東京都議会議員定数配分訴訟・最高裁令和4年10月31日
選挙無効等請求事件
【事件番号】 最高裁判所第2小法廷判決/令和4年(行ツ)第78号、令和4年(行ヒ)第79号
【判決日付】 令和4年10月31日
【判示事項】 1 東京都議会議員の定数並びに選挙区及び各選挙区における議員の数に関する条例(昭和44年東京都条例第55号)のいわゆる特例選挙区を存置する規定の適法性
2 東京都議会議員の定数並びに選挙区及び各選挙区における議員の数に関する条例(昭和44年東京都条例第55号)の議員定数配分規定の適法性
3 東京都議会議員の定数並びに選挙区及び各選挙区における議員の数に関する条例(昭和44年東京都条例第55号)のいわゆる特例選挙区を存置する規定の合憲性
4 東京都議会議員の定数並びに選挙区及び各選挙区における議員の数に関する条例(昭和44年東京都条例第55号)の議員定数配分規定の合憲性
【掲載誌】 LLI/DB 判例秘書登載
地方自治法
第六章 議会
第一節 組織
第八十九条 普通地方公共団体に、その議事機関として、当該普通地方公共団体の住民が選挙した議員をもつて組織される議会を置く。
② 普通地方公共団体の議会は、この法律の定めるところにより当該普通地方公共団体の重要な意思決定に関する事件を議決し、並びにこの法律に定める検査及び調査その他の権限を行使する。
③ 前項に規定する議会の権限の適切な行使に資するため、普通地方公共団体の議会の議員は、住民の負託を受け、誠実にその職務を行わなければならない。
第九十条 都道府県の議会の議員の定数は、条例で定める。
② 前項の規定による議員の定数の変更は、一般選挙の場合でなければ、これを行うことができない。
③ 第六条の二第一項の規定による処分により、著しく人口の増加があつた都道府県においては、前項の規定にかかわらず、議員の任期中においても、議員の定数を増加することができる。
④ 第六条の二第一項の規定により都道府県の設置をしようとする場合において、その区域の全部が当該新たに設置される都道府県の区域の一部となる都道府県(以下本条において「設置関係都道府県」という。)は、その協議により、あらかじめ、新たに設置される都道府県の議会の議員の定数を定めなければならない。
⑤ 前項の規定により新たに設置される都道府県の議会の議員の定数を定めたときは、設置関係都道府県は、直ちに当該定数を告示しなければならない。
⑥ 前項の規定により告示された新たに設置される都道府県の議会の議員の定数は、第一項の規定に基づく当該都道府県の条例により定められたものとみなす。
⑦ 第四項の協議については、設置関係都道府県の議会の議決を経なければならない。
第九十一条 市町村の議会の議員の定数は、条例で定める。
② 前項の規定による議員の定数の変更は、一般選挙の場合でなければ、これを行うことができない。
③ 第七条第一項又は第三項の規定による処分により、著しく人口の増減があつた市町村においては、前項の規定にかかわらず、議員の任期中においても、議員の定数を増減することができる。
④ 前項の規定により議員の任期中にその定数を減少した場合において当該市町村の議会の議員の職に在る者の数がその減少した定数を超えているときは、当該議員の任期中は、その数を以て定数とする。但し、議員に欠員を生じたときは、これに応じて、その定数は、当該定数に至るまで減少するものとする。
⑤ 第七条第一項又は第三項の規定により市町村の設置を伴う市町村の廃置分合をしようとする場合において、その区域の全部又は一部が当該廃置分合により新たに設置される市町村の区域の全部又は一部となる市町村(以下本条において「設置関係市町村」という。)は、設置関係市町村が二以上のときは設置関係市町村の協議により、設置関係市町村が一のときは当該設置関係市町村の議会の議決を経て、あらかじめ、新たに設置される市町村の議会の議員の定数を定めなければならない。
⑥ 前項の規定により新たに設置される市町村の議会の議員の定数を定めたときは、設置関係市町村は、直ちに当該定数を告示しなければならない。
⑦ 前項の規定により告示された新たに設置される市町村の議会の議員の定数は、第一項の規定に基づく当該市町村の条例により定められたものとみなす。
⑧ 第五項の協議については、設置関係市町村の議会の議決を経なければならない。
公職選挙法
(地方公共団体の議会の議員の選挙区)
