航空機乗務員(パーサー)についての当該勤務割制度の趣旨からみて、会社は、いったん指定した勤務割を | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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航空機乗務員(パーサー)についての当該勤務割制度の趣旨からみて、会社は、いったん指定した勤務割を変更しうる権限を有し、それは、右変更が勤務日当日であるか否かによって異なるものではないとされた例

 

東京高等裁判所判決平成元年2月27日

懲戒処分無効確認等請求控訴事件

【判示事項】 1 航空機乗務員(パーサー)についての当該勤務割制度の趣旨からみて、会社は、いったん指定した勤務割を変更しうる権限を有し、それは、右変更が勤務日当日であるか否かによって異なるものではないとされた例

2 会社の勤務割変更を労働組合に相談するために返答を猶予したものであって、会社の勤務割変更命令を拒否したとまではいえないとされた例

3 勤務割変更命令の拒否を理由とする、航空機客室乗務員に対する下位職勤務等の処分を無効とし、慰藉料支払いを命じた原判決が維持された例

【掲載誌】  労働関係民事裁判例集40巻1号188頁

       労働判例541号84頁

       労働経済判例速報1353号6頁

【解説】

(1) 本件は、勤務割上「休養時間」にあった航空機客室乗務員(パーサー)に対し、右勤務割を変更して、休養時間をくり上げ、別便に乗務すべき旨を命じたところ、右乗務員がこれを拒否したことを理由に、2カ月間、下位職たるアシスタントパーサーとして勤務すべき旨を命じ、賃金額を減額する懲戒処分をなすとともに、右処分を公表したことにつき、右客室乗務員が、(イ)右懲戒減給処分の無効確認、(ロ)慰藉料の支払い、および、(ハ)謝罪文の交付を求めたものであるが、1審は、右(イ)、(ロ)の請求を認容し(ただし、慰藉料は20万円)、(ハ)の請求を棄却し、本判決も右結論を維持した。

 (2) 1審判決の論旨は必ずしも明確といい難い面もあるが、要するに、勤務時間の繰上げによる「従業員の受ける社会生活上の不利益は著しく大きい」のであるから、「勤務時間の繰上げを当日になって命じることは、勤務協定にこれを認める規定が存在するか、又はその旨の事実たる慣習が存在しない限り、許されない」との判断を前提としている。これに対し、本判決は、権利濫用となる場合があることを肯定しつつも、会社は勤務割を変更しうる権利を有し、勤務割変更が勤務日当日であっても変わりはないとしている。

  しかし、勤務割の決定は、勤務日および勤務時間帯(始業・終業の時刻)の特定であり、いったん右特定がなされた以上、右勤務形態を内容とする権利義務関係が特定されたとみるべきである。加えて、労基法89条1項は、就業規則の絶対的必要記載事項として、労働時間については、「始業及び終業の時刻」を特定すべきことを求めているが、右は、労働時間帯のあらかじめの特定が労働者の健康と私生活とにとって重大な意味をもつことに着目したものである。とすると、基本的発想としては、勤務割の一方的変更の肯定=例外的場合の否定ではなく、一方的変更の否定=例外的場合の肯定というように考えるべきものと思われる。

  ともあれ、改正労基法による変形労働時間制の拡大に伴い、本判決は、変形労働時間制の下における勤務割変更の法的性格とその限界ということにつき、重大な論点を提起している。

 (3) 本判決は、本件は業務命令の「拒否」にはあたらないとした。判決の認定を前提とすれば、右は妥当な判断と思われるが、逆に、そうであるとすれば右前段の判断は果たして必要であったのかが問われることにもなろう。