会社経営を巡る対立から解任された実質的な創業者の退職慰労金に関し、株主総会から委任を受けた取締役会から一任する旨再委任された代表取締役がなした支給決定について、功労加算をまったくしなかった点に裁量権の濫用逸脱の疑いがあるとされた例
名古屋地方裁判所判決/平成11年(ワ)第4093号
平成14年1月17日
退職慰労金請求事件
【判示事項】 会社経営を巡る対立から解任された実質的な創業者の退職慰労金に関し、株主総会から委任を受けた取締役会から一任する旨再委任された代表取締役がなした支給決定について、功労加算をまったくしなかった点に裁量権の濫用逸脱の疑いがあるとされた例
【判決要旨】 1 退職慰労金を株主総会の決議によらしめている商法269条の趣旨から、退職慰労金の決定を取締役会に委任あるいは代表取締役に再委任する場合には、その支給額が一義的に定まるものか、裁量の幅が相当狭いものでなければならず、内規が広範な裁量を認め、決定がその裁量権を逸脱ないし濫用して不当に低額の退職慰労金を決定した場合には、その決定は違法であり、不法行為を構成する。
2 突然の動議による取締役会決議により解任された代表取締役であった会社の創業者に対する退職慰労金の支給決定に関し、株主総会から委任を受けた取締役会から一任する旨再委任された次期代表取締役がなした功労加算をまったくしない旨の決定には、それまでの利害対立関係に鑑み、私情を交えた裁量権の逸脱ないし濫用の疑いがある。
【参照条文】 商法269
【掲載誌】 金融・商事判例1151号45頁
【評釈論文】 金融・商事判例1159号59頁
ジュリスト1280号135頁
商事法務1754号122頁
法律時報別冊私法判例リマークス27号92頁
主 文
1 被告は,原告に対し,以下の金員を支払え。
(1) 金2億9205万3000円及びこれに対する平成9年7月26日から支払済みまで年6分の割合による金員
(2) 金1670万5034円及びこれに対する平成9年7月26日から支払済みまで年5分の割合による金員
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを3分し,その2を原告の,その余を被告の各負担とする。
4 この判決は第1項に限り仮に執行することができる。
本件はY会社の実質的創業者であるX(原告)からY会社に対し、Y会社に対し内規に基づいて決定した退職慰労金2億9,20O万円余の支給を求めるとともに、その支給決定において功労加算しなかったことは不法行為を構成するとして5億8,400万円余の損害賠償を求めた事案である。その事実関係は、おおむね以下の通りである。
Xは、Y会社の実質的創業者で、17年以上の間、取締役ないし代表取締役を務めた後、取締役会において突然解任された。さらに、定時株主総会においては取締役に再任されなかった。同人の取締役としての報酬は、平成8年7月には月額2,750万円であったが、その後月額1,375万円さらには月額30万円まで引き下げられていた。
Y会社においては、退職慰労金支給決定は、定款により株主総会の決議をもってこれを定めることとされ、また、定款に具体的な計算式も規定されていたが、同時に「特別に功労が顕著であると認められた場合は、退職慰労金の200%を限度として功労加算を行うことができる」とされていた。
原告に対する退職慰労金の決定については、株主総会において、具体的金額、支給時期・方法等は取締役に一任するとされ、これを受けた取締役会においてはその金額・時期の決定については代表取締役Zに一任する旨が決議された。Zは、右再委任に基づき、Xに対する退職慰労金を2億9,20O万円余と決定したが、その算出において結果的に功労加算は一切しなかった。
ところが、Y会社は、Xに対し、退職慰労金の額を超える反対債権を有するからこれをもって相殺するとして、退職慰労金の支給をしなかった。そこで、Xは、(1)Y会社のXに対する反対債権は存在しないことを主張して、決定された退職慰労金の支給を求めるとともに、(2)合理的理由もなく功労加算をしなかったZの退職金支給決定はXに対する不法行為を構成し、本来ならば取得できたはすの支給額の200%にあたる額の損害を被ったとして同額の損害賠償を請求した(なお、このほか、退職慰労金の計算にあたって非常勤基礎給を30万円として計算しているが、役員報酬を1,375万円から30万円に減額したことは不当であり、1,375万円を算定の基礎とすべきであるとし、そのように計算した場合との差額を請求している。