タックス・ヘイブン対策税制における内国法人に係る特定外国子会社等の留保金額の益金算入に係る利益の | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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タックス・ヘイブン対策税制における内国法人に係る特定外国子会社等の留保金額の益金算入に係る利益の判定の基準時

 

 

              法人税更正処分等取消請求控訴事件

【事件番号】      東京高等裁判所判決/令和3年(行コ)第96号

【判決日付】      令和4年3月10日

【判示事項】      1 タックス・ヘイブン対策税制における内国法人に係る特定外国子会社等の留保金額の益金算入に係る利益の判定の基準時

             2 内国法人が支配力を有していなかった外国子会社の事業年度の当期純利益から算出された適用対象金額の全額について、租税特別措置法施行令39条の16第1項、2項を適用して内国法人の所得に合算して課税したことが違法であるとされた事例

【判決要旨】      1 租税特別措置法施行令(平成29年政令第114号による改正前のもの)39条の16第2項1号が剰余金の配当等の割合から請求権勘案保有株式等を計算すべき場合として定める「外国法人が請求権の内容が異なる株式等を発行している場合」に該当するか否かの判定は、特定外国子会社等の事業年度終了の時の状況によるべきである。

             2 ①優先出資証券の発行およびこれにより調達した資金を原資として劣後ローンによる資金調達のスキームが利用された経緯、目的、仕組みから、内国法人である銀行が外国子会社の当期純利益から剰余金の配当等を受け得ることが想定されていないこと、②外国子会社当期純利益を上回る金額が期中に持株SPCに配当され、事業年度全体を通じてみても、期末時点についてみても、銀行が上記当期純利益に対して支配力を有していたとは認められないこと、③上記資金調達スキームにおける処理に租税回避の目的があることも、客観的に租税回避の事態が生じていると評価すべき事情も認められないことなど判示の事情の下では、租税特別措置法施行令39条の16第1項、2項の規定を形式的に適用し、銀行が支配力を有していなかった外国子会社の同事業年度の当期純利益から算出された適用対象金額の全額を銀行の所得に合算したことは、法の趣旨ないしタックス・ヘイブン対策税制の基本的な制度趣旨や理念に反する。

【参照条文】      租税特別措置法(平成28年法律第15号による改正前のもの)66の6-1

           租税特別措置法施行令(平成29年政令第114号による改正前のもの)39の16-1

           租税特別措置法施行令(平成29年政令第114号による改正前のもの)39の16-2

【掲載誌】        金融・商事判例1649号34頁

 

 

 

租税特別措置法

第一款 内国法人の外国関係会社に係る所得の課税の特例

第六十六条の六第1項 次に掲げる内国法人に係る外国関係会社のうち、特定外国関係会社又は対象外国関係会社に該当するものが、昭和五十三年四月一日以後に開始する各事業年度において適用対象金額を有する場合には、その適用対象金額のうちその内国法人が直接及び間接に有する当該特定外国関係会社又は対象外国関係会社の株式等(株式又は出資をいう。以下この条において同じ。)の数又は金額につきその請求権(剰余金の配当等(法人税法第二十三条第一項第一号に規定する剰余金の配当、利益の配当又は剰余金の分配をいう。以下この項及び次項において同じ。)を請求する権利をいう。以下この条において同じ。)の内容を勘案した数又は金額並びにその内国法人と当該特定外国関係会社又は対象外国関係会社との間の実質支配関係の状況を勘案して政令で定めるところにより計算した金額(次条及び第六十六条の八において「課税対象金額」という。)に相当する金額は、その内国法人の収益の額とみなして当該各事業年度終了の日の翌日から二月を経過する日を含むその内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入する。

一 内国法人の外国関係会社に係る次に掲げる割合のいずれかが百分の十以上である場合における当該内国法人

イ その有する外国関係会社の株式等の数又は金額(当該外国関係会社と居住者(第二条第一項第一号の二に規定する居住者をいう。以下この項及び次項において同じ。)又は内国法人との間に実質支配関係がある場合には、零)及び他の外国法人を通じて間接に有するものとして政令で定める当該外国関係会社の株式等の数又は金額の合計数又は合計額が当該外国関係会社の発行済株式又は出資(自己が有する自己の株式等を除く。同項、第六項及び第八項において「発行済株式等」という。)の総数又は総額のうちに占める割合

