破産手続(同時廃止事件)において、破産に至る経緯について虚偽の陳述をした破産者につき、破産法36 | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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破産手続(同時廃止事件)において、破産に至る経緯について虚偽の陳述をした破産者につき、破産法366条ノ9第3号後段の類推適用が認められ、免責が不許可とされた事例

 

東京高等裁判所決定/平成6年(ラ)第98号

平成7年2月3日

免責不許可決定に対する抗告事件

【判示事項】    破産手続(同時廃止事件)において、破産に至る経緯について虚偽の陳述をした破産者につき、破産法366条ノ9第3号後段の類推適用が認められ、免責が不許可とされた事例

【参照条文】    破産法366の9

【掲載誌】     判例タイムズ879号274頁

          判例時報1537号127頁

【評釈論文】    判例タイムズ臨時増刊913号272頁

          判例評論444号55頁

【解説】

 1 本件は、過去に巨額の資金を使ったバカラ賭博の経験(但し、賭博による負債と今回の破産とは直接関係しない。)を有するXが、破産事件の審問において、その事実を秘匿し、その代わりに虚偽の飲酒遊興の事実を申告したうえ、破産宣告(同時廃止)の決定を受けたものの、破産裁判所から免責が困難である旨告知されたため、免責手続の審尋において、虚偽の陳述をしたことを告白した場合に破産法366条ノ9第3号後段の類推適用等により免責が不許可とされた事案である。

 2 破産法366条ノ9第3号後段は、「裁判所に対し、その財産状態につき虚偽の陳述をなしたるとき」を免責不許可事由の1として定めている。

この意味については、破産手続又は免責手続における審尋の際に、財産状態につき、書面又は口頭により故意に不実の陳述をすることであると解されている(位野木益雄=中田秀彗「破産法及び和議法の一部を改正する法律の解説」曹時4巻9号56頁)。

 ところで、実務上、同時廃止の処理がされる破産事件の審問の際には、破産原因の有無、同時廃止処理の可否のほか、免責の可否の判断の際に問題となりうる事項についても事情聴取が行われ、免責不許可事由が認められる事案では、裁判所によっては、免責の審尋期日までに負債額の1定割合の金員を積み立てて債権者に弁済するよう指示し、右弁済の事実も考慮したうえ免責の判断をするという処理がされているようである(田中康久「東京地裁における最近のカード破産・免責事件の取扱い」ジュリ1014号34頁)。

一方、破産手続、免責手続は、いずれも職権調査主義を採用しているが、破産管財人の選任される通常の破産手続においては、破産管財人による免責不許可事由の有無の調査、報告(破産法366条ノ5)がされるのに対し、同時廃止のされる事件にあっては、そのような手段はないので、裁判所としては、おのずから、当事者である破産者の陳述を信用し、それに基づいて審理するという方法を採らざるをえないことになる。

したがって、破産者が、破産手続の審問期日において、破産に至る経緯について故意に虚偽の陳述をすると、それが財産状態に関する事項であるか否かに関係なく、適正な免責判断を妨げることになるのは明らかであり、このような背信行為をなす不誠実な破産者に対し、誠実な破産者に対する特典である免責を与える必要はないものというべきであろう。

 本決定は、このような観点から、債務者が破産手続において、債務者の財産状態ではなく、破産に至る経緯について虚偽の陳述をして破産宣告及び同時廃止の決定を受け、その後免責の申立てをし、この手続において右虚偽の陳述をしたことが判明し、その内容が重大・悪質である場合には、破産法366条ノ9第3号後段を類推適用し、免責不許可の決定をなすことができると判示したものである。