常位胎盤早期剥離による胎児の死亡事故につき、医師の過失を否定したが、助産婦の観察報告義務懈怠を理 | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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常位胎盤早期剥離による胎児の死亡事故につき、医師の過失を否定したが、助産婦の観察報告義務懈怠を理由に、国(病院)の使用者責任を肯定した事例

 

東京高等裁判所判決/昭和56年(ネ)第2714号

昭和58年10月27日

損害賠償請求控訴事件

【判示事項】    常位胎盤早期剥離による胎児の死亡事故につき、医師の過失を否定したが、助産婦の観察報告義務懈怠を理由に、国(病院)の使用者責任を肯定した事例

【参照条文】    民法709

          民法715

          医師法19

          医師法20

【掲載誌】     判例タイムズ516号143頁

          判例時報1093号83頁

【解説】

 本件は、妊婦X1(昭和24・6・23生れ)が、昭和52年10月23日午前3時すぎ頃、Y1(国)の管理する病院に入院し感染予防等の措置を受けていたが、同日午前7時頃、同病院助産婦Sに対し性器からの液体流出を、その後多量の出血のあつたことをそれぞれ告げたのに、同助産婦は、出血(血性分泌)を十分調べずこれを当直産婦人科医Y2に連絡しないで経過のところ、Y2は、同日午前9時20分頃X1の胎盤早期剥離の疑いを抱き、同10時すぎから帝王切開をしたが胎児は死産であつたので、X1及びその夫X2から、Y1、Y2に対し、不法行為に基づき、慰藉料、弁護士費用を請求し、Yらにおいてこれを争っていたところ、原判決が、診療体制に問題なく、分娩経過も異常でなかつた等からY2の過失等を否定して請求を棄却したので、Xらにおいて控訴した事案である(詳細は、原判決等を参照されたい。控訴審において新たな主張はない)。

 本判決は前示のようにX1が前期破水の状態で入院し、同日午前7時頃、S助産婦がX1の異常を認めているのに、その出血の量等を確認せずこれを「しるし」と認めて当直医Y2に報告もせずに放置し、9時20分頃診察の際、常位胎盤早期剥離等の診断で直ちに帝切にふみ切つたとし、この場合、助産婦の観察報告義務を認めても助産婦に過度の負担でないし、医師の立会することはその負担が大きいとして、Y2が従前の勤務体制(異常を認めないときは助産婦の手で出産する)によつたことに過失はない(その他、医師法19条の診療義務違反もなく、感染を阻止するための筋注の指示も同法20条に反しないし、仮にそうとしても胎児の死亡との間に相当因果関係がない)、また、手術の実施方法にも過失がないとしたが、S助産婦については、X1の午前7時頃の状況は異常出血であり、これを看過せず直ちに迅速な措置をとるべきである(かつ、急激な羊水減少が常位胎盤早期剥離の要因の一であることを教えられている)とし、したがって、この出血の状況につきY2に報告しその診察を求めるべきであつたのに、Sにはこれを単に「おしるし」と誤認し、右報告をしなかつた過失があるとし、これをすれば児の生命を救う方法があつたとみて、その過失と死の結果との間に相当因果関係を認め、Y1につきSの使用責任を肯定して、Xらの慰藉料請求を一部認容した。

 本判決が、医療体制(一種の分業)に従つた医師の措置についてその過失を否定したのは、当直医の立場をも考慮したものともいえるが、かかる配慮は医療のあり方ともからみ、病院の責任とその責任が肯定される場合の医師個人の責任にも影響を及ぼすものと思われ(医師の責任を否定し病院の看視体制上の責任を肯定した横浜地判昭58・5・20判タ506号167頁参照。