形骸化した契約更新を繰り返してきていた平成25年の時点で,「Xの契約更新に対する期待は相当に高い | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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形骸化した契約更新を繰り返してきていた平成25年の時点で,「Xの契約更新に対する期待は相当に高いものがあった」として,労働契約法19条2号により保護されるべきと判示したうえで,Y社が主張する人件費削減の必要性等の「一般的な理由」では本件雇止めの合理性肯定には不十分だとして,本件雇止めは客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められず,Y社が従前の有期雇用契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなされると判断された例

 

福岡地方裁判所判決/平成30年(ワ)第1904号

令和2年3月17日

雇用契約上の地位確認等請求事件

【判示事項】    1 被告Y社の事務系契約社員として1年ごとの有期雇用契約を29回にわたって更新,継続されてきた原告Xの,労働契約法に基づく無期転換ルールを契機とする雇止めにつき,契約更新に対する期待の合理性が肯定され(同法19条2号),労働契約上の地位確認請求ならびに賃金および賞与の支払請求が認容された例

2 約30年にわたり本件雇用契約を更新してきたXにとって,Y社との有期雇用契約を終了させることは,その生活面のみならず,社会的な立場等にも大きな変化をもたらすものであり,その負担も少なくないものと考えられるから,XとY社との間で本件雇用契約を終了させる合意を認定するには慎重を期す必要があり,これを肯定するには,Xの明確な意思が認められねばならないとされた例

3 労働契約法に基づく無期転換ルールの施行に合わせて,Y社が平成25年4月以降の雇用契約書に設けた30年4月以降の「不更新条項」を,Xが承知したうえで契約書に署名押印していたとして,雇用契約終了に合意があったとするY社の主張につき,Xにとっては,署名押印を拒否すると契約更新できなかったものであり,「署名押印をしていたからといって,直ちに,Xが雇用契約を終了させる旨の明確な意思を表明したものとみることは相当ではない」として,雇止めに当たると判示された例

4 平成25年までは署名押印するだけの形骸化した契約更新を繰り返していたが,同年以降は,契約更新に当たり,目標管理による評価や契約更新通知書の交付,面談をするようになったことから,「本件雇用契約を全体として見渡したとき,その全体を,期間の定めのない雇用契約と社会通念上同視できるとするには,やや困難な面がある」として,労働契約法19条1号該当性が否定された例

5 形骸化した契約更新を繰り返してきていた平成25年の時点で,「Xの契約更新に対する期待は相当に高いものがあった」として,労働契約法19条2号により保護されるべきと判示したうえで,Y社が主張する人件費削減の必要性等の「一般的な理由」では本件雇止めの合理性肯定には不十分だとして,本件雇止めは客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められず,Y社が従前の有期雇用契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなされると判断された例

【参照条文】    労契法19

【掲載誌】     判例時報2455号75頁

          労働判例1226号23頁