平成25年東京都議会議員選挙無効訴訟、一票の格差 | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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最高裁判所第1小法廷判決平成27年1月15日

選挙無効請求事件

【判示事項】 1 東京都議会議員の定数並びに選挙区及び各選挙区における議員の数に関する条例(昭和44年東京都条例第55号)の議員定数配分規定の適法性

2 東京都議会議員の定数並びに選挙区及び各選挙区における議員の数に関する条例(昭和44年東京都条例第55号)の議員定数配分規定の合憲性

【判決要旨】 1 東京都議会議員の定数並びに選挙区及び各選挙区における議員の数に関する条例(昭和44年東京都条例第55号)の議員定数配分規定は,平成25年6月23日施行の東京都議会議員選挙当時,公職選挙法15条8項に違反していたものとはいえない。

2 東京都議会議員の定数並びに選挙区及び各選挙区における議員の数に関する条例(昭和44年東京都条例第55号)の議員定数配分規定は,平成25年6月23日施行の東京都議会議員選挙当時,憲法14条1項等に違反していたものとはいえない。

(1,2につき補足意見がある。)

【参照条文】 公職選挙法15-8

       東京都議会議員の定数並びに選挙区及び各選挙区における議員の数に関する条例(昭44東京都条例55号)3

       憲法前文第1段

       憲法1

       憲法14-1

       憲法15-1

       憲法15-3

       憲法43-1

       憲法44

       憲法92

       憲法93

【掲載誌】  最高裁判所裁判集民事249号1頁

       裁判所時報1620号19頁

       判例タイムズ1411号54頁

       判例時報2251号28頁

1 本件に関係する法令の内容,本件条例の制定やその後の改正経緯,投票価値の最大較差の推移等は本判決が判示するとおりであるが,本件選挙当時,本件条例に基づく定数配分と平成22年10月の国勢調査による人口に基づく配当基数(各選挙区の人口を議員1人当たりの人口で除して得た数)に応じた人口比定数(公職選挙法15条8項の人口比例原則を適用した場合に各選挙区に配分されることとなる定数)と対比すると,42選挙区中13選挙区において差異がみられた。そして,いわゆる特例選挙区以外の選挙区間の人口の最大較差は1対1.92であり,人口の多い選挙区の定数より人口の少ない選挙区の定数の方が多いいわゆる逆転現象は12通りで,そのうち定数差が2人となる逆転現象は1通りであった。

2 本判決は,要旨次のとおり判示した上で,本件上告を棄却すべきものとした。

 (1)ア 公職選挙法等の各規定に照らせば,都道府県議会の議員の定数の各選挙区に対する配分に当たり公職選挙法15条8項ただし書を適用して人口比例の原則に修正を加えるかどうか及びどの程度の修正を加えるかについては,当該都道府県議会にその決定に係る裁量権が与えられていると解される。

  しかるところ,都道府県議会の議員の選挙に関し,当該都道府県の住民が,その選挙権の内容,すなわち投票価値においても平等に取り扱われるべきであることは憲法の要求するところであり,また,公職選挙法15条8項は,憲法の上記要請を受け,都道府県議会の議員の定数の各選挙区に対する配分につき,人口比例を最も重要かつ基本的な基準とし,各選挙人の投票価値が平等であるべきことを強く要求しているものと解されることからすると,条例の定める定数配分が同項の規定に適合するかどうかについては,都道府県議会の具体的に定めるところが,前記のような選挙制度の下における裁量権の合理的な行使として是認されるかどうかによって決せられるべきものと解される。そして,公職選挙法15条8項ただし書を適用してされた条例の制定又はその改正により具体的に決定された定数配分の下における選挙人の投票の有する価値に較差が生じ,あるいはその後の人口の変動によりその較差が拡大した場合において,上記の較差が都道府県議会において地域間の均衡を図るため通常考慮し得る諸般の要素をしんしゃくしてもなお一般的に合理性を有するものとは考えられない程度に達しており,これを正当化すべき特段の理由が示されないとき,あるいは,上記の較差は上記の程度に達していないが,上記の制定時若しくは改正時において同項ただし書にいう特別の事情があるとの評価が合理性を欠いており,又はその後の選挙時において上記の特別の事情があるとの評価の合理性を基礎付ける事情が失われたときは,当該定数配分は,裁量権の合理的な行使とはいえないものと判断されざるを得ないこととなるというべきである。

