Xは,疲労の蓄積により脳・心臓疾患を発症する危険性の高い状況にあり,被告Y1社はそれを十分に認識可能であったことが認められ,Y1社としては,Xにかかる負荷が過重なものとなって上記の危険性が現実化することのないよう,Xについて適正な労働条件を提供する義務があったというべきところY1社は,上記の義務をつくさず,Xを過重労働に従事させ,本件脳梗塞の発症に至らせたのであるから,Y1社に安全配慮義務違反があることは明らかであり,また,Y1社代表取締役の被告Y2は,Y1社の代表者として,その被用者につき適正な労働条件が確保されるよう管理する職務上の義務を負っていたところ,Y2は,重過失により上記義務を懈怠したものと認められるとされた例
神戸地方裁判所尼崎支部判決/平成17年(ワ)第944号
平成20年7月29日
損害賠償請求事件
【判示事項】 1 労働者が基礎疾患を有している場合に,業務に起因する過重な精神的・身体的負荷によって労働者の上記基礎疾患がその自然経過を超えて増悪し,脳・心臓疾患を発症するに至った場合には,上記の業務による過重負荷が脳・心臓疾患発症の共働原因となったものとして,労働者の従事していた業務と脳・心臓疾患との間の相当因果関係を肯定するのが相当であるとされた例
2 高血圧症,喫煙習慣等により何らかの基礎疾患を有する状態にあったとされた原告Xのタクシー運転業務従事中の脳梗塞発症につき,Xの従事していた業務は,その労働時間,拘束性,勤務体制のいずれの点をとってみても同種労働者にとって過重なものということができるところ,Xは本件発症当時71歳と高齢であって,Xと同年齢の同種労働者にとって上記業務の過重性は一層顕著なものといえるから,Xの上記業務は,その基礎疾患を自然経過を超えて著しく増悪させ得るものと客観的に認められる程度に過重なものと認めることができ,Xについては,上記過重業務に起因する過重な精神的・身体的負荷が共働原因となって,その基礎疾患がその自然経過を超えて増悪し,本件脳梗塞を発症するに至ったものであるとして,Xの業務と本件発症との間の相当因果関係が肯定された例
4 Xの損害額につき,休業損害236万余円,後遺障害逸失利益1110万余円(就労可能年数6年),後遺障害慰謝料2000万円,将来介護費用606万余円等を認めたが,6割の寄与度減額を相当とし,また障害補償年金等との損益相殺を行ったうえで,Y1社およびY2に対し,合計1158万余円の連帯支払いが命じられた例
【掲載誌】 労働判例976号74頁