労働契約6から8までの不更新条項等の存在は,Xの雇用継続の期待の合理性を判断するための事情の1つ | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

役に立つ裁判例の紹介、法律の本の書評です。弁護士経験32年。第二東京弁護士会所属21770

労働契約6から8までの不更新条項等の存在は,Xの雇用継続の期待の合理性を判断するための事情の1つにとどまるというべきところ,労働契約8の満了時において,当初の契約時から満了時までの事情を総合してみれば,XがY社との間の有期労働契約が更新されると期待することについて合理的な理由がある(労契法19条2号)とは認められないとされた例

 

東京地方裁判所判決/平成30年(ワ)第10238号

令和2年10月1日

無期転換逃れ地位確認等請求事件

【判示事項】    1 労契法19条1号に該当するといえるには,有期労働契約の期間の満了ごとに厳密な更新処理がされない状況下で多数回の契約が更新され,これまで雇止めがされたこともないといった事情などから,当事者のいずれかから格別の意思表示がなければ当然更新されるべき労働契約を締結する意思であったと認められる場合であることを要し,そのことによって,期間の満了ごとに当然更新を重ねてあたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態であると認められる場合であることを要するものと解されるとされた例

2 更新処理が形骸化していたとはいえず,いずれかから格別の意思表示がなければ当然更新されるべき労働契約を締結する意思であったと認められる場合には当たらない本件では,原告Xと被告Y社との労働契約が実質的に期間の定めのない契約と異ならない状態に至っていたとは認めがたく,当該有期労働契約を更新しないことにより同契約を終了させることが,期間の定めのない労働契約を解雇により終了させることと社会通念上同視できると認められる場合には該当しないとされた例

3 労契法19条2号の要件に該当するか否かは,当該雇用の臨時性・常用性,更新の回数,雇用の通算期間,契約期間管理の状況,雇用継続の期待をもたせる使用者の言動の有無などの客観的事実を総合考慮して判断されるべきものであり,また,同号の「満了時」とは,最初の有期労働契約の締結時から雇止めされた労働契約の満了時までの間における,すべての事情が総合的に勘案されることを示すものと解されるとされた例

4 強行法規によって与えられた権利を事後に放棄することは一般的に可能であり,雇用継続の期待が発生した場合にこれを放棄することを禁止すべき根拠はないから,不更新条項等を公序良俗に反し無効とすることはできないとされた例

5 契約書に不更新条項等が記載され,これに対する同意が更新の条件となっている場合には,労働者としては署名を拒否して直ちに契約関係を終了させるか,署名して次期の期間満了時に契約関係を終了させるかの二者択一を迫られるため,労働者が不更新条項等を含む契約書に署名押印する行為は,労働者の自由な意思に基づくものか一般的に疑問があり,契約更新時において労働者が置かれた前記の状況を考慮すれば,不更新条項等を含む契約書に署名押印する行為があったことをもって,直ちに不更新条項等に対する承諾があり,合理的期待の放棄がされたと認めるべきではなく,労働者が置かれた前記の状況からすれば,前記行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在する場合に限り,労働者により更新に対する合理的な期待が放棄されたと認めるべきであるとされた例

6 労働契約6から8までの不更新条項等の存在は,Xの雇用継続の期待の合理性を判断するための事情の1つにとどまるというべきところ,労働契約8の満了時において,当初の契約時から満了時までの事情を総合してみれば,XがY社との間の有期労働契約が更新されると期待することについて合理的な理由がある(労契法19条2号)とは認められないとされた例

7 Xの労働契約上の地位確認ならびに未払賃金および遅延損害金の支払請求が退けられた例

【掲載誌】     労働判例1236号16頁