旅客自動車運送事業運輸規則22条に基づき近畿運輸局長が地域を指定し,乗務距離の最高限度を具体的に定めた公示(以下「本件公示」という。)は,行政事件訴訟法3条2項にいう処分に当たらないとされた事例
一般乗用旅客自動車運送事業の乗務距離の最高限度を定める公示処分の取消等請求事件(甲事件),事業用自動車の使用停止処分差止等請求事件(乙事件)
【事件番号】 大阪地方裁判所判決/平成22年(行ウ)第58号
【判決日付】 平成25年7月4日
【判示事項】 1 旅客自動車運送事業運輸規則22条に基づき近畿運輸局長が地域を指定し,乗務距離の最高限度を具体的に定めた公示(以下「本件公示」という。)は,行政事件訴訟法3条2項にいう処分に当たらないとされた事例
2 乗務距離の最高限度規制に違反したことを理由とする不利益処分の差止めの訴えにつき,不利益処分の蓋然性ないし重大な損害要件を満たさないとして却下された事例
3 本件公示のうち日勤勤務運転者の乗務距離の最高限度を1乗務当たり250kmと定めた部分,高速自動車国道及び自動車専用道路の利用距離の取扱いに関する部分は合理性を欠くものであって,近畿運輸局長の裁量権の範囲を逸脱しているとして,一般乗用旅客自動車運送事業(タクシー業)原告と被告との間で,原告がその日勤勤務運転者に対し,1乗務当たり250kmを超えて乗務させることのできる地位にあることを確認した事例
4 本件公示の定める乗務距離の最高限度を超えて運転者を事業用自動車に乗務させていたことを理由に近畿運輸局長が一般乗用旅客自動車運送事業を営む原告に対してした輸送施設の使用停止処分を取り消した事例
【掲載誌】 LLI/DB 判例秘書登載
【評釈論文】 法学セミナー58巻12号113頁
行政事件訴訟法
(抗告訴訟)
第三条 この法律において「抗告訴訟」とは、行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟をいう。
2 この法律において「処分の取消しの訴え」とは、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為(次項に規定する裁決、決定その他の行為を除く。以下単に「処分」という。)の取消しを求める訴訟をいう。
3 この法律において「裁決の取消しの訴え」とは、審査請求その他の不服申立て(以下単に「審査請求」という。)に対する行政庁の裁決、決定その他の行為(以下単に「裁決」という。)の取消しを求める訴訟をいう。
4 この法律において「無効等確認の訴え」とは、処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無の確認を求める訴訟をいう。
5 この法律において「不作為の違法確認の訴え」とは、行政庁が法令に基づく申請に対し、相当の期間内に何らかの処分又は裁決をすべきであるにかかわらず、これをしないことについての違法の確認を求める訴訟をいう。
6 この法律において「義務付けの訴え」とは、次に掲げる場合において、行政庁がその処分又は裁決をすべき旨を命ずることを求める訴訟をいう。
一 行政庁が一定の処分をすべきであるにかかわらずこれがされないとき(次号に掲げる場合を除く。)。
二 行政庁に対し一定の処分又は裁決を求める旨の法令に基づく申請又は審査請求がされた場合において、当該行政庁がその処分又は裁決をすべきであるにかかわらずこれがされないとき。
7 この法律において「差止めの訴え」とは、行政庁が一定の処分又は裁決をすべきでないにかかわらずこれがされようとしている場合において、行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨を命ずることを求める訴訟をいう。
道路運送法
(輸送の安全等)
第二十七条 一般旅客自動車運送事業者は、事業計画(路線定期運行を行う一般乗合旅客自動車運送事業者にあつては、事業計画及び運行計画)の遂行に必要となる員数の運転者の確保、事業用自動車の運転者がその休憩又は睡眠のために利用することができる施設の整備、事業用自動車の運転者の適切な勤務時間及び乗務時間の設定その他の運行の管理その他事業用自動車の運転者の過労運転を防止するために必要な措置を講じなければならない。