第十五条 都道府県の議会の議員の選挙区は、一の市の区域、一の市の区域と隣接する町村の区域を合わせた区域又は隣接する町村の区域を合わせた区域のいずれかによることを基本とし、条例で定める。
2 前項の選挙区は、その人口が当該都道府県の人口を当該都道府県の議会の議員の定数をもつて除して得た数(以下この条において「議員一人当たりの人口」という。)の半数以上になるようにしなければならない。この場合において、一の市の区域の人口が議員一人当たりの人口の半数に達しないときは、隣接する他の市町村の区域と合わせて一選挙区を設けるものとする。
3 一の市の区域の人口が議員一人当たりの人口の半数以上であつても議員一人当たりの人口に達しないときは、隣接する他の市町村の区域と合わせて一選挙区を設けることができる。
4 一の町村の区域の人口が議員一人当たりの人口の半数以上であるときは、当該町村の区域をもつて一選挙区とすることができる。
5 一の市町村(地方自治法第二百五十二条の十九第一項の指定都市(以下「指定都市」という。)にあつては、区(総合区を含む。第六項及び第九項において同じ。)。以下この項において同じ。)の区域が二以上の衆議院(小選挙区選出)議員の選挙区に属する区域に分かれている場合における前各項の規定の適用については、当該各区域を市町村の区域とみなすことができる。
6 市町村は、特に必要があるときは、その議会の議員の選挙につき、条例で選挙区を設けることができる。ただし、指定都市については、区の区域をもつて選挙区とする。
7 第一項から第四項まで又は前項の規定により選挙区を設ける場合においては、行政区画、衆議院(小選挙区選出)議員の選挙区、地勢、交通等の事情を総合的に考慮して合理的に行わなければならない。
8 各選挙区において選挙すべき地方公共団体の議会の議員の数は、人口に比例して、条例で定めなければならない。ただし、特別の事情があるときは、おおむね人口を基準とし、地域間の均衡を考慮して定めることができる。
9 指定都市に対し第一項から第三項までの規定を適用する場合における市の区域(市町村の区域に係るものを含む。)は、当該指定都市の区域を二以上の区域に分けた区域とする。この場合において、当該指定都市の区域を分けるに当たつては、第五項の場合を除き、区の区域を分割しないものとする。
10 前各項に定めるもののほか、地方公共団体の議会の議員の選挙区及び各選挙区において選挙すべき議員の数に関し必要な事項は、政令で定める。
(特別区の特例)
第二百六十六条 この法律中市に関する規定は、特別区に適用する。この場合において、第三十三条第三項中「第六条の二第四項又は第七条第七項」とあるのは、「第二百八十一条の四第六項(同条第九項において準用する場合を含む。)又は大都市地域における特別区の設置に関する法律(平成二十四年法律第八十号)第九条第二項」とする。
2 都の議会の議員の各選挙区において選挙すべき議員の数については、特別区の存する区域以外の区域を区域とする各選挙区において選挙すべき議員の数を、特別区の存する区域を一の選挙区とみなして定め、特別区の区域を区域とする各選挙区において選挙すべき議員の数を、特別区の存する区域を一の選挙区とみなした場合において当該区域において選挙すべきこととなる議員の数を特別区の区域を区域とする各選挙区に配分することにより定めることができる。
(都道府県の議会の議員の選挙区の特例)
第二百七十一条 昭和四十一年一月一日現在において設けられている都道府県の議会の議員の選挙区については、当該区域の人口が当該都道府県の人口を当該都道府県の議会の議員の定数をもつて除して得た数の半数に達しなくなつた場合においても、当分の間、第十五条第二項前段の規定にかかわらず、当該区域をもつて一選挙区を設けることができる。
憲法
第十四条 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
② 華族その他の貴族の制度は、これを認めない。
③ 栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴はない。栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受ける者の一代に限り、その効力を有する。
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告人の上告理由及び上告受理申立て理由について
