税務署長がした処分に対する異議申立棄却決定が判決によって取り消された場合と昭和45年改正前の国税通則法80条1項1号の適用
異議申立棄却決定取消請求事件
【事件番号】 最高裁判所第2小法廷判決/昭和42年(行ツ)第7号
【判決日付】 昭和49年7月19日
【判示事項】 一、税務署長がした処分に対する異議申立棄却決定が判決によって取り消された場合と昭和45年法律第8号による改正前の国税通則法80条1項1号の適用
ニ、税務署長がした処分につき適法な理由附記のある審査請求棄却の裁決があった場合と右処分に対する異議申立棄却決定につき理由附記の不備を主張してその取消を求める訴の利益
【判決要旨】 一、税務署長がした処分に対する異議申立を棄却する決定が判決によって取り消された場合において、右判決確定の時当初の異議申立から既に3月を経過していても、右異議申立は、昭和45年法律第8号による改正前の国税通則法80条1項1号の規定により当然に審査請求に移行するものではない。
ニ、税務署長がした処分につき適法な理由附記のある審査請求棄却の裁決があっても、右処分に対する異議申立棄却決定につき理由附記の不備を主張してその取消を求める訴の利益は失われない。
【参照条文】 国税通則法(昭和45年法律第8号による改正前のもの)80-1
行政事件訴訟法33-2
国税通則法84-4
国税通則法(昭和45年法律第8号による改正前のもの)75
行政不服審査法41-1
行政不服審査法48
【掲載誌】 最高裁判所民事判例集28巻5号759頁
本判決は、法が不服申立人の異議手続によつて救済を求める利益を権利として尊重する趣旨であることは明らかである、審査請求棄却裁決の理由附記によつて異議決定庁の慎重公平な判断を受ける利益がみたされるわけではない。
とし、審査請求棄却の裁決があつても異議決定庁は独自の審理判断に基づいて自ら原処分の取消変更をすることを妨げられないから、その可能性が残されているかぎり、異議申立棄却決定につきその理由附記の不備の瑕疵を主張してその取消しを求める訴えの利益は失われるものではない。
と判示した。
国税通則法
(国税に関する処分についての不服申立て)
第七十五条 国税に関する法律に基づく処分で次の各号に掲げるものに不服がある者は、当該各号に定める不服申立てをすることができる。
一 税務署長、国税局長又は税関長がした処分(次項に規定する処分を除く。) 次に掲げる不服申立てのうちその処分に不服がある者の選択するいずれかの不服申立て
イ その処分をした税務署長、国税局長又は税関長に対する再調査の請求
ロ 国税不服審判所長に対する審査請求
二 国税庁長官がした処分 国税庁長官に対する審査請求
三 国税庁、国税局、税務署及び税関以外の行政機関の長又はその職員がした処分 国税不服審判所長に対する審査請求
2 国税に関する法律に基づき税務署長がした処分で、その処分に係る事項に関する調査が次の各号に掲げる職員によつてされた旨の記載がある書面により通知されたものに不服がある者は、当該各号に定める国税局長又は国税庁長官がその処分をしたものとそれぞれみなして、国税局長がしたものとみなされた処分については当該国税局長に対する再調査の請求又は国税不服審判所長に対する審査請求のうちその処分に不服がある者の選択するいずれかの不服申立てをし、国税庁長官がしたものとみなされた処分については国税庁長官に対する審査請求をすることができる。
一 国税局の当該職員 その処分をした税務署長の管轄区域を所轄する国税局長
二 国税庁の当該職員 国税庁長官
3 第一項第一号イ又は前項(第一号に係る部分に限る。)の規定による再調査の請求(法定の再調査の請求期間経過後にされたものその他その請求が適法にされていないものを除く。次項において同じ。)についての決定があつた場合において、当該再調査の請求をした者が当該決定を経た後の処分になお不服があるときは、その者は、国税不服審判所長に対して審査請求をすることができる。
4 第一項第一号イ又は第二項(第一号に係る部分に限る。)の規定による再調査の請求をしている者は、次の各号のいずれかに該当する場合には、当該再調査の請求に係る処分について、決定を経ないで、国税不服審判所長に対して審査請求をすることができる。
一 再調査の請求をした日(第八十一条第三項(再調査の請求書の記載事項等)の規定により不備を補正すべきことを求められた場合にあつては、当該不備を補正した日)の翌日から起算して三月を経過しても当該再調査の請求についての決定がない場合