ロ その有する外国関係会社の議決権(剰余金の配当等に関する決議に係るものに限る。ロ及び次項第一号イ(2)において同じ。)の数(当該外国関係会社と居住者又は内国法人との間に実質支配関係がある場合には、零)及び他の外国法人を通じて間接に有するものとして政令で定める当該外国関係会社の議決権の数の合計数が当該外国関係会社の議決権の総数のうちに占める割合

ハ その有する外国関係会社の株式等の請求権に基づき受けることができる剰余金の配当等の額(当該外国関係会社と居住者又は内国法人との間に実質支配関係がある場合には、零)及び他の外国法人を通じて間接に有する当該外国関係会社の株式等の請求権に基づき受けることができる剰余金の配当等の額として政令で定めるものの合計額が当該外国関係会社の株式等の請求権に基づき受けることができる剰余金の配当等の総額のうちに占める割合

二 外国関係会社との間に実質支配関係がある内国法人

三 外国関係会社(内国法人との間に実質支配関係があるものに限る。)の他の外国関係会社に係る第一号イからハまでに掲げる割合のいずれかが百分の十以上である場合における当該内国法人(同号に掲げる内国法人を除く。)

四 外国関係会社に係る第一号イからハまでに掲げる割合のいずれかが百分の十以上である一の同族株主グループ(外国関係会社の株式等を直接又は間接に有する者及び当該株式等を直接又は間接に有する者との間に実質支配関係がある者(当該株式等を直接又は間接に有する者を除く。)のうち、一の居住者又は内国法人、当該一の居住者又は内国法人との間に実質支配関係がある者及び当該一の居住者又は内国法人と政令で定める特殊の関係のある者(外国法人を除く。)をいう。)に属する内国法人(外国関係会社に係る同号イからハまでに掲げる割合又は他の外国関係会社(内国法人との間に実質支配関係があるものに限る。)の当該外国関係会社に係る同号イからハまでに掲げる割合のいずれかが零を超えるものに限るものとし、同号及び前号に掲げる内国法人を除く。)

 

 

租税特別措置法施行令

(実質支配関係の判定)

第三十九条の十六 法第六十六条の六第二項第五号に規定する政令で定める関係は、居住者又は内国法人(以下この項において「居住者等」という。)と外国法人との間に次に掲げる事実その他これに類する事実が存在する場合(当該外国法人の行う事業から生ずる利益のおおむね全部が剰余金の配当、利益の配当、剰余金の分配その他の経済的な利益の給付として当該居住者等(当該居住者等と特殊の関係のある者を含む。)以外の者に対して金銭その他の資産により交付されることとなつている場合を除く。)における当該居住者等と当該外国法人との間の関係(当該関係がないものとして同条第二項第一号(イに係る部分に限る。)の規定を適用した場合に居住者及び内国法人並びに同号イに規定する特殊関係非居住者と当該外国法人との間に同号イ(1)から(3)までに掲げる割合のいずれかが百分の五十を超える関係がある場合における当該居住者等と当該外国法人との間の関係を除く。)とする。

一 居住者等が外国法人の残余財産のおおむね全部について分配を請求する権利を有していること。

二 居住者等が外国法人の財産の処分の方針のおおむね全部を決定することができる旨の契約その他の取決めが存在すること(当該外国法人につき前号に掲げる事実が存在する場合を除く。)。

2 前項に規定する特殊の関係とは、次に掲げる関係をいう。

一 一方の者と他方の者との間に当該他方の者が次に掲げるものに該当する関係がある場合における当該関係

イ 当該一方の者の親族

ロ 当該一方の者と婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者

ハ 当該一方の者の使用人又は雇主

ニ イからハまでに掲げる者以外の者で当該一方の者から受ける金銭その他の資産によつて生計を維持しているもの

ホ ロからニまでに掲げる者と生計を一にするこれらの者の親族

二 一方の者と他方の者との間に当該他方の者が次に掲げる法人に該当する関係がある場合における当該関係(次号及び第四号に掲げる関係に該当するものを除く。)