1 本件は、東京都議会議員の定数並びに選挙区及び各選挙区における議員の数に関する条例(昭和44年東京都条例第55号。以下「本件条例」という。)に基づいて令和3年7月4日に行われた東京都議会議員一般選挙(以下「本件選挙」という。)について、江東区選挙区の選挙人である上告人が、本件選挙当時、本件条例のうち、①大島町、利島村、新島村、神津島村、三宅村、御蔵島村、八丈町、青ヶ島村及び小笠原村の区域(以下「島しょ部」という。)を合わせて1選挙区(島部選挙区)とする規定(2条3項。以下「本件島部選挙区規定」という。)が公職選挙法271条、憲法14条1項等に違反するとともに、②各選挙区において選挙する議員の数を定める規定(3条。以下「本件定数配分規定」という。)が公職選挙法15条8項、憲法14条1項等に違反すると主張して、これらに基づき行われた本件選挙の江東区選挙区における選挙を無効とすること等を求める事案である。
2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。
(1) 都道府県議会の議員の定数については、地方自治法において、条例で定めるものとされている(90条1項)。
そして、都道府県議会の議員の選挙区については、公職選挙法において、一の市の区域、一の市の区域と隣接する町村の区域を合わせた区域又は隣接する町村の区域を合わせた区域のいずれかによることを基本とし、条例で定めるものとされ(15条1項)、選挙区は、その人口が当該都道府県の人口を当該都道府県議会の議員の定数をもって除して得た数(以下「議員1人当たりの人口」といい、当該選挙区の人口を議員1人当たりの人口で除して得た数を「配当基数」という。)の半数以上になるようにしなければならないが(同条2項前段)、昭和41年1月1日当時において設けられていた選挙区については、当該区域の人口が議員1人当たりの人口の半数に達しなくなった場合においても、当分の間、当該区域をもって1選挙区を設けることができるものとされている(271条。以下、この規定によって存置が認められた選挙区を「特例選挙区」という。)。なお、特別区については、市に関する規定が適用される(同法266条1項)。
上記各規定等により定められた各選挙区において選挙すべき議員の数については、公職選挙法において、人口に比例して、条例で定めなければならないが(15条8項本文)、特別の事情があるときは、おおむね人口を基準とし、地域間の均衡を考慮して定めることができるものとされている(同項ただし書)。
(2)ア 本件選挙当時、本件条例の定める選挙区及び各選挙区における議員の数は、原判決別紙1「都議会議員選挙区別議員1人当たりの人口及び較差」の「選挙区」欄及び「条例定数」欄記載のとおりであり、島部選挙区を含む42選挙区に127人の定数が配分されている。
イ 島部選挙区は、昭和44年の本件条例の制定当時から、特例選挙区として存置されていたところ、東京都議会に設置された都議会のあり方検討会は、平成24年6月19日、東京都議会に対し、島部選挙区について、その地理的特殊性等を考慮して特例選挙区とされてきたもので、これを見直す状況には至っていないことから引き続き特例選挙区として存置すべきであるとの検討結果を報告した。
ウ 本件条例については、令和2年東京都条例第80号により、2選挙区の定数を1増1減する改正がされた(以下「令和2年条例改正」という。)。なお、島部選挙区の配当基数は、令和2年条例改正当時、0.249(以下、配当基数に関する数値は概算である。)であったが、令和2年条例改正において、島部選挙区に関する改正はされていない。
3(1) 前記2(1)の各規定に照らせば、特例選挙区の設置を適法なものとして是認し得るか否かは、その設置についての都道府県議会の判断が、当該都道府県の行政施策の遂行上当該地域からの代表を確保する必要性の有無・程度、隣接する他の市町村の区域との合区の困難性の有無・程度等に照らし、当該都道府県全体の調和ある発展を図るなどの観点からする裁量権の合理的な行使として是認されるかどうかによって決すべきものである(最高裁平成4年(行ツ)第172号同5年10月22日第二小法廷判決・民集47巻8号5147頁等参照)。
