本件は,訴外亡Aの子である原告らが,亡Aの葬儀を行った社会福祉法人である被告に対し,被告は原告ら | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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本件は,訴外亡Aの子である原告らが,亡Aの葬儀を行った社会福祉法人である被告に対し,被告は原告らに対し亡Aの葬儀において「納棺の儀」を実施するかについて意向確認をせず,原告らが依頼した「旅支度」をあえて実施しないなど,原告らの宗教感情を著しく毀損する不法行為を行ったと主張して,慰謝料,弁護士費用及び遅延損害金の支払を求める事案である。

 

 

              損害賠償請求事件

【事件番号】      東京地方裁判所判決/平成30年(ワ)第17407号

【判決日付】      令和元年8月20日

【掲載誌】        LLI/DB 判例秘書登載

 

 

民法

(不法行為による損害賠償)

第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

(財産以外の損害の賠償)

第七百十条 他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。

 

 

 

       主   文

 

 1 被告は,原告X1に対し,11万円及びこれに対する平成27年5月23日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。

 2 被告は,原告X2に対し,11万円及びこれに対する平成27年5月23日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。

 3 原告らのその余の請求を棄却する。

 4 訴訟費用は,これを15分し,その1を被告の負担とし,その余を原告らの負担とする。

 5 この判決は,前記第1項及び同第2項に限り,仮に執行することができる。

 

       事実及び理由

 

第1 請求

   被告は,原告らに対し,それぞれ165万円及びこれに対する平成27年5月23日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

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 1 前提事実(争いのない事実又は各項掲記の証拠等により容易に認定することのできる事実)

  (1)当事者等

   ア 原告らの父である訴外亡A(以下「亡A」という。)は,平成27年5月17日,死去した。亡Aは,清瀬市から生活保護費を受給していた。

   イ 被告は,大正8年11月6日に設立され,多様な福祉サービスがその利用者の意向を尊重して総合的に提供されるように創意工夫することにより,利用者が,個人の尊厳を保持しつつ,自立した生活を地域社会において営むことができるよう支援することを目的として,助葬事業の経営,特別養護老人ホームの経営等を行う社会福祉法人である。

  (2)被告は,社会福祉法上の社会福祉事業として,生活保護法の被保護者に対し,生活保護法18条1項の「葬祭扶助」に基づいて,葬祭援助事業を行っていた(乙4,以下,この助葬事業による葬儀を「生活保護葬」という。)。生活保護葬においては,通夜等の儀式的なことは行われず,基本的に火葬のみが実施されることとなっていた(乙4,証人B)。

  (3)原告X1は,平成27年5月17日,被告に対し,亡Aについて生活保護葬の実施を依頼し,同月18日,清瀬市から生活保護葬の承認がされたことから,被告は,原告らに対し,これを実施する旨連絡した(以下,被告が亡Aについて行った葬儀を「本件生活保護葬」という。)。原告らは,同日,被告に対し,亡Aの遺体に旅支度(納棺の儀の一環として,故人が四十九日の旅に出るために,慣習として白装束等を着せるといった支度を行うこと。)を施すことを依頼した。これに対し,被告担当者のBは,遺体の着せ替えはできないので,上からかけるだけとなる旨回答した。

    また,原告X1は,被告に対し,自らの出捐で,献花,遺影の作成,初七日法要の実施を依頼した。

  (4)被告は,平成27年5月23日,東京都府中市のC葬祭場で,亡Aの葬儀を運営したが,それまでに納棺の儀は実施されず,亡Aの遺体に旅支度はされておらず,亡Aはそのまま火葬された。