被用者の横領行為によって損害を被ったという使用者が、その横領に係る金員が預け入れられ、払戻しがされた預金口座の開設先である金融機関に対し、同口座の開設時ないし払戻時の本人確認義務違反を理由として損害賠償を求めた請求を棄却した第1審判決が控訴審においてその結論は相当であるとして是認された事例
東京高等裁判所判決/平成28年(ネ)第4305号
平成29年2月2日
損害賠償請求控訴事件
【判示事項】 被用者の横領行為によって損害を被ったという使用者が、その横領に係る金員が預け入れられ、払戻しがされた預金口座の開設先である金融機関に対し、同口座の開設時ないし払戻時の本人確認義務違反を理由として損害賠償を求めた請求を棄却した第1審判決が控訴審においてその結論は相当であるとして是認された事例
【判決要旨】 被用者の横領行為によって損害を被ったという使用者が、その横領に係る金員が預け入れられ、払戻しがされた預金口座の開設先である金融機関に対し、同口座の開設時ないし払戻時の本人確認義務違反を理由として損害賠償を求めた請求を棄却した第1審判決は、被用者の同口座の開設時に金融機関が行政法規に基づく本人確認を怠ったことが直ちに使用者に対する不法行為を構成する注意義務違反であるとはいえないだけでなく、同義務違反と使用者の損害との間に因果関係もなく、また、被用者の同口座からの払戻時に金融機関が行政法規に基づく本人確認を怠ったとしても、そのことから直ちに金融機関において同口座が架空名義口座であることについて容易に認識することができたとは認められず、同口座に入金される金員が犯罪により獲得された収益であって、被害者から振り込まれた金員であるおそれについて予見することができたとはいえない判示の事実関係の下においては、原判決が金融機関の本人確認義務それ自体を否定して使用者の請求を棄却したその結論は相当である以上、これを是認すべきものである。
【参照条文】 民法666
民法709
民法715
犯罪による収益の移転防止に関する法律2-2
犯罪による収益の移転防止に関する法律4
【掲載誌】 金融・商事判例1529号27頁