業務担当取締役として、自らが担当する子会社による違法行為等を防止すべき善管注意義務ないし忠実義務 | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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業務担当取締役として、自らが担当する子会社による違法行為等を防止すべき善管注意義務ないし忠実義務に違反したとされた事例

 

 

損害賠償請求事件、共同訴訟参加事件

【事件番号】      東京地方裁判所判決/平成29年(ワ)第40038号、平成30年(ワ)第24496号

【判決日付】      令和2年2月13日

【判示事項】      1 業務担当取締役として、自らが担当する子会社による違法行為等を防止すべき善管注意義務ないし忠実義務に違反したとされた事例

             2 取締役の任務懈怠とその調査のための調査委員会の設置費用の支払との間に相当因果関係があるとして、その費用相当額が損害として認められた事例

【判決要旨】      1 本件において、被告は、原告の業務担当取締役として、自己が担当する業務執行一般について監視し、担当業務である原告の子会社による違法行為を防止し、原告グループの損害の拡大を防止すべき義務を原告に対する善管注意義務ないし忠実義務の内容として負っていると解することができるところ、原告の取締役としての善管注意義務ないし忠実義務違反があったといえる。

             2 本件の調査委員会設置当時における社会的要請、被告の原告における地位、被告による任務懈怠の内容(自らが不正行為を行った事案)等に照らせば、同調査委員会を設置したことにより原告が支払った調査費用は、原告にとって、被告の不正行為の内容を明らかにし、関係者からの信頼を回復するために必要なことであったといえ、同費用の支払は被告の前記任務懈怠から通常生ずる損害ということができる。

【参照条文】      会社法423-1

             民法(平成29年法律第44号による改正前)416-1

【掲載誌】        金融・商事判例1600号48頁

【評釈論文】      ジュリスト1548号2頁

             銀行法務21 856号67頁

             銀行法務21 868号77頁

             法律時報別冊私法判例リマークス63号86頁

 

 

会社法

(役員等の株式会社に対する損害賠償責任)

第四百二十三条1項 取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人(以下この章において「役員等」という。)は、その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

 

 

民法

(損害賠償の範囲)

第四百十六条 債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。

2 特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見すべきであったときは、債権者は、その賠償を請求することができる。

 

 

       主   文

 

 1 被告は、原告に対し、2129万3712円及びこれに対する平成29年12月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

 2 訴訟費用は被告の負担とする。

 3 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

 

 

              損害賠償請求,共同訴訟参加控訴事件

【事件番号】      東京高等裁判所判決/令和2年(ネ)第1081号

【判決日付】      令和2年9月16日

【掲載誌】        LLI/DB 判例秘書登載

 

       主   文

 

 1 本件控訴を棄却する。

 2 控訴費用は控訴人の負担とする。

 

       事実及び理由

 

第1 請求

 主文第1項に同旨

第2 事案の概要

 本件は、パチスロ機及びパチンコ機並びにその周辺機器の開発、製造、販売等を行い、東京証券取引所ジャスダック市場に上場している原告が、海外事業統括の業務を委嘱された取締役であり、かつ、海外子会社の代表者であった被告に対し、これらの役職に在任していた当時、被告が、①被告及び被告の親族の資産管理会社であり、原告の親会社でもある香港法人の第三者に対する貸金債権を回収する目的等で、原告の海外子会社の代表者として、当該第三者が関与する会社に対して1億3500万香港ドルを貸し付け(以下「本件行為①」という。)、②自己の個人的な利益を図る目的で、原告の海外子会社の代表者として、受取人白地の1600万香港ドルの小切手を振り出し(以下「本件行為②」という。)、③上記資産管理会社が金融機関から借入れを行う際に、原告の海外孫会社の取締役に指示をし、当該会社の預金を担保に供させた上で、同資産管理会社が負担すべき利息相当額等を当該会社に支払わせた(以下「本件行為③」という。)とし、被告の上記各行為は、原告の取締役としての善管注意義務、忠実義務に反するものであり、原告はその調査のために調査委員会を設置してその費用を支払ったところ、被告の任務懈怠と原告の同費用の支払との間には相当因果関係が認められるとして、会社法423条1項に基づき、同費用相当額の損害金及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成29年12月29日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

1 前提事実(当事者間に争いがないか、各掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実である。なお、証拠については、特に言及しない限り、枝番全てを含む。)

