国・中央労基署長・日本運搬社事件 遺族補償給付不支給処分決定取消請求控訴事件 | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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国・中央労基署長・日本運搬社事件


遺族補償給付不支給処分決定取消請求控訴事件
【事件番号】    東京高等裁判所判決/平成27年(行コ)第320号
【判決日付】    平成28年4月27日
【判示事項】    1 被災労働者が海外出張者(労災保険法が適用される)であるか海外派遣者(特別加入の承認がなければ労災保険法は適用されない)であるかは,単に労働の提供の場が海外にあるだけで国内の事業場に所属して当該事業場の使用者の指揮に従って勤務しているのか,海外の事業場に所属して当該事業場の使用者の指揮に従って勤務しているのかという観点から,当該労働者の従事する労働の内容やこれについての指揮命令関係等の当該労働者の国外での勤務実態を踏まえてどのような労働関係にあるかによって総合的に判断されるべきであるとされた例
          2 現地法人の総経理(日本の会社法における執行役類似の機関)であった亡Kが急性心筋梗塞を発症して死亡したことについて,Kは海外出張者に当たるというべきであり,特別加入の承認がないことを理由として労災保険法上の保険給付の対象から除外することはできないとされた例
          3 海外勤務をしていたKの死亡につき,被災労働者の死亡が労災保険法上の保険給付の対象になり得ないことを理由とする不支給決定の取消訴訟においては,当該死亡が同法上の保険給付の対象になり得ることを明らかにして当該決定を取り消せば足りるとして,当該死亡の業務起因性について判断することなく当該決定を取り消すとして,一審判決が取り消された例
【掲載誌】     労働判例1146号46頁


       主   文

 1 原判決を取り消す。
 2 中央労働基準監督署長が控訴人に対し平成24年10月18日付けでした労働者災害補償保険法に基づく遺族補償給付及び葬祭料を支給しない旨の処分を取り消す。
 3 訴訟費用は,第1,2審を通じて被控訴人の負担とする。

       事実及び理由

第1 控訴の趣旨
   主文同旨
第2 事案の概要
 1 本件は,海外に事業展開する運送会社である株式会社A(以下「訴外会社」という。)の従業員で,平成22年7月23日に中国の上海において急性心筋梗塞により死亡した亡B(以下「亡B」という。)について,亡Bの妻で亡Bの死亡の当時その収入によって生計を維持していた控訴人が,亡Bの死亡は業務上の死亡に当たると主張して,被控訴人に対し,中央労働基準監督署長(以下「中央労基署長」という。)が控訴人に対し平成24年10月18日付けでした労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)に基づく遺族補償給付及び葬祭料を支給しない旨の処分の取消しを求めた事案である。
   原審が控訴人の請求を棄却したので,控訴人が控訴した。前提事実,関係法令等の定め並びに本件の争点及びこれについての当事者の主張は,下記2のとおり原判決を補正し,下記3のとおり控訴人の当審における主張を加えるほかは,原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」の2ないし4に記載のとおりであるから,これを引用する。
 2 原判決の補正
   原判決10頁9行目冒頭から同10行目末尾までを次のとおり改める。
  「(1) 亡Bは,労災保険法の施行地内(国内)で行われる事業に使用される海外出張者か,それとも,同法施行地外(海外)で行われる事業に使用される海外派遣者であって,国内事業場の労働者とみなされるためには同法36条に基づく特別加入手続を必要である者か」
 3 控訴人の当審における主張
   亡Bは,訴外会社の従業員であり,国内の事業場である訴外会社東京営業所海運部に所属し,その国際輸送課課長代理として,訴外会社の指揮命令に従って勤務していた者であって,その死亡時において,単に労働の提供の場が海外にあったにすぎない。亡Bは,ほかに訴外会社Cの首席代表及び現地法人であるD社の責任者(総経理)としての地位を併せ持っていたものの,CやD社が独立した事業所であるかどうかは重要な問題ではなく,国内の事業場である訴外会社の使用者の指揮に従って勤務していたという実態が重要なのである。結局のところ,亡Bは,訴外会社の業務に上海で従事する海外出張者に該当するから,海外派遣者を対象とする特別加入手続を要することなく,当然に労災保険法上の保険給付の対象となるというべきである。


労働者災害補償保険法
第三十六条 第三十三条第六号の団体又は同条第七号の事業主が、同条第六号又は第七号に掲げる者を、当該団体又は当該事業主がこの法律の施行地内において行う事業(事業の期間が予定される事業を除く。)についての保険関係に基づきこの保険による業務災害、複数業務要因災害及び通勤災害に関する保険給付を受けることができる者とすることにつき申請をし、政府の承認があつたときは、第三章第一節から第三節まで及び第三章の二の規定の適用については、次に定めるところによる。
一 第三十三条第六号又は第七号に掲げる者は、当該事業に使用される労働者とみなす。
二 第三十四条第一項第二号の規定は第三十三条第六号又は第七号に掲げる者に係る業務災害に関する保険給付の事由について、同項第三号の規定は同条第六号又は第七号に掲げる者の給付基礎日額について準用する。この場合において、同項第二号中「当該事業」とあるのは、「第三十三条第六号又は第七号に規定する開発途上にある地域又はこの法律の施行地外の地域において行われる事業」と読み替えるものとする。
三 第三十三条第六号又は第七号に掲げる者の事故が、徴収法第十条第二項第三号の二の第三種特別加入保険料が滞納されている期間中に生じたものであるときは、政府は、当該事故に係る保険給付の全部又は一部を行わないことができる。
② 第三十四条第二項及び第三項の規定は前項の承認を受けた第三十三条第六号の団体又は同条第七号の事業主について、第三十四条第四項の規定は第三十三条第六号又は第七号に掲げる者の保険給付を受ける権利について準用する。この場合において、これらの規定中「前項の承認」とあり、及び「第一項の承認」とあるのは「第三十六条第一項の承認」と、第三十四条第二項中「同号及び同条第二号に掲げる者を包括して」とあるのは「同条第六号又は第七号に掲げる者を」と、同条第四項中「同条第一号及び第二号」とあるのは「第三十三条第六号又は第七号」と読み替えるものとする。