フランク・ステラ作品損傷事件・展覧会のために無償で貸し出された美術品の損傷について、貸出中に作成されたコンディションレポートその他の証拠資料により借主の管理下における損傷発生の有無並びに損傷の内容及び原因を詳細に検討した結果、貸出前に発生していたか又は経時劣化によるものであるなどの理由により、借主の責任が否定された事例
損害賠償等請求控訴事件
【事件番号】 名古屋高等裁判所判決/平成19年(ネ)第1019号
【判決日付】 平成20年7月17日
【判示事項】 一 展覧会のために無償で貸し出された美術品について、貸借当事者間に、貸出中に生じた不可抗力による損傷であっても借主が責任を負う旨の合意があったと認められた事例
二 展覧会のために無償で貸し出された美術品の損傷について、貸出中に作成されたコンディションレポートその他の証拠資料により借主の管理下における損傷発生の有無並びに損傷の内容及び原因を詳細に検討した結果、貸出前に発生していたか又は経時劣化によるものであるなどの理由により、借主の責任が否定された事例
【参照条文】 民法415
民法709
【掲載誌】 判例時報2025号37頁
民法
(債務不履行による損害賠償)
第四百十五条 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
2 前項の規定により損害賠償の請求をすることができる場合において、債権者は、次に掲げるときは、債務の履行に代わる損害賠償の請求をすることができる。
一 債務の履行が不能であるとき。
二 債務者がその債務の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
三 債務が契約によって生じたものである場合において、その契約が解除され、又は債務の不履行による契約の解除権が発生したとき。
(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
主 文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴の趣旨
(1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人らは、控訴人に対し、各自三一〇七万五七七四円及びこれに対する平成一七年一〇月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(3) 訴訟費用は、被控訴人らの負担とする。
(4) 仮執行の宣言
二 控訴の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二 事案の概要(以下、略語の表記は原則として原判決と同様とし、略語の初出時に参照頁を記載する。)
一 本件は、被控訴人らが計画し、平成一五年四月から八月まで名古屋市美術館及び岩手県立美術館で開催した本件ステラ展(原判決五頁)のために、控訴人が被控訴人らに無償で貸し出した金属レリーフと呼ばれる壁面展示作品である本件美術品(原判決三頁)が、被控訴人らの誤った取扱いによって損傷され、その価値を大きく減少させられたとして、控訴人が、被控訴人らに対して、本件取扱合意(原判決四頁)に基づき、本件美術品のうちのパーツAの軸の分離部分及び本件美術品の塗料剥落部分の各修復費用五八七万五七七四円並びに上記作品の価値低下分二五二〇万円とこれらに対する本訴状送達後である平成一七年一〇月三〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を請求する事案である。