イ 当該一方の者(当該一方の者と前号に規定する関係のある者を含む。以下この号において同じ。)が他の法人を支配している場合における当該他の法人

ロ 当該一方の者及び当該一方の者と特殊の関係(この項(イに係る部分に限る。)に規定する特殊の関係をいう。)のある法人が他の法人を支配している場合における当該他の法人

ハ 当該一方の者及び当該一方の者と特殊の関係(この項(イ及びロに係る部分に限る。)に規定する特殊の関係をいう。)のある法人が他の法人を支配している場合における当該他の法人

三 二の法人のいずれか一方の法人が他方の法人の発行済株式等の百分の五十を超える数又は金額の株式等を直接又は間接に有する関係

四 二の法人が同一の者(当該者が個人である場合には、当該個人及びこれと法人税法第二条第十号に規定する政令で定める特殊の関係のある個人)によつてそれぞれその発行済株式等の百分の五十を超える数又は金額の株式等を直接又は間接に保有される場合における当該二の法人の関係(前号に掲げる関係に該当するものを除く。)

 

 

 

 

       主   文

 

 1 原判決を取り消す。

 2 Z税務署長が控訴人に対し平成29年11月7日付けでした平成27年4月1日から平成28年3月31日までの事業年度の法人税に係る更正処分(ただし、令和元年7月29日付け減額更正による一部減額後のもの)のうち所得の金額4935億1557万9742円を超える部分及び納付すべき法人税額628億8628万7000円を超える部分並びに上記更正処分に伴う過少申告加算税の賦課決定処分(ただし、同日付け変更決定による一部減額後のもの)をいずれも取り消す。

 3 Z税務署長が控訴人に対し平成29年11月7日付けでした平成27年4月1日から平成28年3月31日までの課税事業年度の地方法人税に係る更正処分(ただし、令和元年7月29日付け減額更正による一部減額後のもの)のうち課税標準法人税額1177億8873万3000円を超える部分及び納付すべき地方法人税額38億2783万9600円を超える部分並びに上記更正処分に伴う過少申告加算税の賦課決定処分(ただし、同日付け変更決定による一部減額後のもの)をいずれも取り消す。

 4 本件訴えのうちZ税務署長が控訴人に対し令和3年4月26日付けでした法人税及び地方法人税に係る各更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の各通知処分の取消しを求める部分を却下する。

 5 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。

 

       事実及び理由

 

第1 控訴の趣旨

1 主文1項ないし3項と同旨(2項及び3項については、当審において、原判決「事実及び理由」第1の1及び2の請求から上記のとおりに請求を拡張した。)。

2 Z税務署長が控訴人に対し令和3年4月26日付けでした控訴人の平成27年4月1日から平成28年3月31日までの事業年度の法人税に係る更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分を取り消す(当審における追加請求)。

3 Z税務署長が控訴人に対し令和3年4月26日付けでした控訴人の平成27年4月1日から平成28年3月31日までの課税事業年度の地方法人税に係る更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分を取り消す(当審における追加請求)。

第2 事案の概要

1 事案の要旨

 本件事案の要旨は、原判決3頁22行目(本誌本号47頁右段4行目)の「本件各処分」を「本件各更正処分」と改め、同23行目末尾(同6行目)に行を改めて以下のとおり加えるほかは、原判決「事実及び理由」第2の1に記載のとおりであるから、これを引用する。

 「 原審が控訴人の請求をいずれも棄却したところ、控訴人がこれを不服として控訴した。控訴人は、上記申告額を超えない部分の取消しを求めて令和3年1月27日付けで処分行政庁(Z税務署長)に対し、各更正の請求(以下「本件各更正の請求」という。)を行ったが、処分行政庁から本件各更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の各通知処分(以下「本件各通知処分」という。)を受けたため、前記「第1 控訴の趣旨」のとおり、当審において、本件各通知処分の取消しを求める訴えを追加し、また、本件各更正処分の取消請求を拡張した。」