「義務教育諸学校の教科用図書の無償措置に関する法律」施行前において、市立中学校の教諭及び校長が当該市教育委員会で採択する教科書の選定に関与したことが、刑法197条1項の職務にあたるとされた事例
大阪高等裁判所判決/昭和44年(う)第795号
昭和52年3月18日
贈賄被告事件
【判示事項】 「義務教育諸学校の教科用図書の無償措置に関する法律」施行前において、市立中学校の教諭及び校長が当該市教育委員会で採択する教科書の選定に関与したことが、刑法197条1項の職務にあたるとされた事例
【参照条文】 刑法197-1
刑法198-1
【掲載誌】 判例タイムズ357号326頁
【解説】
一、本件は、教科書出版社の宣伝販売担当者から、市教育委員会が採択すべき公立中学校の使用教科書の選定に関与する公立中学校の校長・教諭等に対する贈賄の事案で、右校長・教諭等の教科書の選定採択に関与する行為が、刑法197条1項にいう「職務」にあたるか否かが争われたものである。
二、原審は、右校長・教諭等が教科書の選定採択に関与することは、固有の職務権限としての教育実施に不可欠の教科書の採択に関するもので、市教委の教科書採択事務を補助する性質を有し、固有の職務と密接な関係があるものと判示した(判タ233号261頁)。
三、これについて控訴趣意の論旨が、市教委が自らなすべき教科書採択事務を市立中学校の教諭・校長に適法に補助させうる根拠はなく、右教諭・校長が市教委の職務命令あるいは指示等に応じて右事務を補助したとしても、それは事実上のものであり、教諭・校長の固有の職務行為でないことは勿論、その職務に密接な関係のある行為であるともいえないとして、原判決の法令の解釈適用の誤りを主張したのに対し、本判決は、昭和38年法律182号「義務教育諸学校の教科用図書の無償措置に関する法律」施行前の本件当時においても、市立中学校の使用教科書の採択権限そのものは当該市教委にあつたと解されるが、いかなる教科書が選定採択されるかは、その本来の職務である生徒の教育に携わる教員にとつて甚だ重要なことであり、市教委が採択すべき教科書の選定につき、各教員の調査研究・協議に基づく意見を聴き、これを取り入れてゆくとの方針のもとに、諮間機関を設置するなど、その手続・方法を定めた場合において、右手続・方法に従い、所管の中学校の教諭が、その意見を反映させ、教科書選定の手続に参加してその一翼一端をにない、選定に寄与することは、本来の職務に密接な関係のある準職務行為であり、また、校長が、所属中学校の教員の教科書選定に関する意見を取りまとめ、自校教員を代表する者として他校の校長らと協議し、その結果を市教委に報告するなどして、右教科書の選定に寄与することは、本来の職務行為ないしはこれと密接な関係のある準職務行為であるとした上で、本件当時における各市教委の中学校教科書の採択にあたつての各市立中学校の教諭・校長等の関与の実体(判文前半参照)に即してみる限り、右教諭・校長等の関与は、本来の職務行為、あるいはこれと密接な関係にある準職務行為であるとみるのが相当である旨判示した。
そして、本判決は、原判決が、教諭・校長の教科書の選定に関する行為が、市教委の教科書採択事務を補助する性質を有するとした点については、市教委が自ら行う選定に資するために限られた特定少数の教諭・校長の意見を求めた場合であるなら、右教諭・校長の活動は純粋に市教委の事務を補助する性質のものであるということができるけれども、これをもつて本来の職務行為、あるいはこれと密接な関係のある準職務行為であるとすることには疑問の余地があるとしたが、教諭・校長が教科書の選定に関与する行為をどのような観点から職務に関するものとみるかについては、原判決の見解とは異にするものの、結局これを教諭・校長の職務に関するものとした点においては、原判決には誤りはないとして、論旨は理由がないものとした。