商法293条ノ7第2号の「会社ト競合ヲ為ス会社」には、近い将来会社と競業を行う蓋然性が高い会社が | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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商法293条ノ7第2号の「会社ト競合ヲ為ス会社」には、近い将来会社と競業を行う蓋然性が高い会社が含まれるとして、株主の帳簿等閲覧謄写仮処分命令申立が却下された事例

 

東京地方裁判所決定/平成6年(ヨ)第20010号

平成6年3月4日

帳簿・書類の閲覧謄写仮処分命令申立事件

【判示事項】    1 商法293条ノ7第2号の「会社ト競合ヲ為ス会社」には、近い将来会社と競業を行う蓋然性が高い会社が含まれる

2 商法293条ノ7第2号の「会社ト競合ヲ為ス会社」に該当するとして、株主の帳簿等閲覧謄写仮処分命令申立が却下された事例

【判決要旨】    商法293条ノ7第2号所定の「会社ト就業ヲ為ス会社」には、近い将来競業を行う蓋然性の高い会社も含まれ、この会社の目的中に帳簿書類の閲覧謄写を請求されている会社の事業と実質的に同1なものがあること、この目的事業には経営者等の企画力等に大きな比重があること、閲覧謄写請求株主は被請求会社の元代表取締役であって、いわゆるクーデターによって代表取締役を辞任し、新会社を設立して株主となりその代表取締役に就任したなどの事実関係の下では、新会社は前記の「競業ヲ為ス会社」に当たり、右株主からの帳簿書類の閲覧謄写請求は許されない。

【参照条文】    商法293の6

          商法293の7

【掲載誌】     判例タイムズ875号265頁

          金融・商事判例942号17頁

【解説】

 本件は、債権者が商法293条ノ6の株主の帳簿閲覧等請求権を被保全権利として債務者の会計の帳簿及び書類の閲覧及び謄写を求めた仮処分命令申立事件であり、債権者が債務者会社の代表取締役であった経歴を有し、かつ、未だ営業を行っていないものの、帳簿閲覧等を請求する約9か月前に債務者会社の行う事業と同種の事業を目的とする会社を設立し、その株主、代表取締役となったなどの事情がある場合には、債権者が同法293条の7第2号の「会社ト競業ヲ為ス会社」の株主、取締役に該当するとして、申立てを却下した事案である。

 本決定は、会社の経営に関わる者の間で対立が生じ、その一部が旧会社から去って競業を目的とする新会社を設立し、その営業開始前に旧会社の企業秘密を入手するために帳簿閲覧等を求める場合を考えることができ、このような近い将来旧会社と競業を行う蓋然性の高い新会社の関係者からの請求は、現に競業を行う会社の関係者からの請求と比べた場合、会社に甚大な被害を生じさせるおそれがある点において実質的に変わるところはないから、「会社ト競業ヲ為ス会社」には現に競業を行う会社のみならず、近い将来競業を行う蓋然性が高い会社も含まれると解するのが相当であるとして、債権者の申立てを却下したもので、商法293条の7に定める拒否事由について実質的解釈を行った事案としても注目される。