エスエイピー・ジャパン事件 解雇無効確認等請求事件 東京地方裁判所判決 | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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エスエイピー・ジャパン事件

 

 

              解雇無効確認等請求事件

【事件番号】      東京地方裁判所判決/平成11年(ワ)第12347号

【判決日付】      平成14年9月3日

【判示事項】      1 原告らは被告会社をすでに退職して,原告ら・被告会社間の雇用契約に基づく権利または法律関係は本訴で請求されているものを除き基本的に終了しているから,懲戒解雇無効確認の訴えには確認の利益がなく不適法として却下された例

             2 労働者が有給休暇届出書と同時に退職届を提出したとしても,会社が即時退社を承諾した事実がなければ,就業規則により14日経過後に退職の効力が発生することに照らして,労働者の合理的意思を解釈すれば,退職の効力が発生する14日後までは有給休暇を取得する旨の意思表示と解されるとして,有給休暇中の未払賃金の支払いが命じられた例

             3 被告会社退職金規程所定の「懲戒解雇の場合(は不支給)」とは,その文言上「懲戒解雇手続が取られた場合」の意味と解するのが相当であるところ,原告には,被告会社に損害を発生させたという懲戒解雇事由が存するが,諸事情に鑑みると,未だ原告の退職金請求が権利濫用とは認められないとされた例

             4 被告会社が原告らに対し,「不正な経理処理があった」として退職を認めない態度を取り,雇用保険上の離職票および健康保険の脱退証明の交付などをしなかったこと,被告会社の代表取締役が同社内のミーティングにおいて,原告が不正行為を行い何百万円かを私用に供した旨を公言したこと,被告会社が原告らに懲戒解雇通知を行った日に,原告らを懲戒解雇した旨の電子メールを社員約1100名全員に送信したことと,原告が他社に転職できなかったことによる逸失利益との間には,因果関係が認められないとして,不法行為の成立が否定された例

             5 被告らが上記の加害行為を行うことによって原告らの名誉信用が毀損されたり,退職手続が遅れることに伴い転職上不便を生じることを認識し認識しうべきであったという限度では故意または過失が認められるが,それ以上に被告らが粉飾決算,架空計上等の実情が競業会社等に漏洩されることをおそれ,これを熟知する原告らを社会的に葬り去ろうとして懲戒解雇等の加害行為を行う意図があったとは認められないとされた例

             6 原告らは被告会社を有効に退職し,懲戒解雇時にはすでに原告らの辞職の効力が発生し,原告らに懲戒解雇事由が存しても,もはや懲戒解雇することはできないから,同懲戒解雇の意思表示は無効であるとされた例

             7 被告会社が「不正な経理処理があった」として退職を認めない態度を取り,雇用保険上の離職票および健康保険の脱退証明の交付などをしなかったことが違法とされた例

             8 従業員に重大な秩序違反行為があり,そのことが社内に広く知られており,当該従業員を懲戒解雇しなければ企業秩序がどうしても保持できないという場合には,辞職の効力発生後に懲戒解雇するなどしたことを直ちに違法とはいえないこともありうるとされた例

             9 預り金につき,原告らを懲戒解雇したうえ,そのことを広く社員に通知しなければならない必要は認められないとして,社内のミーティングでの不正行為の公表,懲戒解雇事実の電子メールの送信は違法であり,不法行為を構成し,原告らの精神的苦痛に対する慰謝料その他の損害賠償が認められた例

             10 企業向け業務用ソフトウエアの業界が特殊で狭い業界であり,原告らがその中で名の知られた存在であることなどから,原告らの被った精神的苦痛は大であるが,その原因が原告ら自身にあり,それが重大な内容であることからその責任の大半は原告らが負担せざるを得ないとして,本件不法行為による精神的苦痛に対する慰謝料額が55万円とされた例

             11 原告らの懲戒解雇事由は存在することから原告らが求める内容の謝罪広告を命じることはできず,本件事案に即した内容の謝罪広告では原告らの名誉回復に適切ではないとして,被告会社のインターネット上のホームページでの謝罪広告が認められなかった例

【掲載誌】        労働判例839号32頁