 (1) 原告は、昭和54年12月10日に設立された遊戯機器及び遊技機器に関連する原材料、部品、半製品、電子応用機器等の製造、売買、斡旋、賃貸借及び管理等を目的とする株式会社であり、東京証券取引所ジャスダック市場に上場している。原告は、完全子会社であり、海外事業の統括会社である香港法人A(以下「A」という。)及びその子会社であるフィリピン法人A1(以下「A1」という。)を通じて、フィリピンにおいて、カジノ施設及びホテルの運営事業(以下「カジノリゾート事業」という。)を行っている。

 また、原告は、Aの完全子会社である韓国法人A2(以下「A2」という。)を通じて、韓国においてカジノリゾート事業のプロジェクトに参加していた。

          (甲1~3、37、43)

 (2) B(以下「B」という。)は、被告及びその親族の資産管理を主な目的とする香港法人であり、原告の発行済株式総数の67.9パーセントを保有している。Bは、平成23年10月14日、唯一の取締役であった被告が書面決議を行い、完全子会社である韓国法人B1(以下「B1」という。)を設立した。(甲4、5、64)

 (3) 被告は、原告の創業以来、代表取締役社長や取締役会長を歴任し、平成29年6月29日に、任期満了により原告の取締役を退任した。

 また、被告は、平成26年3月から平成29年5月まで、Aの唯一の取締役であり、同月12日までBの唯一の取締役であった。

 (4) (本件行為①関係)

 Bは、平成26年11月24日、C(以下「C」という。)に対して、契約期間を3年として、無利息、無担保で、約20億円に相当する1億3500万香港ドルを貸し付けた。Aは、平成27年3月3日、Cが関与する英国領ヴァージン諸島法人であるD(以下「D」という。)に対して、貸付期間を3年として、無利息、無担保で、1743万2851.24米国ドル(1億3500万香港ドル相当)を貸し付けた。Dは、同月4日から同月13日までの間に、Bに対して、7回に分けて、合計1億3000万香港ドルを送金した。(甲8、9、14~16)

 (5) (本件行為②関係)

 Aの経理担当者は、平成27年5月11日、受取人白地の1600万香港ドルの小切手(以下「本件小切手」という。)を1通作成し、被告はこれに署名して振り出した。同月14日、本件小切手は交換決済が行われ、「E」を受取人として、1600万香港ドルが支払われた。(甲21、24、25)

 (6) (本件行為①及び②に先立つ本件行為③関係)

 A2は、韓国におけるカジノリゾート事業のプロジェクトのために、土地の購入を検討していたところ、購入主体がA2からB1へ変更されたため、購入資金の頭金を捻出するために、B1の親会社であるBが金融機関から借入れを行うこととなった。

 Bは、平成26年2月24日、F銀行シンガポール支店(以下、単に「シンガポール支店」という。)から8000万米国ドルを借り入れ(以下「本件韓国事業借入れ」という。)、A2は、同借入れのために、F銀行仁川国際空港支店(以下、単に「仁川国際空港支店」という。)の8000万米国ドルの外貨定期預金に質権を設定した(以下「本件担保提供」という。)。その後、B1は土地の購入を断念し、A2は、同年3月31日、Bに対し、経営コンサルタント料等の名下で17万3562.23米国ドルを支払った(上記本件担保提供と合わせて、本件行為③)。Bは、同日、シンガポール支店に対し、本件韓国事業借入れを返済し、仁川国際空港支店は、同日、本件担保提供を解除した。

          (甲26、29~31、96~98)

 (7) 原告は、平成29年6月8日、弁護士3名を委員とする特別調査委員会(以下「本件調査委員会」という。)を設置し、調査費用(委員への報酬、実費、消費税)合計2129万3712円を支払った(甲6、33~36)。

 (8) 原告は、平成29年11月27日、東京地方裁判所に本件訴訟を提起した。原告共同訴訟参加人は原告の株主であり、平成30年7月30日、会社法849条1項、847条1項に基づき、本件訴訟に参加することを申し出た。

2 争点及びこれに関する当事者の主張

 本件の争点は、被告に、本件行為①ないし③に関して、原告の取締役としての善管注意義務ないし忠実義務の違反が認められるか(争点1)と、被告の任務懈怠と原告主張の損害との間の相当因果関係の有無(争点2)である。