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公職選挙法199条の2第1項、249条の2第1項の罪の成立と寄附を受ける者における寄附の主体及び趣旨の認識の要否

 

最高裁判所第2小法廷決定平成9年4月7日

公職選挙法違反被告事件

【判示事項】 公職選挙法199条の2第1項、249条の2第1項の罪の成立と寄附を受ける者における寄附の主体及び趣旨の認識の要否

【判決要旨】 公職選挙法199条の2第1項、249条の2第1項の罪が成立するためには、寄附を受ける者において当該寄附が公職の候補者等により行われたことや当該選挙に関して行われたことの認識は必要としない。

【参照条文】 公職選挙法199の2-1

       公職選挙法249の2-1

【掲載誌】  最高裁判所刑事判例集51巻4号363頁

       主   文

 本件上告を棄却する。

       理   由

 弁護人の上告趣意は、単なる法令違反、事実誤認の主張であって、刑訴法405条の上告理由に当たらない。

  なお、公職選挙法199条の2第1項、249条の1第1項の罪が成立するためには、寄附を受けるにおいて当該寄附が公職の候補者等によりわれたことや当該選挙に関して行われたことの認誠は必要としないと解すべきであるから、本件につき右の罪の成立を認めた原判断は、正当である。

  よって、刑訴法414条、386条1項3号により、裁判官全員1致の意見で、主文のとおり決定する。

 

 1 本件は、公職選挙法199条の2第1項、249条の2第1項の公職の候補者等の寄附禁止違反の罪の成否が問題となった事案の上告審判決である。

  被告人は、現職の市長であったが、再選を目指して立候補を予定していた次期市長選挙の約3か月前に、「初盆参り」と称して市内の初盆を迎えた家庭163軒に自ら現金各5000円を配って回ったため、公職の候補者等が選挙に関して選挙区内にある者に対して寄附をしたとして、公職選挙法199条の2第1項、249条の2第1項の罪に問われた。

  被告人が自ら「初盆参り」を行ったという外形的事実については争いがなく、1、2審では、「初盆参り」の主体が誰か、選挙に関して行われた寄附か、故意や違法性の意識があったかなどの点が争われたほか、寄附を受けた者は「初盆参り」が市長選挙立候補予定者である被告人からの寄附であるということを認識できなかったから寄附禁止違反の罪は成立しないという主張がなされた。

しかし、1、2審とも、被告人の右主張を容れず、寄附を受ける者の認識については、これを必要としないと判示して、被告人を有罪とした。

  上告審では、弁護人は、本件寄附禁止違反の罪は、対向犯であるから、寄附者と同様に、寄附を受ける者にも、当該寄附が公職の候補者等によって選挙に関して行われたものであるとの認識がなければならない旨主張したが、本決定は、寄附禁止違反の罪が成立するためには、寄附を受ける者において当該寄附が公職の候補者等により行われたことや当該選挙に関して行われたことの認識は必要としないと判示して、右の罪の成立を認めた原判決の判断を是認した。

  2 公職選挙法199条の2第1項は、公職の候補者等は、「いかなる名義をもってするを問わず、寄附をしてはならない。」と規定しており、公職の候補者等の寄附が名義、名目のいかんを問わず禁止されていることは文理上明らかである。

したがって、匿名または他人名義の寄附も禁止されていると解されている(高崎秀雄「公職選挙法における公職の候補者等の寄附制限違反の罪について・上」判タ816号71頁ほか)。

このような文理からすれば、寄附を受ける者が、誰によって、どのような名目で行われた寄附であるかを認識できなくても、本罪の成否には関係ないということになろう。

  また、公職の候補者等による寄附が禁止される理由については、「寄附を放任することは買収と結びつきやすく、買収とならない場合であっても、候補者の出費が増大する等金のかかる選挙の原因となり選挙の公明を害するということにある。」と説明されている(小林充「公職選挙法」注釈特別刑法3I 197頁)。

このような規制の目的に照らしても、本罪は、寄附を受ける者が寄附の主体や寄附の趣旨を認識できないような形態の寄附をも処罰の対象としていると解すべきであろう。

  3 なお、選挙買収罪の供与罪に関しては、供与罪が成立するためには相手方である受供与者が供与の趣旨を認識していることを要するという判例(最2小決昭30・12・21刑集9巻14号3937頁)があるが、これは供与罪と受供与罪が対向犯の関係に立つからであると説明されている(小林充・前掲書263頁)。

しかし、公職の候補者等の寄附禁止違反の罪の場合は、相手方である寄附を受ける者は処罰されないのであるから、受供与者が処罰される供与罪の場合と同様に解する理由はない。

  4 本決定は、公職の候補者等による寄附禁止違反の罪の成立について、相手方が寄附の趣旨等を認識している必要がないことを初めて明らかにしたものであり、実務上の意義は小さくないと思われる。