本件は,我が国と米国との間で返還の合意がされた沖縄県宜野湾市所在の普天間飛行場の代替施設を同県名護市辺野古沿岸域に建設する事業(以下「本件埋立事業」という。)につき,沖縄防衛局が,前沖縄県知事(以下「前知事」ということがある。)から公有水面埋立法42条1項に基づく公有水面埋立ての承認(以下「本件埋立承認」という。)を受けていたところ,沖縄県知事(上告人。以下「現知事」ということがある。)が,本件埋立承認に違法の瑕疵があるとしてこれを取り消したため(以下「本件埋立承認取消し」という。),国土交通大臣が,沖縄県に対し,本件埋立承認取消しは違法であるとして,地方自治法245条の7第1項に基づき,本件埋立承認取消しの取消しを求める是正の指示(以下「本件指示」という。)をしたものの,現知事が,本件指示に基づいて本件埋立承認取消しを取り消さない上,法定の期間内に是正の指示の取消訴訟(同法251条の5第1項)を提起しないことから,同法251条の7に基づき,現知事が本件指示に従って本件埋立承認取消しの取消しをしないという不作為の違法の確認を求めた事案である。
最高裁判所第2小法廷判決/平成28年(行ヒ)第394号
平成28年12月20日
『平成29年重要判例解説』行政法事件
地方自治法251条の7第1項の規定に基づく不作為の違法確認請求事件
【判示事項】 1 公有水面の埋立てが公有水面埋立法4条1項1号の要件に適合するとした県知事の判断に違法又は不当があるとはいえないとされた事例
2 公有水面の埋立てが公有水面埋立法4条1項2号の要件に適合するとした県知事の判断に違法又は不当があるとはいえないとされた事例
3 内閣総理大臣又は各省大臣が地方自治法245条の7第1項の是正の指示をすることができる場合
4 国土交通大臣が県に対し公有水面の埋立ての承認の取消しが違法であるとしてこれを取り消すよう是正の指示をしたにもかかわらず,県知事が当該承認の取消しを取り消さなかったことについて,地方自治法251条の7第1項にいう相当の期間が経過したとされた事例
【判決要旨】 1 公有水面の埋立てが公有水面埋立法4条1項1号の要件に適合するとした県知事の判断には,当該埋立てがアメリカ合衆国軍隊の使用する飛行場の代替施設を設置するために実施されるものであって,県知事が,当該代替施設の面積や埋立面積が当該飛行場の施設面積と比較して相当程度縮小されることに加え,滑走路延長線上を海域とすることにより航空機が住宅地の上空を飛行することが回避されること並びに当該代替施設が既に同国軍隊に提供されている施設及び区域の一部を利用して設置されること等に照らし,同号の要件に適合すると判断したものであり,当該判断が事実の基礎を欠くものであることや,その内容が社会通念に照らし明らかに妥当性を欠くとの事情は認められないという事情の下では,違法又は不当があるとはいえない。
2 公有水面の埋立てが公有水面埋立法4条1項2号の要件に適合するとした県知事の判断には,同号の要件に適合するか否かに関して県が定めた審査基準に特段不合理な点があることはうかがわれないこと,関係市町村長等からの回答内容を踏まえた上で行われた当該判断の過程及び内容に特段不合理な点があることはうかがわれないことなど判示の事情の下では,違法又は不当があるとはいえない。
3 内閣総理大臣又は各省大臣は,その所管する法律又はこれに基づく政令に係る都道府県の法定受託事務の処理が法令の規定に違反していると認める場合には,当然に地方自治法245条の7第1項に基づいて是正の指示をすることができる。
4 国土交通大臣が,県に対し,公有水面の埋立ての承認の取消しが違法であるとして,地方自治法245条の7第1項に基づいて当該承認の取消しを取り消すよう是正の指示をしたにもかかわらず,県知事が当該承認の取消しを取り消さなかったことについて,当該是正の指示に係る措置の内容が当該承認の取消しを取り消すという県知事の意思表示を求めるものであること,当該是正の指示がされた日の約4か月前に国土交通大臣が提起した同法245条の8第3項所定の訴訟において当該承認の取消しの適否が問題とされていたことなど判示の事情の下では,当該是正の指示がされた日の1週間後の日の経過により,同法251条の7第1項にいう相当の期間が経過したものと認められる。
【参照条文】 公有水面埋立法4-1
公有水面埋立法42-1
公有水面埋立法42-3
地方自治法2-9
地方自治法245の7-1
公有水面埋立法51
国土交通省設置法(平27法66号改正前)4
国土交通省設置法4-1
地方自治法245の8-3
地方自治法251の7-1
【掲載誌】 最高裁判所民事判例集70巻9号2281頁
裁判所時報1667号33頁
判例タイムズ1434号28頁
判例時報2327号9頁