労働者供給の申込みがY社の自由裁量に委ねられ,その結果,有期労働契約の更新の場面に労働契約法19条が適用されなくなるとすれば,本件供給契約は,労働者保護の観点から労働者供給事業の原則禁止を定めた職業安定法44条の趣旨に反するとともに,労働契約法19条による規制を潜脱するものとして公序良俗に反し無効というべきであり,本件供給契約は,Y社に労働者供給の申込みについて自由裁量を与えたものと解することはできず,Y社が有期労働契約の期間満了を迎えたXらについて,本件供給契約に基づく供給申込みをしなかったことは,当該有期労働契約について更新しないことを意味するから,労働契約法19条柱書の「申込みを拒絶する」場合に該当するとされた例
東京地方裁判所決定/平成28年(ヨ)第21021号
平成28年8月9日
地位保全等仮処分命令申立事件
国際自動車事件
【判示事項】 1 労働者供給の申込みをするか否かは債務者Y社の自由裁量であり,本件供給契約は労働契約法や労働基準法の規制に服さず,本件雇止めに労働契約法19条の適用はないとY社が主張した点について,Y社からの供給申込みが契機となるとしても,債権者XらとY社との契約関係は雇用関係であるから,労働契約法および労働基準法が適用されるとされた例
3 ①有期労働契約の更新年数および回数,②Xらの業務内容,③対象となる供給労働者に上限年齢がないこと,④Xらの有期労働契約の更新の有無は一定の合理的な判断基準に基づくものとされていることなどを踏まえると,Xらにおいて,各契約の満了時に当該契約が「更新されるものと期待することについて合理的な理由がある」(労働契約法19条2号)と認めるのが相当であるとされた例
4 Y社のあげたXらとの契約を更新しない理由について,それらを理由に契約更新を拒絶する(供給申込みをしない)ことは,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められないとされた例
5 本件雇止めの主たる理由は,Xらが別件訴訟を提起した点にあると推認することが相当であり,Xらによる別件訴訟の提起は,それが一見して正当な権利を有しないことが明白であるような特段の事情のある場合を除き,労働基準法上の正当な権利行使というべきであり,有期労働契約の更新を拒絶する合理的な理由に当たらないとされた例
6 Xらの主張する賃金額の一部について保全の必要性は認められるが,地位保全の必要性を認めるべき特段の事情は認められないとされた例
【掲載誌】 労働判例1149号5頁