会社の女子従業員が同会社の男子従業員がのぞき見目的で会社の女子トイレ内に侵入しているのを発見したことにつき、事業主には事実関係を迅速かつ正確に調査するとともに事案に誠実かつ適切に対処する義務があり、同会社はその義務を怠ったと認められた事例
仙台地方裁判所判決/平成11年(ワ)第528号
平成13年3月26日
雇用関係存在確認等請求事件
【判示事項】 1 会社の女子従業員が同会社の男子従業員がのぞき見目的で会社の女子トイレ内に侵入しているのを発見したことにつき、事業主には事実関係を迅速かつ正確に調査するとともに事案に誠実かつ適切に対処する義務があり、同会社はその義務を怠ったと認められた事例
2 その後、当該女子従業員が会社を辞めたことについて、被告に解雇・退職回避義務違反が存在せず、任意退職にあたると認められた事例
【参照条文】 民法709
民法715
【掲載誌】 判例タイムズ1118号143頁
労働判例808号13頁
主 文
1 被告は、原告に対し、金350万円及び内金320万円に対する平成10年5月31日から、内金30万円に対する平成11年6月4日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は6分し、その5を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り仮に執行することができる。
【解説】
1 本件は、被告に勤務していた原告が、被告の男子従業員がのぞき見目的で被告営業所の女子トイレ内の掃除道具置場に侵入しているのを発見したことについて、被告に対し、早期かつ迅速な事実関係の調査を求めたのに、被告がこれを怠っただけでなく、原告に対し様々な嫌がらせを行うなど不適切な対応を重ねたうえ、原告を不当に解雇したとして、被告に対し、いまだ被告の従業員たる地位を有する旨の雇用契約上の地位の確認や構造上のぞき見できる欠陥のある女子トイレを放置した職場環境整備義務違反並びに上記の被告の不適切な対応や不当解雇による不法行為に基づく慰謝料として1000万円の支払いなどを求めた事案である。
2 本判決は、事業主は、従業員に対し、雇用契約上の附随義務として、良好な職場環境の下で労務に従事できるよう施設を整備すべき義務を負うとともに、職場においてセクシャルハラスメントなど従業員の職場環境を侵害する事件が発生した場合には、事実関係を迅速かつ正確に調査すること及び事案に誠実かつ適切に対処する義務を負うとともに、その後当該従業員が解雇や退職がなされることのないように配慮すべき義務(解雇・退職回避義務)を負うとした。
本判決は、本件では、被告の営業所内の女子トイレの構造には欠陥があるものの、被告はこれを認識予見することができなかったと判断して被告に職場環境整備義務違反は存在しないとした。
次に、本判決は、本件について、原告が直接のぞき見された訳ではなく、原告にセクシャルハラスメントの被害が直接に及んだ事案ではないが、被告の営業所内で発生したのぞき見目的での侵入事件について、原告が被告従業員の侵入行為を発見していなければ将来において女子従業員のプライバシーが侵害されることになること、過去に同種行為が行われていた可能性もあることから、職場環境を侵害する事案として、被告には誠実かつ適正に対処する義務があると認定した上で、被告は、上記の侵入行為を行った男子従業員の言い分を漫然と事実と受け止めるような態度をとり、事実関係を迅速かつ正確に調査し、事案に誠実かつ適切に対処する義務を怠ったものと判断した。
雇用契約上の地位の確認については、上記侵入事件以後、原告は、被告が原告の望むような対応してくれなかったことに不満を持ち、被告営業所の店長に対し出退勤時の挨拶をしなかったり、同店長の仕事上の指示に対し睨み付けたりするなど、同店長との折り合いの悪さが顕在化し、被告営業所での経営全体に支障を来たすようになっていたとして、退職を強く薦めた被告に解雇・退職回避義務違反はないとし、原告が任意退職したものと認定した。