2 一般旅客自動車運送事業者は、事業用自動車の運転者が疾病により安全な運転ができないおそれがある状態で事業用自動車を運転することを防止するために必要な医学的知見に基づく措置を講じなければならない。
3 前二項に規定するもののほか、一般旅客自動車運送事業者は、事業用自動車の運転者、車掌その他旅客又は公衆に接する従業員(次項において「運転者等」という。)の適切な指導監督、事業用自動車内における当該事業者の氏名又は名称の掲示その他の旅客に対する適切な情報の提供その他の輸送の安全及び旅客の利便の確保のために必要な事項として国土交通省令で定めるものを遵守しなければならない。
4 国土交通大臣は、一般旅客自動車運送事業者が、第二十二条の二第一項、第四項若しくは第六項、第二十三条第一項、第二十三条の五第二項若しくは第三項若しくは前三項の規定又は安全管理規程を遵守していないため輸送の安全又は旅客の利便が確保されていないと認めるときは、当該一般旅客自動車運送事業者に対し、運行管理者に対する必要な権限の付与、必要な員数の運転者の確保、施設又は運行の管理若しくは運転者等の指導監督の方法の改善、旅客に対する適切な情報の提供、当該安全管理規程の遵守その他その是正のために必要な措置を講ずべきことを命ずることができる。
5 一般旅客自動車運送事業者の事業用自動車の運転者及び運転の補助に従事する従業員は、運行の安全の確保のために必要な事項として国土交通省令で定めるものを遵守しなければならない。
(許可の取消し等)
第四十条 国土交通大臣は、一般旅客自動車運送事業者が次の各号のいずれかに該当するときは、六月以内において期間を定めて自動車その他の輸送施設の当該事業のための使用の停止若しくは事業の停止を命じ、又は許可を取り消すことができる。
一 この法律若しくはこの法律に基づく命令若しくはこれらに基づく処分又は許可若しくは認可に付した条件に違反したとき。
二 正当な理由がないのに許可又は認可を受けた事項を実施しないとき。
三 第七条第一号、第七号又は第八号に該当することとなつたとき。
第四十一条 国土交通大臣は、前条の規定により事業用自動車の使用の停止又は事業の停止を命じたときは、当該事業用自動車の道路運送車両法による自動車検査証を国土交通大臣に返納し、又は当該事業用自動車の同法による自動車登録番号標及びその封印を取り外した上、その自動車登録番号標について国土交通大臣の領置を受けるべきことを命ずることができる。
2 国土交通大臣は、前条の規定による事業用自動車の使用の停止又は事業の停止の期間が満了したときは、前項の規定により返納を受けた自動車検査証又は同項の規定により領置した自動車登録番号標を返付しなければならない。
3 前項の規定により自動車登録番号標(次項に規定する自動車に係るものを除く。)の返付を受けた者は、当該自動車登録番号標を当該自動車に取り付け、国土交通大臣の封印の取付けを受けなければならない。
4 国土交通大臣は、第一項の規定による命令に係る自動車であつて、道路運送車両法第十六条第一項の申請(同法第十五条の二第五項の規定により申請があつたものとみなされる場合を含む。)に基づき一時抹消登録をしたものについては、前条の規定による事業用自動車の使用の停止又は事業の停止の期間が満了するまでは、同法第十八条の二第一項本文の登録識別情報を通知しないものとする。
主 文
1 原告らの甲事件の訴えのうち,公示処分の一部取消しを求める主位的請求及び輸送施設の使用停止等の処分の差止請求に係る各部分をいずれも却下する。
