件について、法律事務を取り扱うなど事件に関与した形跡は全く認められない。

(二)次に、申立人は、本案事件における訴訟指揮、証拠の採否及び弁論兼和解の際における言動に照らせば、甲野裁判官の偏頗性は明らかであると主張するが、右主張は、要するに、弁論ないし証拠調べに関する同裁判官の訴訟指揮権の行使の不当をいうに帰し、しかも、同裁判官が何らかの手続外の要因(同裁判官と訴外銀行との特別な関係)によって動かされているものと認めることもできない。

(三)さらに、申立人は、甲野裁判官は裁判官としての適性がない旨るる主張するけれども、そのような裁判官個人としての適格性に関する事情は具体的な事件との関係の問題ではなく、それ自体裁判官につき裁判の公正を妨げるべき事情があるとはいい得ないことが明らかである。

 その他、一件記録を精査しても、甲野裁判官に本案事件について忌避事由に該当する事実があると認めることはできない。

4 以上のとおり、本件忌避の申立ては理由がないから、これを却下し、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官赤塚信雄 裁判官田中 敦 裁判官脇 由紀)