二 その他再調査の請求についての決定を経ないことにつき正当な理由がある場合
5 国税に関する法律に基づく処分で国税庁、国税局、税務署又は税関の職員がしたものに不服がある場合には、それぞれその職員の所属する国税庁、国税局、税務署又は税関の長がその処分をしたものとみなして、第一項の規定を適用する。
第八十四条 再調査審理庁は、再調査の請求人又は参加人(第百九条第三項(参加人)に規定する参加人をいう。以下この款及び次款において同じ。)から申立てがあつた場合には、当該申立てをした者(以下この条において「申立人」という。)に口頭で再調査の請求に係る事件に関する意見を述べる機会を与えなければならない。ただし、当該申立人の所在その他の事情により当該意見を述べる機会を与えることが困難であると認められる場合には、この限りでない。
2 前項本文の規定による意見の陳述(以下この条において「口頭意見陳述」という。)は、再調査審理庁が期日及び場所を指定し、再調査の請求人及び参加人を招集してさせるものとする。
3 口頭意見陳述において、申立人は、再調査審理庁の許可を得て、補佐人とともに出頭することができる。
4 再調査審理庁は、必要があると認める場合には、その行政機関の職員に口頭意見陳述を聴かせることができる。
5 口頭意見陳述において、再調査審理庁又は前項の職員は、申立人のする陳述が事件に関係のない事項にわたる場合その他相当でない場合には、これを制限することができる。
6 再調査の請求人又は参加人は、証拠書類又は証拠物を提出することができる。この場合において、再調査審理庁が、証拠書類又は証拠物を提出すべき相当の期間を定めたときは、その期間内にこれを提出しなければならない。
7 再調査の請求についての決定は、主文及び理由を記載し、再調査審理庁が記名押印した再調査決定書によりしなければならない。
8 再調査の請求についての決定で当該再調査の請求に係る処分の全部又は一部を維持する場合における前項に規定する理由においては、その維持される処分を正当とする理由が明らかにされていなければならない。
9 再調査審理庁は、第七項の再調査決定書(再調査の請求に係る処分の全部を取り消す決定に係るものを除く。)に、再調査の請求に係る処分につき国税不服審判所長に対して審査請求をすることができる旨(却下の決定である場合にあつては、当該却下の決定が違法な場合に限り審査請求をすることができる旨)及び審査請求期間を記載して、これらを教示しなければならない。
10 再調査の請求についての決定は、再調査の請求人(当該再調査の請求が処分の相手方以外の者のしたものである場合における前条第三項の規定による決定にあつては、再調査の請求人及び処分の相手方)に再調査決定書の謄本が送達された時に、その効力を生ずる。
11 再調査審理庁は、再調査決定書の謄本を参加人に送付しなければならない。
12 再調査審理庁は、再調査の請求についての決定をしたときは、速やかに、第六項の規定により提出された証拠書類又は証拠物をその提出人に返還しなければならない。
(不服申立期間)
第七十七条 不服申立て(第七十五条第三項及び第四項(再調査の請求後にする審査請求)の規定による審査請求を除く。第三項において同じ。)は、処分があつたことを知つた日(処分に係る通知を受けた場合には、その受けた日)の翌日から起算して三月を経過したときは、することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。
2 第七十五条第三項の規定による審査請求は、第八十四条第十項(決定の手続等)の規定による再調査決定書の謄本の送達があつた日の翌日から起算して一月を経過したときは、することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。
3 不服申立ては、処分があつた日の翌日から起算して一年を経過したときは、することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。
4 第二十二条(郵送等に係る納税申告書等の提出時期)の規定は、不服申立てに係る再調査の請求書又は審査請求書について準用する。
(不服申立ての前置等)
第百十五条 国税に関する法律に基づく処分(第八十条第三項(行政不服審査法との関係)に規定する処分を除く。以下この節において同じ。)で不服申立てをすることができるものの取消しを求める訴えは、審査請求についての裁決を経た後でなければ、提起することができない。ただし、次の各号のいずれかに該当するときは、この限りでない。
