給付訴訟における被告適格
妨害排除等請求事件
【事件番号】 最高裁判所第1小法廷判決/昭和58年(オ)第582号
【判決日付】 昭和61年7月10日
【判示事項】 給付訴訟における被告適格
【判決要旨】 給付訴訟においては、給付義務者であると原告の主張している者に被告適格がある。
【参照条文】 民事訴訟法226
【掲載誌】 最高裁判所裁判集民事148号269頁
判例タイムズ623号77頁
金融・商事判例757号10頁
判例時報1213号83頁
民事訴訟法
(上告の理由)
第三百十二条 上告は、判決に憲法の解釈の誤りがあることその他憲法の違反があることを理由とするときに、することができる。
2 上告は、次に掲げる事由があることを理由とするときも、することができる。ただし、第四号に掲げる事由については、第三十四条第二項(第五十九条において準用する場合を含む。)の規定による追認があったときは、この限りでない。
一 法律に従って判決裁判所を構成しなかったこと。
二 法律により判決に関与することができない裁判官が判決に関与したこと。
二の二 日本の裁判所の管轄権の専属に関する規定に違反したこと。
三 専属管轄に関する規定に違反したこと(第六条第一項各号に定める裁判所が第一審の終局判決をした場合において当該訴訟が同項の規定により他の裁判所の専属管轄に属するときを除く。)。
四 法定代理権、訴訟代理権又は代理人が訴訟行為をするのに必要な授権を欠いたこと。
五 口頭弁論の公開の規定に違反したこと。
六 判決に理由を付せず、又は理由に食違いがあること。
3 高等裁判所にする上告は、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があることを理由とするときも、することができる。
主 文
原判決中慰藉料の支払請求に係る部分についての本件上告を却下する。
その余の本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告代理人高橋榮の上告理由(二)について
所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照戯して首肯するに足り、右事実関係のもとにおいて、本件壁面は本件ビルの共用部分に属し、そこに設置された本件設備は本件ビルの共用部分に附合したとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。
同(一)について
本件記録によれば、原審は、本件部屋に対する所有権に基づく本件設備の撤去請求について、被上告人らには本件設備を撤去する権限がないから被告適格を欠く不適法な訴えであるとしてこれを却下したが、給付の訴えにおいては、その訴えを提起する者が給付義務者であると主張している者に被告適格があり、その者が当該義務を負担するかどうかは本案請求の当否にかかわる事柄であると解すべきであるから、上告人の右訴えは、適法なものというべきであり、したがつてこれを却下した原判決は違法である。しかしながら、上告人は、右訴えの請求原因として、被上告人らは本件壁面の外側に本件設備を設置したから本件設備を撤去すべき義務があると主張し、原審は、右訴えを却下するにあたり、被上告人らが右義務を負う前提として本件設備に対する処分権限を有するか否かについて当事者に主張立証を尽くさせ、審理を遂げているというべきであるから、このような場合においては、当審としては、右請求について原判決を破棄し、事件を原審裁判所に差し戻す必要はなく、その請求の当否について直ちに判断をすることが許されるものと解するのが相当である。そして、原審の適法に確定した事実関係のもとにおいては、被上告人らに本件設備を撤去すべき義務がなく、右請求が理由のないものであることは明らかであり、これを棄却すべきこととなるが、その結論は原判決よりも上告人に不利益となり、民訴法三九六条、三八五条により、原判決を上告人に不利益に変更することは許されないので、当裁判は原判決の結論を維持して上告を棄却するにとどめるほかなく、結局、原判決の前示の違法はその結論に影響を及ぼさないこととなる。論旨は、採用することができない。
なお、上告人は、原判決中慰藉料の支払請求に係る部分については、上告理由を記載した書面を提出しない。
よつて、民訴法四〇一条、三九九条ノ三、三九九条一項二号、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官大内恒夫 裁判官谷口正孝 裁判官角田禮次郎 裁判官高島益郎 裁判官佐藤哲郎)