特定の候補者のために将来選挙運動を行う意思を有する者と公職選挙法225条1号及び3号にいう「選挙運動者」
最高裁判所第3小法廷決定平成17年7月6日
公職選挙法違反被告事件
【判示事項】 特定の候補者のために将来選挙運動を行う意思を有する者と公職選挙法225条1号及び3号にいう「選挙運動者」
【判決要旨】 特定の候補者のために将来選挙運動を行う意思を有する者は,いまだ選挙運動を行っていなくても,公職選挙法225条1号及び3号にいう「選挙運動者」に当たる。
【参照条文】 公職選挙法225
【掲載誌】 最高裁判所刑事判例集59巻6号534頁
主 文
本件上告を棄却する。
理 由
弁護人の上告趣意は,憲法違反,判例違反をいうが,実質は単なる法令違反,事実誤認の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。
なお,公職選挙法225条1号及び3号が,選挙に関し,その各所定の者に対して暴行又は威力を加え,あるいは特殊の利害関係を利用して威迫することなどを禁止し,もって選挙人につき投票の自由を保護するとともに,広く公職の候補者等の選挙運動の自由を保護しようとする趣旨に照らせば,いまだ選挙運動を行っていなくても,特定の候補者のために将来選挙運動を行う意思を有する者は,上記各号にいう「選挙運動者」に当たると解するのが相当であるから,これと同旨の原判断は正当である。
よって,刑訴法414条,386条1項3号により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
1 本件は,農業協同組合の組合長で県議会議員の一般選挙に立候補を予定していた被告人が,対立候補の支援者で農協と関係の深い農業共済組合の幹部職員であるAに対し,対立候補を応援するなら共済組合をやめろと怒号するなどして威力を加えるとともに,農協と共済組合の特殊の利害関係を利用して威追した,という事案である。
Aは,被告人による威迫等のため,上記選挙の際,対立候補のために選挙運動を行うことができなかったが,威迫された時点では,選挙が公示される約2か月前であったため,いまだ選挙運動を行っていなかった。
本件は,Aが公選法225条1号,3号に定めるいずれの者に当たるのかという点について,公訴事実及び罪となるべき事実において明記されていなかったため,高裁で破棄差戻しとなり,差戻し後の第2次第1審で,訴因変更により,Aは上記各号所定の者のうち「選挙運動者」に当たるとされた上,変更後の訴因どおり有罪とされ,これに対する第2次の控訴も棄却されたものである。
上告趣意において,被告人は,威迫等の事実を争うなどしたほか,問題とされた行為の当時,いまだ選挙運動を行っていないAは,公選法225条1号及び3号にいう「選挙運動者」に当たらず,将来選挙運動を行おうとしている者まで「選挙運動者」に当たるとした原判決は,構成要件の明確性を損ない,広範にすぎる解釈を行っており,憲法31条に違反するなどと主張した。
本決定は,上告趣意の憲法違反,判例違反の主張は,実質は単なる法令違反,事実誤認の主張であって,適法な上告理由に当たらないとした上,公選法225条1号及び3号にいう「選挙運動者」の意義に関して職権判断を示した。