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農業共済組合連合会の理事らがその余裕金を用いて国債取引を繰り返し,損害を発生させたとして,農業共済組合連合会が理事らに対してした損害賠償請求の事例

 

東京高等裁判所判決/平成28年(ネ)第1765号、平成28年(ネ)第2957号

平成28年8月10日

損害賠償,同反訴請求控訴,同附帯控訴事件

【判示事項】    農業共済組合連合会の理事らがその余裕金を用いて国債取引を繰り返し,損害を発生させたとして,農業共済組合連合会が理事らに対してした損害賠償請求が,損害の発生も理事らの善管注意義務違反も認められないとして,棄却された事例

【参照条文】    農業災害補償法32の2-2

          民法415

【掲載誌】     判例タイムズ1434号121頁

【解説】

 1 本件は,(1)農業共済組合連合会であるXが,Xの会長理事であったA(本件訴訟の提起前に死亡),常務理事であったY1及び参事であったY2(以下,併せて「Aら」という。)において,平成13年4月17日から平成19年1月17日までの間にXの名でその余裕金を用いて国債取引を繰り返したこと(以下「第1取引」という。)が,Xにおいて禁止されていた有価証券の投機的売買又は短期間における回転売買による運用に当たり,これによりXに17億1597万2920円の損害を発生させたと主張して,Aの相続人であるY3及びY1につき農業災害補償法32条の2第2項及びX定款に基づき,Y2につき民法415条及びX就業規則に基づき,上記損害の一部である4億円を連帯して支払うことを求め(本訴),(2)これに対して,Yらが,Xにおいて,上記損害の発生及び原因について,Xを構成する農業共済組合等の組合員に対し書面で報告し,報道機関に対し発表したことや,Yらを被告として本件訴訟を提起したことなどが,Aらの名誉を毀損したと主張して,Xに対し,不法行為責任に基づき,慰謝料として各500万円の損害賠償及びこれらに対する遅延損害金の各支払を求めた(反訴)事案である。

 原審(新潟地判平成28年2月19日・公刊物未掲載)がXの本訴請求及びYらの反訴請求をいずれも棄却したところ,その各敗訴部分につき,Xが各控訴し,Yらが各附帯控訴した。

 2 本件の主たる争点は,①第1取引によってXに損害が生じたか,②Aらが第1取引を行ったことが,理事又は参事として善管注意義務に違反するか,③Xによる報告,発表等がAらに対する名誉毀損に当たるか(反訴)である。

 3 本判決は,争点①について,第1取引の結果,Xに17億1597万2920円の損失が発生したと見ることができるとしても,上記損失よりも第1取引後に行った第2取引の結果発生した含み益及び処分益の合計額の方がより多額となっていて,本件の国債取引の損益を全体として評価すると利益が出ていること,Xにおいて,第1取引の終了時点で保有していた国債を満期まで保有するならば,結局のところ額面額で償還を受けることができること,その後に国債価格が概して上昇したことから,含み損は解消したと考えられること等を理由に,第1取引によって上記損失を生じたことから,直ちに,Xに対して賠償すべき損害が発生したとはいえないと判示した。

 4 次に,争点②について,第1取引は,約5年9か月の間に延べ482回にわたって行われ,月平均約7回と頻回に行われたが,その多くは入替取引であったこと,農業災害補償法施行規則26条によれば,国債を保有することによる余裕金の運用が認められていること,Aらが第1取引を行った目的が受取利息を増大させることにあって,値上がり益の増大を目的としたものではなかったこと,Xは,その予算において,期待利息収入額を計上しており,余裕金で保有する国債から受取利息の収入を得て,それをもってXの経費を支弁することを予定していたこと,入替取引によって処分益が発生した場合にも処分益を計上することなく,処分益を事業経費に支出してもいないこと,国債の満期前における売却を禁止する法令上の規定が存しないこと等の事実を認定した上,Aらは,第1取引において,値上がり益の取得を目的として頻回の取引を行ったものではないのであるから,第1取引は,投機的売買や短期間回転売買には該当せず,法令上禁止された行為を行ったとはいえないと判示して,本訴請求を棄却した。

 その一方で本判決は,理由説示中で,Aらが第1取引において有価証券処分損が貸借対照表等に計上されない単価調整を伴う入替取引を長期間継続したのは,処分損等を顕在化させないまま,これを繰り延べる経理処理を続けたものであって,その結果,Xの資金運用管理委員会への処分損発生に関する情報提供がされることなく推移したのであるから,Aらのこれらの行為は不適切であったし,X内部における職責に応じた処分等を受けることもあり得たとしている。その上で,農林水産省による常例検査において第1取引について取り立てて指摘がされなかったことに加え,平成19年における常例検査においてこの点について指摘がされるや,Aらにおいて直ちに是正を図り,その後に行った第2取引については問題点が解消されたのであるから,上記の不適切な処理について,Aらにおいて損害賠償義務を負う程度にまで善管注意義務に違反する行為をした違法なものであるとは認め難いと判示した。

 5 他方,Yらの反訴請求について,本判決は,Xが,組合員に対して,説明文書を配付して事情を説明するのは当然のことであるし,第1取引の態様,AらのXにおける立場等を勘案すると,説明文書にAらの落ち度に関する記載がされることは,Aらにおいても甘受すべきやむを得ないものであるとし,Xが,本訴を提起したことについても,Xが設置した業務運営検証委員会の調査や検証の結果等を踏まえて必要と判断した結果であって,これについて,Xが主張する損害賠償請求権が法的根拠を欠く上に,Xの理事においてそのことを知っていたとか,知り得たのに,あえて本訴を提起したと認められる事情はなく,Xにおいて,報道機関にAらの行為について自ら公表したことを認めるに足りる証拠はないとした。そうすると,XがAらに対して,その名誉権を違法に侵害する行為を行ったとは認め難いとして反訴請求を棄却した。