2 各原告と被告との間において,当該原告が,その営業所に属する日勤勤務運転者を,それぞれ,1乗務(出庫から帰庫までの連続した乗務と認められるものをいう。)当たりの乗務距離(高速自動車国道及び自動車専用道路を利用した距離を含む。ただし,高速自動車国道及び自動車専用道路を1回の利用において連続して50キロメートル以上利用した場合にあっては,当該利用の距離にかかわらず,50キロメートルを利用したものとみなして乗務距離に算入する。)が250キロメートルを超えても事業用自動車に乗務させることができる地位にあることを確認する。
3 近畿運輸局長が,原告Cに対して平成23年7月6日付けでした,輸送施設の使用停止処分を取り消す。
4 訴訟費用は,原告Aに生じた費用の3分の1及び被告に生じた費用の10分の1を同原告の負担とし,原告Bに生じた費用の3分の1及び被告に生じた費用の10分の1を同原告の負担とし,原告Cに生じた費用の4分の1及び被告に生じた費用の10分の1を同原告の負担とし,その余は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1 甲事件
(1)ア 主位的請求
近畿運輸局長が,平成21年12月16日付けでした一般乗用旅客自動車運送事業の最高乗務距離の指定地域及び最高限度を定める公示処分(近運自二公示第60号)のうち,原告Bについては大阪市域交通圏につき,原告Aについては京都市(ただし,平成17年4月1日に編入された旧北桑田郡京北町の区域を除く。)につき,原告Cについては神戸市域交通圏につき,それぞれ,日勤勤務運転者の1乗務当たりの乗務距離の最高限度を250キロメートルと定めた部分を取り消す。
イ 予備的請求
主文第2項同旨
(2) 近畿運輸局長は,原告らに対し,その営業所に属する日勤勤務運転者を,それぞれ,1乗務(出庫から帰庫までの連続した乗務と認められるものをいう。)当たりの乗務距離(高速自動車国道及び自動車専用道路を利用した距離を含む。ただし,高速自動車国道及び自動車専用道路を1回の利用において連続して50キロメートル以上利用した場合にあっては,当該利用の距離にかかわらず,50キロメートルを利用したものとみなして乗務距離に算入する。)が250キロメートルを超えて事業用自動車に乗務させたことを理由として,道路運送法40条に基づく自動車その他の輸送施設の当該事業のための使用の停止若しくは事業の停止,又は許可の取消しの各処分をしてはならない。
2 乙事件
主文第3項同旨
第2 事案の概要
1 甲事件は,一般乗用旅客自動車運送事業(タクシー事業)を営む原告らが,乗務距離の最高限度を定める旅客自動車運送事業運輸規則(以下「運輸規則」という。)22条は違憲ないし違法であり,また同条に基づき近畿運輸局長が定めた平成21年12月16日付け公示(近運自二公示第60号。以下「本件公示」という。)も違法であるなどとして,①主位的には本件公示が行政事件訴訟法3条2項にいう処分に当たることを前提に,本件公示のうち日勤勤務運転者の1乗務当たりの乗務距離の最高限度を250キロメートルと定めた部分の取消しを,予備的には行政事件訴訟法4条にいう当事者訴訟として,本件公示にかかわらず,各原告の日勤勤務運転者に対し,1乗務当たり250キロメートルを超えて乗務させることのできる地位にあることの確認をそれぞれ求め,さらに,②道路運送法(以下「法」という。)40条に基づく自動車その他の輸送施設の当該事業のための使用の停止若しくは事業の停止,又は許可の取消しの各処分(以下「各不利益処分」という。)の差止めを求めている事案である。
乙事件は,一般乗用旅客自動車運送事業を営む原告Cが,本件公示の定める乗務距離の最高限度を超えて運転者を事業用自動車に乗務させていたことを理由に,近畿運輸局長から,法40条に基づき輸送施設の使用停止処分(以下「本件使用停止処分」という。)を受けたところ,本件使用停止処分の根拠となった運輸規則22条,本件公示及び処分基準が違憲ないし違法であるなどとして,本件使用停止処分の取消しを求めている事案である。
なお,書証に関し,併合前の乙事件においても同一内容の書証が提出されているものについて,重ねて乙事件の書証を引用することはしない。また,特に断らない限り,枝番がある書証について書証番号は全枝番号を含む。