一 国税不服審判所長又は国税庁長官に対して審査請求がされた日の翌日から起算して三月を経過しても裁決がないとき。
二 更正決定等の取消しを求める訴えを提起した者が、その訴訟の係属している間に当該更正決定等に係る国税の課税標準等又は税額等についてされた他の更正決定等の取消しを求めようとするとき。
三 審査請求についての裁決を経ることにより生ずる著しい損害を避けるため緊急の必要があるとき、その他その裁決を経ないことにつき正当な理由があるとき。
2 国税に関する法律に基づく処分についてされた再調査の請求又は審査請求について決定又は裁決をした者は、その決定又は裁決をした時にその処分についての訴訟が係属している場合には、その再調査決定書又は裁決書の謄本をその訴訟が係属している裁判所に送付するものとする。
行政事件訴訟法
(原告適格)
第九条 処分の取消しの訴え及び裁決の取消しの訴え(以下「取消訴訟」という。)は、当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者(処分又は裁決の効果が期間の経過その他の理由によりなくなつた後においてもなお処分又は裁決の取消しによつて回復すべき法律上の利益を有する者を含む。)に限り、提起することができる。
2 裁判所は、処分又は裁決の相手方以外の者について前項に規定する法律上の利益の有無を判断するに当たつては、当該処分又は裁決の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮するものとする。この場合において、当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たつては、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌するものとし、当該利益の内容及び性質を考慮するに当たつては、当該処分又は裁決がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案するものとする。
第三十三条 処分又は裁決を取り消す判決は、その事件について、処分又は裁決をした行政庁その他の関係行政庁を拘束する。
2 申請を却下し若しくは棄却した処分又は審査請求を却下し若しくは棄却した裁決が判決により取り消されたときは、その処分又は裁決をした行政庁は、判決の趣旨に従い、改めて申請に対する処分又は審査請求に対する裁決をしなければならない。
3 前項の規定は、申請に基づいてした処分又は審査請求を認容した裁決が判決により手続に違法があることを理由として取り消された場合に準用する。
4 第一項の規定は、執行停止の決定に準用する。
行政不服審査法
(審理手続の終結)
第四十一条 審理員は、必要な審理を終えたと認めるときは、審理手続を終結するものとする。
2 前項に定めるもののほか、審理員は、次の各号のいずれかに該当するときは、審理手続を終結することができる。
一 次のイからホまでに掲げる規定の相当の期間内に、当該イからホまでに定める物件が提出されない場合において、更に一定の期間を示して、当該物件の提出を求めたにもかかわらず、当該提出期間内に当該物件が提出されなかったとき。
イ 第二十九条第二項 弁明書
ロ 第三十条第一項後段 反論書
ハ 第三十条第二項後段 意見書
ニ 第三十二条第三項 証拠書類若しくは証拠物又は書類その他の物件
ホ 第三十三条前段 書類その他の物件
二 申立人が、正当な理由なく、口頭意見陳述に出頭しないとき。
3 審理員が前二項の規定により審理手続を終結したときは、速やかに、審理関係人に対し、審理手続を終結した旨並びに次条第一項に規定する審理員意見書及び事件記録(審査請求書、弁明書その他審査請求に係る事件に関する書類その他の物件のうち政令で定めるものをいう。同条第二項及び第四十三条第二項において同じ。)を審査庁に提出する予定時期を通知するものとする。当該予定時期を変更したときも、同様とする。
(不利益変更の禁止)
第四十八条 第四十六条第一項本文又は前条の場合において、審査庁は、審査請求人の不利益に当該処分を変更し、又は当該事実上の行為を変更すべき旨を命じ、若しくはこれを変更することはできない。
主 文
原判決中、上告人が被上告人に対してした昭和三七年五月一日から昭和三八年四月三〇日までの事業年度分法人税額の更正処分及び加算税の賦課決定処分のうち昭和四〇年九月一七日付裁決によつて取り消された部分についての異議申立棄却決定の取消しを求める請求に関する部分を破棄する。