(2) 前記事実関係等によれば、島部選挙区は、本件条例制定当時から特例選挙区として存置されているが、これは、島しょ部は、離島として、その自然環境や社会、経済の状況が東京都の他の地域と大きく異なり、特有の行政需要を有することから、東京都の行政施策の遂行上、島しょ部から選出される代表を確保する必要性が高いものと認められる一方、その地理的状況から、他の市町村の区域との合区が、地続きの場合に比して相当に困難であることなどが考慮されてきたものということができる。そして、東京都議会は、都議会のあり方検討会での検討を経た上で、令和2年条例改正の際にも、島部選挙区の配当基数は小さいものの、島しょ部の地理的特殊性等に照らし、島部選挙区を引き続き特例選挙区として存置することを決定したものとうかがわれる。本件選挙の直近に行われた令和2年の国勢調査の人口等基本集計による人口に基づいて計算すると(公職選挙法施行令144条参照)、島部選挙区の配当基数は、0.221となるが、以上で説示したところに鑑みれば、この配当基数が、東京都議会において島部選挙区を特例選挙区として存置することが許されない程度にまで至っているとはいえない。他に、同議会が令和2年条例改正後の本件条例において島部選挙区を特例選挙区として存置していたことが社会通念上著しく不合理であることが明らかであると認めるべき事情もうかがわれない。
以上によれば、東京都議会が、島部選挙区を特例選挙区として存置していたことは、同議会に与えられた裁量権の合理的な行使として是認することができる。したがって、本件島部選挙区規定は、本件選挙当時、公職選挙法271条に違反していたものとはいえない。
4(1) 公職選挙法15条8項は、憲法の要請を受け、都道府県議会の議員の定数の各選挙区に対する配分につき、人口比例を最も重要かつ基本的な基準とし、投票価値の平等を強く要求していると解されるところ、前記2(1)の各規定に照らせば、条例の定める定数配分が同項の規定に適合するかどうかについては、都道府県議会の具体的に定めるところが、上記各規定の定める選挙制度の下における裁量権の合理的な行使として是認されるかどうかによって決せられるべきものと解される。
(2) 本件定数配分規定は、公職選挙法15条8項ただし書を適用して各選挙区に対する定数の配分を定めたものと解されるところ、令和2年の国勢調査の人口等基本集計による人口に基づいて計算すると、本件定数配分規定においては、特例選挙区以外の選挙区間の議員1人当たりの人口の最大較差は1対2.54(以下、較差に関する数値は概算である。)であって、人口比定数(配当基数に応じて同項本文の人口比例原則を適用した場合に各選挙区に配分されることとなる定数)による特例選挙区以外の選挙区間の議員1人当たりの人口の最大較差と差異がなく、また、6選挙区において人口比定数との差異がみられたが、その差はいずれも1人であり、いわゆる逆転現象は3通りにとどまり、定数差はいずれも1人であった。そうすると、前記2(1)の各規定の定める選挙制度の下においては、本件選挙当時における投票価値の不平等は、東京都議会において地域間の均衡を図るために通常考慮し得る諸般の要素をしんしゃくしてもなお一般的に合理性を有するものとは考えられない程度に達していたものとはいえず、また、令和2年条例改正時及び本件選挙当時において、同項ただし書に定める特別の事情があるとの評価が合理性を欠いていたなどというべき事情は見当たらない。
以上によれば、本件選挙の施行前に本件定数配分規定を改正しなかったことは、東京都議会に与えられた裁量権の合理的な行使として是認することができる。したがって、本件定数配分規定は、本件選挙当時、公職選挙法15条8項に違反していたものとはいえない。
5 所論は、さらに、本件選挙当時、本件島部選挙区規定及び本件定数配分規定が憲法14条1項、15条1項、3項、92条及び93条に違反する旨をいう。
しかしながら、本件選挙当時の本件条例による特例選挙区の存置や各選挙区に対する定数の配分が東京都議会に与えられた裁量権の合理的な行使として是認することができることは、前記3(2)及び4(2)において説示したとおりであり、本件選挙当時、本件島部選挙区規定及び本件定数配分規定が憲法の上記各規定に違反していたものとはいえないことは、当裁判所大法廷判決(最高裁平成11年(行ツ)第7号同年11月10日大法廷判決・民集53巻8号1441頁等)の趣旨に徴して明らかというべきである(最高裁平成30年(行ツ)第92号、同年(行ヒ)第108号同31年2月5日第三小法廷判決・裁判集民事261号17頁参照)。
6 以上の次第であるから、本件請求を棄却した原審の判断は、結論において是認することができる。論旨は、いずれも採用することができない。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。