トランプ類の商標につき外観類似と認定された事例
商標登録出願拒絶査定に対する抗告審判の審決取消請求事件
【事件番号】 東京高等裁判所判決/昭和36年(行ナ)第175号
【判決日付】 昭和39年6月11日
【判示事項】 トランプ類の商標につき外観類似と認定された事例
【判決要旨】 トランプ類を指定商品とする商標であつて、Ⅰ標示のごとき構成を有するものは、Ⅱ表これのごとき構成を有するものと、たとえ、文字において「ALPINIST」と「CARAVAN」、図形においてアルプスを背景とする数人の登山者とピラミツドを背景とする隊商との差異があつても、いずれも黒地に白を以て印象の似た文字部分と図形部分とを同様に組み合せたもので、側面にもほゞ同じ位置にほゞ同じ大きさの文字が黒地に白であらわれる点で共通であり、時と所とを異にしてこれに接する世人に混同させるおそれのあるものであるから、外観類似のものと認めるのが相当である。
【参照条文】 旧商法2-1
【掲載誌】 行政事件裁判例集15巻6号1011頁
判例タイムズ163号148頁
本件は、観念においても、称呼においても類似の点がなく、ただ外観においてのみ似た印象を与える商標の事例として、典型的なものである。
そして、そういう外観を比較するときは、要旨にいうようないわゆる離隔的観察をもつてすべきこと、大審院大正13年7月15日の判決以来、古くから大審院の判例とするところである。
商標法
(定義等)
第二条 この法律で「商標」とは、人の知覚によつて認識することができるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音その他政令で定めるもの(以下「標章」という。)であつて、次に掲げるものをいう。
一 業として商品を生産し、証明し、又は譲渡する者がその商品について使用をするもの
二 業として役務を提供し、又は証明する者がその役務について使用をするもの(前号に掲げるものを除く。)
2 前項第二号の役務には、小売及び卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供が含まれるものとする。
3 この法律で標章について「使用」とは、次に掲げる行為をいう。
一 商品又は商品の包装に標章を付する行為
二 商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為
三 役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物(譲渡し、又は貸し渡す物を含む。以下同じ。)に標章を付する行為
四 役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付したものを用いて役務を提供する行為
五 役務の提供の用に供する物(役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物を含む。以下同じ。)に標章を付したものを役務の提供のために展示する行為
六 役務の提供に当たりその提供を受ける者の当該役務の提供に係る物に標章を付する行為
七 電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によつて認識することができない方法をいう。次号及び第二十六条第三項第三号において同じ。)により行う映像面を介した役務の提供に当たりその映像面に標章を表示して役務を提供する行為
八 商品若しくは役務に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為
九 音の標章にあつては、前各号に掲げるもののほか、商品の譲渡若しくは引渡し又は役務の提供のために音の標章を発する行為
十 前各号に掲げるもののほか、政令で定める行為
4 前項において、商品その他の物に標章を付することには、次の各号に掲げる各標章については、それぞれ当該各号に掲げることが含まれるものとする。
一 文字、図形、記号若しくは立体的形状若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合の標章 商品若しくは商品の包装、役務の提供の用に供する物又は商品若しくは役務に関する広告を標章の形状とすること。
二 音の標章 商品、役務の提供の用に供する物又は商品若しくは役務に関する広告に記録媒体が取り付けられている場合(商品、役務の提供の用に供する物又は商品若しくは役務に関する広告自体が記録媒体である場合を含む。)において、当該記録媒体に標章を記録すること。
5 この法律で「登録商標」とは、商標登録を受けている商標をいう。
6 この法律において、商品に類似するものの範囲には役務が含まれることがあるものとし、役務に類似するものの範囲には商品が含まれることがあるものとする。
7 この法律において、輸入する行為には、外国にある者が外国から日本国内に他人をして持ち込ませる行為が含まれるものとする。
主 交
原告の請求を棄却する。
訴訟費用(参加によつて生じたものを含む。)は原告の負担とする。
事 実
第一、双方の申立
原告は、「昭和三五年抗告審判第三、二三八号事件につき、特許庁が昭和三六年一〇月二七日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、被告は、、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求めた。
第二、原告の請求の原因