前項記載の破棄部分につき被上告人の控訴を棄却する。
その余の部分に関する上告人の上告を棄却する。
第一項記載の部分に関する控訴費用、上告費用は被上告人の負担とし、第三項記載の部分に関する上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告指定代理人上田明信、同横山茂晴、同山田保明の上告理由第一点について。
所論は、要するに、原判決が、本件各異議申立棄却決定(以下、本件各決定という。)が判決によつて取り消されたとしても、昭和四五年法律第八号による改正前の国税通則法(以下、単に「旧法」という。なお、同改正後の国税通則法を、以下、単に「新法」という。)八〇条一項一号の適用の余地はないとしたのは、法律の解釈を誤つたものである、というのである。
案ずるに、旧法七六条一項、七九条三項、八七条一項(新法七五条一、三項、七七条一、二項、一一五条一項)は、国税に関する法律に基づく税務署長の処分(以下、原処分という。)に対する不服申立方法として異議申立て及び審査請求の手続を設け、原則としてこの二段階の不服手続を経たのちでなければ原処分の取消訴訟を提起することができない旨を定めているが、その趣旨は、国税の賦課に関する処分が大量かつ回帰的なものであり、当初の処分が必ずしも十分な資料と調査に基づいてされえない場合があることにかんがみ、まず、事案を熟知し、事実関係の究明に便利な地位にある原処分庁に対する不服手続によつてこれに再審理の機会を与え、処分を受ける者に簡易かつ迅速な救済を受ける道を開き、その結果なお原処分に不服がある場合に審査裁決庁の裁決を受けさせることとし、一面において審査裁決庁の負担の軽減をはかるとともに、他面において納税者の権利救済につき特別の考慮を払う目的に出たものであり、租税行政の特殊性を考慮し、その合理的対策としてとられた制度であることは明らかである。ところで、異議申立てをした場合に、申立後三月を経過してもこれについての決定がされないときは、異議申立人が別段の申出をした場合を除き、審査請求がされたものとみなす旨を規定している旧法八〇条一項一号も、このような法の趣旨、目的を反映しているのであつて、不服申立人を行政救済手続の遅延による不利益からまもるとともに、他面において行政手続経済の合理化をはかることにその主たる目的があることはいうまでもないが、この場合に異議手続による救済を全く無意味かつ不要とするものではなく、不服申立人がこの手続による救済を求める利益をも重視し、これを権利として尊重する趣旨であることは、前記規定が審査請求とみなす効果の発生を異議申立人の意思にかからしめ、異議決定が遅延したときは、その選択により、異議決定を省略して審査裁決を受けることもでき、また、あくまでまず異議手続による救済を求めることもできることとしていることからも明らかである。そして、国税通則法は、旧法、新法いずれも審査請求によつては異議決定固有の瑕疵を争うことを認めていない(旧法七九条三、五項、七六条五項一号、新法七五条三項、七六条一号)のであるから、右瑕疵を是正するためには、右決定自体の取消訴訟を提起するほかなく、またこのような訴えは、それ自体固有の利益をもつ訴えとして許されるのである。
このようにみてくると、異議申立人が異議決定取消しの判決をえ、その判決により異議決定が遡つて効力を失う結果として、異議申立ての時から三月以内に決定がされていない状態に復帰することがあつても、その場合に、旧法八〇条一項一号により審査手続に移行するものと解するとすれば、異議決定庁がその拘束を受ける取消判決の趣旨を没却させ、異議手続による救済を求める申立人の権利を認めないのと同一の結果に帰着することとなるのであるから、このような解釈は、法の趣旨、目的に反し、採ることができない。すなわち、取消判決の確定が異議申立ての時から既に三月を経過していても直ちに当然に審査手続に移行するものではなく、異議手続は依然として係属し、異議決定庁は、これに対して改めて適法な審理、決定をすべき拘束を受けるものと解すべきである。
したがつて、被上告人のした各異議申立ては、本件各決定が判決によつて取り消されても、旧法八〇条一項一号の規定により審査請求に移行するものでないとした原審の判断は、結局正当であり、右と異なる見解に立つ論旨は、採用することができない。
同第二点について。
