検察官の上訴と一事不再理の原則
昭和二二年勅令第一號違反等被告事件
【事件番号】 最高裁判所大法廷判決/昭和24年(新れ)第22号
【判決日付】 昭和25年9月27日
【判示事項】 検察官の上訴と一事不再理の原則
【参照条文】 刑事訴訟法351
憲法39
【掲載誌】 最高裁判所刑事判例集4巻9号1805頁
刑事訴訟法
第三百五十一条 検察官又は被告人は、上訴をすることができる。
② 第二百六十六条第二号の規定により裁判所の審判に付された事件と他の事件とが併合して審判され、一個の裁判があつた場合には、第二百六十八条第二項の規定により検察官の職務を行う弁護士及び当該他の事件の検察官は、その裁判に対し各々独立して上訴をすることができる。
憲法
第三十九条 何人も、実行の時に適法であつた行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問はれない。又、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問はれない。
主 文
本件上告を棄却する。
理 由
弁護人金光邦三上告趣意は末尾に添附した別紙書面記載のとおりである。
第一点について。
元来一事不再理の原則は、何人も同じ犯行について、二度以上罪の有無に関する裁判を受ける危険に曝さるべきものではないという、根本思想に基くことは言うをまたぬ。そして、その危険とは、同一の事件においては、訴訟手続の開始から終末に至るまでの一つの継続的状態と見るを相当とする。されば、一審の手続も控訴審の手続もまた、上告審のそれも同じ事件においては、継続せる一つの危険の各部分たるにすぎないのである。従つて同じ事件においては、いかなる段階においても唯一の危険があるのみであつて、そこには二重危険(ダブル、ジエバーデイ)ないし二度危険(トワイス、ジエバーデイ)というものは存在しない。それ故に、下級審における無罪又は有罪判決に対し、検察官が上訴をなし有罪又はより重き刑の判決を求めることは、被告人を二重の危険に曝すものでもなく、従つてまた憲法三九条に違反して重ねて刑事上の責任を問うものでもないと言わなければならぬ。従つて論旨は、採用することを得ない。
第二点について。
所論は刑訴四〇五条に定むる上告理由を主張するものでないことは明らかであり、また所論主張事実を考慮しつつ全記録を検討してみても職権で原判決を破棄しなければ著しく正義に反するとまでは認められない。されば論旨は上告適法の理由を欠くものとして採ることができない。
よつて刑訴四一四条同三九六条により主文のとおり判決する。