一、原告は、昭和三四年三月三一日旧類別(大正一〇年一二月一七日農商務省令第三六号商標施行規則第一五条所定)第六五類トランプ類その他本類に属する商品を指定商品とし、別紙Ⅰ表示の構成を有する商標につき、特許庁に商標登録出願をなし(同年商標登録願第九、八六一号)、同年一二月一五日出願公告の決定を受け、昭和三五年四月一一日その商標出願公告がなされたところ(同年商標出願公告第七、四四六号)、同年六月九日本件被告補助参加人(以下単に参加人という)。から商標登録異議の申立があって、同年一〇月三一日拒絶査定がなされたので、原告はこれに対し同年一二月二日抗告審判の請求をしたが(同年抗告審判第三、二三八号)、特許庁は昭和三六年一〇月二七日右請求は成り立たない旨の審決をなし、原告は同年一一月九日審決書謄本の送達を受けた。
二、審決の要旨は次のとおりである。
参加人は、別紙Ⅱ表示の構成から成り、旧類別第六五類骨牌を指定商品として昭和二六年五月一八日登録された登録第三九八、六六四号商標を有するところ、本願商標と右引用商標とは称呼、観念においては相異るにしても外観においては類似するというべきである。
すなわち、両者を外観上から見るに、全体の形状並びに文字及び図形の細部の点には相異るものがあるといえるにしても、他面において、両商標はいずれも文字及び図形を黒地に白であらわしていること、個々の文字を抽出して見れば異なるにも拘らずこれを全体的に見ればいずれも相類似する特殊の態様で書かれているものとの印象を受けること、文字の配置が図形との関係において類似していること、白地であらわされている図形は、本願商標のものは雪におおわれているアルプスの山であり、引用商標のものはピラミツドであり、またそれらの前に描かれている図形は、前者のそれが数人の登山者をあらわし、後者のそれが□□をひく隊商をあらわしているにも拘らず、いずれの図形も三角形の前にシルエツトが描かれているという点で、その感じが相類似するものであること等多くの共通点を有する。
そしてかような外観を有する両商標は、その指定商品との関係において見れば、いずれもそれらが使用される場合にはトランプ骨牌等の容器にあらわされるものであることは、両者がいずれもこの種容器の展開図であることを示していることから明らかである。
それ故このような両商標の使用の態様をも勘案しつつ、それらの構成部分を総括した全体の構図から判断する場合には、両商標は以上の如く外観において共通ずる面が多いから、両者を対比して見る場合はともかく、時と所とを異にしてこれに接する場合には、世人が両商標を混同する事例は頻繁に発生するものと解するのが、取引の実際に照らし相当である。
従つて両商標はその称呼、観念においては相異なるも、外観の点において相紛らわしい類似の商標であるといわざるを得ず、そして両商標が指定商品において相抵触するものであることは明らかであるから、本願商標は旧商標法(大正一〇年法律第九九号)第二条第一項第九号の規定により登録を拒否すべきものと認める。
三、しかしながら、審決は次の理由によつて違法であるから、その取消を求める。
すなわち審決は、本願商標と引用商標との外観上の観察における類似点ないし共通点を指摘して、
(一)いずれも文字及び図形を黒地に白であらわしているというも、商標としては、かようなものはありふれた表示態様であつて、取引市場において常に見受けられるところであり、あえて引用商標のみの表示態様ではないものというべく、
(二)文字がいずれも相類似する特殊の態様で書かれているものとの印象を受けるというも、その両者の要部とする文字「ALPINIST」及び「CARAVAN」の文字は書体が全く異なるのであり(例えばこれらに共通の文字である「A」、「N」を比較すればその相違は一目瞭然である。)
(三)両者は、文字の配置が図形との関係において類似しているというも、その表示態様は特殊なものではなく、普通のごくありふれたものであつて、引用商標のみに見られる独特のものではないのであり、
(四)いずれの図形も三角形の前にシルエツトが描かれている点で類似するというも、単に三角形と断定するのが誤りで、本願商標のものは雪におおわれた山岳であり、そして引用商標のものは正三角形であるが□□をひく隊商の図形からピラミツドを表示していることが直ちに理解されるのであり、そしてまた両者の図形共にその一部がシルエツトで描かれているにしても、本願商標のものは雪におおわれた山岳と登山者を、また引用商標のものはピラミツドを背景とする隊商を表示することが明白であるから、審決の右のような認定には全体的に観察しない誤りがある。
要するに、本願商標は「ALPINIST」の文字と雪におおわれた山岳を背景とする登山者の図形から成り、引用商標は「CARAVAN」の文字とピラミツドを背景とする隊商の図形から成ることが明らかであり、右の文字及び図形がそれぞれ明確に観察されるから、両者は外観上離隔的観察においても相異なるものというべきである。かように両商標は本質的に相違する外観を有するのみならず、取引上の実際においても、卸商及び小売店では舶来トランプと国産トランプとを場所を異にして陳列し、各百貨店においては舶来品は国産品と場所を異にして別に、「舶来トランプ」と表示したケース内に陳列して販売しているのであつて、引用商標のトランプは舶来品であり、本願商標のトランプは国産品であつて、取引上の実際においては右のような取扱いをせられているものである。従つて両商標は取引上の実際における経験則に照らしても非類似の商標であるというべきである。