所論は、要するに、十分な理由が附記された裁決により原処分が適法妥当と認められた場合には、法が異議決定に理由の附記を求める趣旨は実質的に充足されたものといいうるとともに、異議決定庁が原処分の取消決定をすることは事実上殆んど期待しえないから、異議決定の取消しを求める訴えの利益は失われるものと解すべきであるのに、本件各決定の取消しを求める訴えの利益肯認した原判決は、法律の解釈を誤つたものである、というのである。
旧法七五条、行政不服審査法四八条、四一条一項(新法八四条四項、一〇一条一項)が異議決定、審査裁決に理由を附記すべきものとしているのは、異議決定庁、審査裁決庁の判断の慎重、公正を期し、その恣意を抑制するとともに、決定、裁決の理由を明示することによつて不服申立人に原処分に対する不服申立てないしは取消訴訟の提起に関して判断資料を与える趣旨に出たものと解される。したがつて、異議決定、審査裁決の理由附記に不備がある場合には、当該決定、裁決はそれぞれ固有の瑕疵あるものとして違法となり、不服申立人はその決定、裁決の取消しを求めることができるのであるが、異議決定にこのような瑕疵がある場合、のちにされた審査裁決に適法な理由附記があつたからといつて、それは審査裁決庁の原処分に対する判断の理由を明らかにしたのにとどまり、異議決定の右瑕疵がこれによつて当然に治癒されるわけではなく、また、異議決定庁の原処分に対する判断の理由附記によつてその慎重、公正な判断を受ける利益は、このような審査裁決の理由附記によつてみたされるものということはできないのであるから、単なる形式の追完を求める利益を有するにすぎないとして異議決定取消訴訟の利益を否定することは当をえたものということができない。また、原処分を取消し又は変更する裁決は、異議決定庁を拘束するが(旧法七五条、行政不服審査法四三条、新法一〇二条)、原処分を適法と認めて審査請求を棄却する裁決があつても、異議決定庁は独自の審理判断に基づいて自ら原処分を取消し又は変更することを妨げないものと解すべきであつて、その可能性が残されているかぎり、異議申立人は異議決定庁に対し、更に原処分の取消し又は変更を求める利益を依然として保有しているものといわなければならない。それゆえ、原処分を維持して審査請求を棄却する裁決があり、これに適法な理由附記があつたとしても、これによつて、異議申立人が異議決定における理由附記の不備の瑕疵を主張してその取消しを求める訴えの利益は失われるものではないというべきである。ところで、異議決定を経たのちの原処分に対してされた審査請求につき、原処分の全部又は一部を取り消す旨の裁決がされたときは、遡つてその効力が失われる結果、右原処分を維持した異議申立棄却決定の取消しを求める訴えは、その限度においてその利益が失われるものと解するのが相当である。
これを本件についてみるに、原審の確定するところによれば、被上告人は、本件各決定後の各原処分(法人税額の更正処分及び加算税の決定処分)につき東京国税局長に対して審査請求をし、同国税局長は、(イ)昭和三五年五月一日から昭和三六年四月三〇日まで及び(ロ)昭和三六年五月一日から昭和三七年四月三〇日までの各事業年度分に関する各原処分に対する審査請求については、それぞれ棄却の裁決を、(ハ)昭和三七年五月一日から昭和三八年四月三〇日までの事業年度分に関する原処分に対する審査請求については、原処分のうち所得金額一七二万五二四六円をこえる部分を取り消し、その余の部分についての審査請求を棄却する裁決をしたというのである。そうすると、右(イ)(ロ)両事業年度分に関する各異議決定及び(ハ)事業年度分に関する異議決定中、右裁決によつて審査請求が棄却された部分の原処分に関する部分については、被上告人がその取消しを求める訴えの利益を有するとした原判決の判断は正当である。しかし、右(ハ)事業年度分に関する異議決定中、前記裁決により取り消された部分の原処分に関する部分については、既にその取消しを求める訴えの利益は失われているのであるから、なおその利益があるとした原判決は法律の解釈を誤つたものといわなければならない。したがつて、原判決中、右部分については原判決を破棄すべく、当該部分につき訴えを却下した第一審判決は結局正当であるので、右部分に関する控訴を棄却し、その余の部分に関する上告人の上告を棄却すべきものである。
よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇八条、三九六条、三八四条、八九条、九六条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
最高裁判所第二小法廷