非違行為発覚後の合意退職の場合であっても,任命責任者が辞職を承認するか否かを判断するまでに事案の審査を了することができなかった場合には,辞職を承認したからといって,懲戒解雇または諭旨解雇に該当しないと認められたとはいえず,控訴人(一審被告)Y社は,懲戒処分についての判断を留保したうえで,被控訴人(一審原告)Xの辞職を承認するとの判断をしたものと認めるのが相当とされた例
東京高等裁判所判決/平成24年(ネ)第2890号、平成24年(ネ)第3396号
平成24年9月28日
NTT東日本事件
退職金支払請求控訴、同附帯控訴事件
【判示事項】 1 非違行為発覚後の合意退職の場合であっても,任命責任者が辞職を承認するか否かを判断するまでに事案の審査を了することができなかった場合には,辞職を承認したからといって,懲戒解雇または諭旨解雇に該当しないと認められたとはいえず,控訴人(一審被告)Y社は,懲戒処分についての判断を留保したうえで,被控訴人(一審原告)Xの辞職を承認するとの判断をしたものと認めるのが相当とされた例
2 本件不支給規定によって,退職手当を不支給ないし制限することができるのは,労働者のそれまでの勤続の功労を抹消ないし減殺してしまうほどの著しく信義に反する行為があった場合に限られるとされた例
3 職場外での強制わいせつ致傷事件で有罪判決を受け,合意退職したXが退職金を請求した事案で,本件非違行為が私生活上の非行であること,被害者との間では示談が成立して民事上,道義上の責任については解決済みであること,Y社が被害者との関係で使用者責任を問われるものではなかったこと,Xが管理職ではなかったこと等の事情を総合的に考慮して,退職金額の7割を減額した額の支払いが認められた例
【掲載誌】 労働判例1063号20頁
【評釈論文】 ジュリスト1461号123頁
ジュリスト1466号236頁
【解説】
(1) 事件の概要 本件は,控訴人(一審被告)東日本電信電話株式会社(以下,「Y社」)と雇用契約を締結して労務を提供し,平成21年7月13日をもって合意退職した被控訴人(一審原告)甲野太郎(以下,「X」)が,Y社に対し,雇用契約に基づく退職金支払請求権に基づいて,退職金1375万1750円およびこれに対する遅延損害金の支払いを求めた事案である。
Y社は,日本電信電話株式会社の100%子会社で,平成11年7月1日に設立され,資本金は3350億円である。事業内容は,東日本地域における地域電気通信業務(県内通話にかかる電話,専用,総合デジタル通信などの電気通信サービス)およびこれに附帯する業務を行っている。従業員数は,グループ会社を含めると5万2100名(平22年3月現在)である。
X(昭和39年生れ)は,62年3月に大学を卒業し,同年4月1日に正社員として当時の日本電信電話株式会社に入社し,平成11年7月1日のY社設立に伴ってY社に転籍し,以後,16年4月から18年3月までY社のグループ会社に転籍し,同社に雇用されていた期間を除き,Y社に勤務したが,21年7月13日付でY社を退職した。
Xは,平成20年11月6日,自転車で通行中の当時16歳の女子高校生(以下,「被害者」)に対し,強制わいせつ行為をしようと企て,被害者の自転車の前カゴをつかんで停止させ,自転車から降りた被害者に致傷の行為をはたらき,被害者に加療1か月間を要する右手関節捻挫等の傷害を負わせ(以下,「本件非違行為」),翌年6月22日に逮捕された。
Y社では,労働者の健康状態に応じ,健康管理区分を定めているところ,Xは,平成19年6月29日,睡眠障害やうつ病により指導区分A(療養)となり,その後,有給休暇や病気休暇を取得した後に,20年7月7日から,病気の回復につとめることを前提として,賃金については減額されることなく短時間勤務措置を受けており,前記の非違行為も短時間勤務を終えた帰宅後になされたものであった。その後,前記の被疑事実により公訴が提起され,21年11月26日,Xは,懲役3年(5年間の保護観察付執行猶予)の判決を受けている。
Y社の就業規則では,退職手当について,おおむね「勤続要素」「資格要素」および「成果要素」をもとに累積される仕組みとなっており(以下,「本件退職金規定」。116~122条),仮に就業規則の算定基準に基づく場合には,Xの退職手当額は1375万1750円であった。他方,Y社の就業規則では,「法令又は会社の業務上の規定に違反したとき」(76条1号),および,「社員としての品位を傷つけ,又は信用を失うような非行があったとき」(同条11号)に懲戒解雇処分が行われ得る旨の規定,さらに,その場合には退職手当が支給されない旨の規定(122条。以下,「本件不支給規定」)がある。
Y社は,これらの各規定に基づき,前記刑事事件の判決確定後である平成21年12月24日に,Xの非違行為が就業規則の退職金不支給事由に該当することを理由として,退職金を不支給とする旨の通知をした(以下,「本件不支給」)。
本件の争点は,(1)本件不支給規定に基づきXに対して退職手当を支給しないことが許されるか,(2)遅延損害金の始期である。