「ニコシン」の称呼を生ずる商標と「ニコリン」の称呼を生ずる商標との称呼の類似性
最高裁判所第3小法廷判決/昭和54年(行ツ)第81号
昭和55年8月26日
審決取消請求事件
【判示事項】 「ニコシン」の称呼を生ずる商標と「ニコリン」の称呼を生ずる商標との称呼の類似性
【判決要旨】 <省略>
【参照条文】 商標法4-1
【掲載誌】 最高裁判所裁判集民事130号299頁
【解説】
本件は、Y(被告・被上告人)が商標登録の出願をして登録を受けた指定商品を第1類「化学品、薬剤及び医療補助品」とする「ニコシン」片仮名文字を左横きしてなる商標がこれより先に商標登録の出願がされて登録されていた指定商品を旧第1類「化学品、薬剤及び医療補助品」とする「NICHOLIN」の欧文字及び「ニコリン」の片仮名文字を上下2段に左横きしてなる商標と称呼を類似にする類似の商標であるということができるか否かが争われている事件であって、特許庁がX(原告・上告人)からの無効審判請求に基づき、Yの右商標は先願の右商標と称呼において類似しないとしてXの無効審判請求が成り立たないとの審決をしたので、XにおいてYを相手取り、右審決の取消を求めたのに対し、原審も審決を支持してYの商標は先願の商標と称呼の点において類似する類似の商標ではないとしてXの請求を棄却した。
そこで、Xから上告し、原審の認定判断の当否を争つたが、原審の認定判断が正当であるとして支持された。
さて、Yの商標と先願の商標とが称呼の点において類似するか否かを判断するにあたり、原判決は、称呼に内在する音声上の判断要素に基づき判断しているが、このような場合には、比較される両称呼の音質(母音、子音の質的きまりから生ずる音の性質)、音量(音の長短)、音調(音の強弱及びアクセント)、音節(音数)に関する判断要素のそれぞれにおいて共通し、近似するところがあるか否かを比較すべきことになるといわれている。
そして、Yの商標と先願の商標とは、それぞれの第3音が「シ」であるか「リ」であるかの違いがあるのみであるところ、審決及び原判決は、両者が音質を異にするという。
ところで、商標の称呼類否判定に関するある調査(網野・商標〔新版〕372頁以下)によれば、(イ)(1)同数の音からなる比較的短い称呼であって、相違するその1音が母音と同じくする近似音である場合、(2)同数の音からなる比較的短い称呼であって、相違する1音が50音図の同行に属する近似音である場合、(3)同数の音からなる比較的短い称呼であって、その1音が清音か、濁音か、半濁音かの相違にすぎない場合等は、原則として類似するとされ、また、(ロ)(1)同数の音からなる比較的短い称呼であって、相違するその1音が頭音である場合、(2)同数の音からなる称呼であって、相違するその1音が母・子音とも異なる強音と弱音である場合等は、原則として類似しないとされているということであって、この基準は、特許庁の商標審査基準と1致するようでもあるが、この基準によるとすれば、「シ」と「リ」との相違にもかかわらず、右(イ)(1)の適用をみるとしてよいか否かが結局Yの商標と先願の商標とが称呼の点において類似するということができるか否かの決め手となることになる。
そして、本判決は、母音が共通である「シ」と「リ」とは近似音であるということはできないというものであるといって差し支えない。
したがって、他の商標どうしの称呼の類否が問題となるときにも、その相違が「シ」と「リ」とにすぎないときは、原則として両者は称呼が類似しないとして差し支えないことを示唆することにもなろう。
最高裁判所第3小法廷 昭和54年(行ツ)第81号 審決取消請求事件 昭和55年8月26日