円建て債券の債権者集会における未償還の債券に関する和解の決議およびその和解条項による支払により、当該債券に係る債務が全て弁済されたと認められた事例
債券償還等請求控訴事件
【事件番号】 東京高等裁判所判決/平成30年(ネ)第2718号
【判決日付】 令和元年10月29日
【判示事項】 1 円建て債券を発行した外国国家がわが国の民事裁判権に服することを免除されないとされた事例
2 円建て債券の債権者集会における未償還の債券に関する和解の決議およびその和解条項による支払により、当該債券に係る債務が全て弁済されたと認められた事例
3 Xらの請求を棄却する旨の控訴審判決において、全審級の訴訟費用が民事訴訟法62条に基づきYの負担とされた事例
【判決要旨】 1 ①債券を発行して資金調達をすることは、その性質上、私人でも行うことが可能な商業取引であり、本件の債券に関する取引行為は私法的ないし業務管理的な行為に当たるといえること、②被告である外国国家は本件の債券に係る債務について裁判権免除を取消不能の形で放棄する旨書面により約し、本件の債券に関する紛争についてわが国の民事裁判権に服する旨の意思表示を明確に表明していたと認められること、③被告である外国国家における支払延期措置が議会や政府の行為を伴い、政治的な判断がされたからといって、上記の放棄条項の適用を免れることはできないし、支払延期措置は弁済期を繰り延べるために行われた私法的ないし業務管理的な行為であって主権的行為であるということはできない上、被告である外国国家の議会や政府の主権的判断の適否を判断することにはならないことからすると、裁判権免除を認めるべき特段の事情があるということはできず、被告である外国国家はわが国の民事裁判権から免除されない。
2 債券の債権者らが事前に合意していた要項の記載内容に従った手続を経て、債権者集会における特別決議によって採択された和解案は、日本法の社債権者集会の決議に必要とされている裁判所の認可手続が執られていないことにかかわらず、すべての債券の債権者を拘束し、その結果、債券の債権者らの権利は和解案の内容に従って変更される。
3 控訴人であるYが、控訴審における控訴理由として原審における主張を維持し、いったん弁論を終結した後になって、ようやく、上記2の和解およびそれに従った弁済を行ったという経過自体によると、全審級を通じて、被控訴人であるXらの訴訟行為は民事訴訟法62条に定める権利の伸長に必要であったものと認められるから、本件訴訟の総費用はYに負担させるのが相当である。
【参照条文】 民事訴訟法62
民事訴訟法67-2
【掲載誌】 金融・商事判例1596号8頁
民事訴訟法
(不必要な行為があった場合等の負担)
第六十二条 裁判所は、事情により、勝訴の当事者に、その権利の伸張若しくは防御に必要でない行為によって生じた訴訟費用又は行為の時における訴訟の程度において相手方の権利の伸張若しくは防御に必要であった行為によって生じた訴訟費用の全部又は一部を負担させることができる。
(訴訟費用の負担の裁判)
第六十七条 裁判所は、事件を完結する裁判において、職権で、その審級における訴訟費用の全部について、その負担の裁判をしなければならない。ただし、事情により、事件の一部又は中間の争いに関する裁判において、その費用についての負担の裁判をすることができる。
2 上級の裁判所が本案の裁判を変更する場合には、訴訟の総費用について、その負担の裁判をしなければならない。事件の差戻し又は移送を受けた裁判所がその事件を完結する裁判をする場合も、同様とする。
主 文
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、全審級を通じ、控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2(1) 主位的申立て
被控訴人らの訴えをいずれも却下する。
(2) 予備的申立て
主文第2項と同旨
第2 事案の概要
1 本件は、銀行である被控訴人らが、外国国家である控訴人が平成8年12月から平成12年9月にかけて4回にわたり発行した円建て債券(以下「本件債券」という。)を保有する債権者から訴訟追行権を授与された訴訟担当者として、控訴人に対し、当該債券の償還並びに約定利息及び遅延損害金の支払を求める事案である。
控訴人は、外国国家であるため我が国の裁判権を免除され、仮にそうでないとしても、本件債券について控訴人が行った支払停止措置が執られたことからすれば本件債券の弁済期は未到来であり、仮に弁済期が到来しているとすれば債権は時効消滅している旨を主張して争っている。
差戻前第1審において、被控訴人らは本件訴訟について原告適格を有しないとして本件訴えをいずれも却下する判決が言い渡され、差戻前控訴審においてもその判断が維持されたが、上告審において、被控訴人らの任意的訴訟担当者としての原告適格を肯定し、上記の差戻前控訴審判決を破棄して差戻前第1審判決を取り消し、本件を東京地方裁判所に差し戻す旨の判決が言い渡された。
2 原審は、控訴人は本件訴訟について我が国の民事裁判権に服することを免除されず、控訴人において支払停止措置が執られたとしても本件債券の弁済期は未到来であるということはできず、本件債券の償還等請求権は時効消滅したとはいえないとして、被控訴人らの請求を認容したところ、これを不服とする控訴人が控訴をした。
被控訴人らは、本件債券及び利札の一部が償却されたとして、訴えを一部取り下げた。その結果、当審において審理判断の対象は、別紙1記載の請求対象債券一覧のとおりとなった。また、控訴人は、当審において弁済の抗弁を追加した。