東京高等裁判所判決/平成21年(ネ)第230号、平成21年(ネ)第2751号
平成21年7月30日
債務不存在確認,報酬金等反訴,報酬金返還請求控訴,附帯控訴事件
【判示事項】 法律事務所の経営者弁護士と勤務外国人弁護士との間の報酬加算合意の解除が認められた事例
【参照条文】 民法540
【掲載誌】 判例タイムズ1313号195頁
【解説】
1 本件は,弁護士事務所の経営者弁護士Xと勤務外国人弁護士Y(Yは外国弁護士による法律事務の取扱いに関する特別措置法2条3号の外国法事務弁護士ではなく同条2号の外国弁護士であり,Xが依頼者Aから受任したインドにおける国際仲裁事件を担当していた。)との報酬分配合意を巡る紛争である。従前YはXの弁護士事務所において時給制で稼働していたが,本件仲裁事件を担当するにあたり,XY間に,XがAから受領した報酬の20%をYに分配する旨の合意(合意①)が成立し,その後さらに,Aから受領する報酬のうち1億円を超える部分については50%を分配する旨の報酬分配割合加算合意(合意②)が成立したこと,XがYに対し1000万円を支払ったことについては争いがなく,XがAから受領した報酬が1億円であったことも争いがなかった。
原審における争点は,XがYに対しAから受領する報酬の50%を分配する旨の合意(合意③)の成否と,報酬増額要求禁止条項ヘのYの違反を理由とするXの合意①②の解除の可否であり,XはYに対し,解除を理由に既払報酬1000万円を超える報酬支払債務が存在しないことの確認(第1事件)及び既払報酬1000万円の返還(第3事件)を求め,YはXに対し主位的に,合意③(ないし錯誤に基づく不当利得返還請求権)に基づく5000万円の報酬のうち未払の4000万円,予備的に合意①②に基づく2000万円の報酬のうち未払の1000万円の支払を求めた(第2事件)。
原審は,第1事件の訴えは第2事件の提起により確認の利益がなくなったとしてこれを却下し(最一小判平16.3.25民集58巻3号753頁,判タ1149号294頁参照),第2事件について合意③の成立(不当利得返還請求権の発生)を否定して主位的請求を棄却したが,合意①②の解除を認めず予備的請求を認容し,第3事件の請求を棄却した。これに対して,Xは第2事件及び第3事件の敗訴部分を不服として控訴した。一方,Yは当初控訴しなかったが,その後XがAから1億円に加えて3750万円の報酬を受け取ったとして,附帯控訴すると共に第2事件の予備的請求を拡張し,合意①②に基づく報酬3875万円のうち未払の2875万円の支払を求めた。したがって,控訴審における争点は,XがAから受領した報酬額及び合意①②の解除の可否である。
2 本判決は,XがAから受領した報酬額は1億2500万円であると認め,合意①②の解除の可否については大要次のとおり判断した。合意①②の締結された状況に照らし報酬増額要求禁止条項には相応の必要性,相当性がある。合意①②により増額された報酬部分には賃金の概念を超えた功労報償的性格があり,Yの事務処理終了後もXによる解除を認める余地がある。単なる報酬増額要求全てが上記条項に違反するものではないが,Yは依頼者Aに対しXとの信頼関係に背く行動を取った上,本訴提起後もXに対し報酬増額要求をし,拒絶した場合にはマスコミに対し名誉毀損的事実を公表する旨を通知し,不相応な心理的圧迫感を加えることを意図したものと認められる。Yの一連の行為は上記条項に違反するものと評価され,XのYに対する合意②の解除を認めることができる。合意①には報酬増額要求禁止条項はなく,他の解除事由は認められないので合意①の解除は認められない。したがって合意①に基づく20%の報酬2500万円のうち未払の1500万円の支払義務が認められる。このように判断した結果,第2事件について拡張された予備的請求を1500万円の限度で認容し,第3事件の請求は棄却した。