法人ノ税確定申告書及びその添付書類が商法293条ノ6第1項にいう「会計ノ帳簿及書類」に該当しないとされた事例
大阪地方裁判所判決/平成9年(ワ)第9750号
平成11年3月24日
会計帳簿等閲覧謄写請求事件
【判示事項】 1 法人ノ税確定申告書及びその添付書類が商法293条ノ6第1項にいう「会計ノ帳簿及書類」に該当しないとされた事例
2 商法293条ノ7第1号前段にいう「株主の権利ノ確保若ハ行使ニ関シ調査ヲ為ス為ニ非ズシテ請求ヲ為シタルトキ」に該当するとして、株主の会計帳簿等閲覧・謄写請求を棄却した事例
【参照条文】 商法293-7
【掲載誌】 判例タイムズ1063号188頁
判例時報1741号150頁
【解説】
1 原告は不動産の売買、仲介等を目的とする株式会社であり、被告の発行済株式総数の約10・05パーセントの株式を保有する株主である。
原告は、平成9年6月、被告に対し、書面で、過去5年分の税務申告書の写しを要求したが、被告がこれに応じないとして、本訴を提起し、被告に対し、その第53期から第57期までの総勘定元帳及びその補助簿並びに法人税確定申告書及びその添付書類(法人税法施行規則35条所定)の閲覧及び謄写を求めた。
これに対し、被告は、(1)法人税確定申告書及びその添付書類は、商法293条ノ6第1項にいう「会計ノ帳簿及書類」に該当しないと反論するほか、(2)原告が、本件訴訟において閲覧・謄写請求の必要性の理由としてあげるところ(利益配当不履行の原因の究明、損失計上の理由の解明等)は、真の目的ではなく、その請求は、原告の違法な利益供与の要求を実現するため、株主権の行使に名を借りて被告に対する牽制を目的としてされたものであって、同法293条ノ7第1号前段に該当すると主張した。
2 本判決は、(1)について、「商法293条ノ6第1項にいう『会計ノ帳簿』とは、同法32条1項にいう「会計帳簿」と同義であり、成立の時及び毎決算期における営業上の財産及びその価額、取引その他営業上の財産に影響を及ぼすべき事項を整然かつ明瞭に記載した帳簿であり、会計帳簿を作成する材料となった書類その他会計帳簿を実質的に補完すると認めるべき書類を意味するものと解するのが相当である。また、同法293条ノ6第1項にいう『会計ノ書類』とは、会計帳簿を作成する材料となった書類その他会計帳簿を実質的に補充すると認めるべき書類を意味するものと解するのが相当である。」とした上で、制度の仕組みとして、法人税確定申告書及び添付書類は、株主総会において承認されるなどして確定した計算書類(商法283条、株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律16条参照)及び申告調整に必要な総勘定元帳を材料として作成されるものであって、会計帳簿を作成する材料となった書類その他会計帳簿を実質的に補完すると認めるべき書類には当たらないものというべきであるから、『会計ノ書類』には該当しないと判示した。
法人税確定申告書等が『会計ノ帳簿』に該当しないとした裁判例は、(1)東京地決平1・6・22判タ700号155頁、判時1315号3頁、(2)横浜地判平3・4・19判タ768号227頁がある。
なお、原告は、商法が会計帳簿等の閲覧等を認めた趣旨に照らして、税務会計上の損益を示す法人税確定申告書及びその添付書類は対象となると主張し、本決定は、税務会計の重要性は認めつつ、右主張は容れていないが、連結財務諸表の作成上、税効果会計が導入されると、法人税確定申告書の控えが「会計の書類」であるという解釈が広まるのではないかと思われるという指摘をする見解がある(商事1522号14頁)。
3 また、争点(2)について、本判決は、原告及び原告の実質的オーナーであるAが代表者を務めるB会社が、被告所有の土地について、原告に専任媒介権を付与した上、B会社に廉価で売却するよう求めていたこと、被告がこれに対して確答を与えなかった時期と相前後して原告が本件閲覧謄写請求をするようになったこと、提訴前の会談において、被告の代表者は、Aに対し、本件帳簿等の閲覧謄写の請求に応じるという申入れをしたのに、Aはこれに応じず、本訴を提起したこと、右会談において、Aが被告に対し、原告及びB会社に前記不動産の売却に商機を与えるよう強く希望した上、被告の役貝らが本件訴えの提起を思いとどまるよう懇請したのに対し、提訴を中止することはできないが、時期を見て取り下げることはあり得る等の回答をしていること等、本件訴えの提起に至る経緯、その後の経過等の諸事情について事実を詳細に認定した上、原告の本件閲覧謄写請求は、本件帳簿等の閲覧謄写自体を目的とするものとは到底認められず、原告の実質的オーナーが代表者をしている訴外会社へ、不動産の廉価売却をさせようとして被告との間で行われる交渉を有利に運ぶための手段としてされたものと推認され、商法293条ノ7第1号前段にいう「株主ノ権利ノ確保若ハ行使ニ関シ調査ヲ為ス為ニ非ズシテ請求ヲ為シタルトキ」に該当するとした。