解雇の意思表示前の解雇権不存在確認訴訟は、確認の対象適格性、確認の法的利益を欠き不適法であると判定した事例
東京地方裁判所判決/昭和45年(ワ)第1176号
昭和46年12月25日
解雇権不存在確認請求事件
【判示事項】 解雇の意思表示前の解雇権不存在確認訴訟は、確認の対象適格性、確認の法的利益を欠き不適法であると判定した事例
【参照条文】 民事訴訟法2編1章
【掲載誌】 労働関係民事裁判例集22巻6号1255頁
判例タイムズ278号245頁
判例タイムズ279号252頁
判例時報662号88頁
労働判例144号39頁
【評釈論文】 別冊ジュリスト45号334頁
判例評論164号36頁
【解説】
被告が従業員たる原告らに対し、被告の解散を理由として希望退職を募集した。
これに応じなければ整理解雇は必至である。
しかしその場合解散が憲法26条23条教育基本法10条に違反し無効であるから解雇は権利濫用として無効となり、ないしは不当労働行為として無効となるであろう。
このような事案につき解雇の意思表示前に原告から解雇権不存在確認の訴えを提起できるか。
これが本判決のとりあげた問題である。
理論的問題点は判決の論ずるところに尽きる。
このような訴訟を必要とする現実的理由は、解雇されてしまえば、労働者は収入を断たれ、頼みとする地位保全仮処分も裁判まで数年を要する現状であるため、労働者は解雇の意思表示前に先手をうつて解雇権不存在確認判決を取得し、これにより解雇を防止し、万一解雇されても右判決をも資料として地位保全仮処分命令を容易に得ようとすることにある。
この点はすでに東京地決昭44・12・15(判タ243・167、労民集20・6・1716)の詳論するところである。
同決定は、「確認訴訟が法的紛争の拡大防止をその機能とすること、形成権の存否は形成権行使の効果の存否についての先決問題であるところ、形成権存否確認判決の既判力は、形成権行使の効果の存否の判断に作用することをおもえば、形成権の存否についての争いが裁判所の判断に適する程度に成熟し、裁判所による即時確定の利益、必要が認められるときは、形成権行使前に形成権の存在しないことの確認を求められる。
と判示した。
しかしその事案では紛争の成熟性を認めたものの弁明弁護手続係属中を理由として訴えの利益を否定した。
右決定に対しては荻沢清彦・ジュリ473・140に反対趣旨の評釈があり、その後の判例法理の傾向が注目されていたところ、今回本判決をみるに至つた。
本判決は前記東京地決とことなり、形成権不存在確認の訴えは確認訴訟の対象適格性又は確認の法的利益を欠くし、かりに右決定の見地に立つても紛争が成熟していないとの理由によつて訴えを却下した。