痴漢行為について起訴されたかどうかだけを基準として懲戒処分を決定し,当該痴漢行為の具体的な態様や悪質性,当該従業員の地位,当該従業員が当該痴漢行為について隠ぺい工作をしようとしたかどうか,当該従業員の日頃の勤務態度について考慮しないのは不合理であるとされた例
東京地方裁判所判決/平成26年(ワ)第27027号
平成27年12月25日
東京メトロ事件
地位確認等請求事件
【判示事項】 1 従業員の私生活上の非行であっても,事業活動に直接関連を有するものおよび企業の社会的評価の毀損をもたらすものについては,企業秩序維持のための懲戒の対象となり得るとされた例
2 被告Y社は,他の鉄道会社と同様,本件行為の当時,痴漢行為の撲滅に向けた取組みを積極的に行っていたこと,また,原告Xは,Xが本件行為を行った当時,Y社の駅係員として勤務していたことに照らすと,本件行為はY社における懲戒の対象となり得るべきであるが,本件行為の悪質性は比較的低いこと,本件行為についてマスコミによる報道はなかったこと,Xの勤務態度に問題はなかったことなどを合わせ考えれば,本件行為に対する懲戒処分として,諭旨解雇をもって臨むことは重きに失するとされた例
4 Xが本件においてXに対する処分が決定する具体的な手続きが進行していることを知らされず,このような中でXが同手続きにおいて弁明の機会を与えられなかったことについては,本件処分に至る手続きに不適切ないし不十分な点があったものといわざるを得ないとされた例
5 本件処分は社会通念上相当であると認められない場合(労働契約法15条)に当たり,本件処分はY社において懲戒権を濫用したものとして無効であるとされ,XのY社に対する雇用契約上の権利を有する地位と平成26年4月26日以降の賃金支払請求が認められた例
【掲載誌】 労働判例1133号5頁
【解説】
(1) 事案の概要 本件は,被告東京地下鉄(株)(以下,「Y社」)に雇用されていた原告甲野太郎(以下,「X」)が通勤電車内で痴漢行為をしたとして逮捕され,略式命令を受けたところ,Y社がXを諭旨解雇処分(以下,「本件処分」)としたために,これに対してXが,本件処分は無効であると主張して,雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求め,合わせて賃金等の支払いを請求した事案である。