  イ(ア) 本件条例は,昭和44年に公職選挙法15条8項(平成6年法律第2号による改正前は7項。以下同じ。)にただし書が設けられたことなどを受けて制定され,同項ただし書を適用して各選挙区に対する定数の配分を定めたものと解されるところ,同項ただし書の趣旨が,各地方公共団体の実情等に応じた当該地域に特有の事情として,都市の中心部における常住人口を大幅に上回る昼間人口の増加に対応すべき行政需要等を考慮して地域間の均衡を図る観点から人口比例の原則に修正を加えることができることとしたものと解されることなどからすると,本件条例においても,昭和44年当時,上記のような事情があることをもって同項ただし書に定める特別の事情があるとの評価を前提として,同項ただし書を適用して各選挙区に対する定数の配分が定められたものと解される。また,本件条例の定数配分規定は平成13年の条例改正に至るまで数次にわたって改正されており,これらの改正においても,上記と同様の事情があることをもって公職選挙法15条8項ただし書にいう特別の事情があるとの評価を前提として,選挙制度の安定性の要請をも勘案しつつ,同項ただし書を適用して各選挙区に対する定数の配分が定められたものと解される。そして,平成13年の条例改正後,本件選挙までの間に本件条例の定数配分規定は改正されていないものの,本件選挙の施行前の時点で,東京都議会の議会運営委員会は,特例選挙区以外の選挙区間の人口の最大較差が平成13年の条例改正時と比較して縮小しており,いずれの時点でも2倍未満であったことなどを踏まえ,現行の定数配分を維持すべきである旨の都議会のあり方検討会の検討結果を了承しており,その了承に当たって,同項ただし書にいう特別の事情に係る東京都議会の判断が従前と異なる評価を前提としてされたものと認めるべき事情はうかがわれない。

  (イ) 特例選挙区以外の選挙区間の人口の最大較差は,複数の選挙区の定数に人口比定数との差異はみられるものの,平成4年の条例改正の結果として平成5年の選挙当時に1対2.04となり,平成12年実施の国勢調査の結果を踏まえて平成13年の条例改正がされた結果として1対1.97に縮小し,本件選挙当時には更に1対1.92に縮小しており,いわゆる逆転現象も平成元年当時の52通りから上記各改正を経て本件選挙当時には12通りに減少していたことなどを考慮すると,本件選挙当時における投票価値の較差が,東京都議会において地域間の均衡を図るために通常考慮し得る諸般の要素をしんしゃくしてもなお一般的に合理性を有するものとは考えられない程度に達していたということはできず,また,上記アにおいてみた本件条例における定数配分規定の趣旨やその改正経緯等に照らせば,平成13年の条例改正の当時において公職選挙法15条8項ただし書にいう特別の事情があるとの評価がそれ自体として合理性を欠いていたとはいい難く,本件選挙当時において上記の特別の事情があるとの評価の合理性を基礎付ける事情が失われたともいい難いから,本件選挙の施行前に本件条例の定数配分規定を改正しなかったことが同議会の合理的裁量の限界を超えるものということはできない。したがって,本件選挙当時における本件条例の定数配分規定は,公職選挙法15条8項に違反していたものとはいえず,適法というべきである。

  (2) 所論は,さらに,本件条例の定数配分規定が投票価値の不均衡において憲法前文第1段,1条,14条1項,15条1項,3項,43条1項,44条,92条及び93条に違反する旨をいうが,公職選挙法15条8項ただし書の立法の趣旨,本件条例において同項ただし書を適用して各選挙区に対する定数の配分が定められた趣旨,平成13年条例改正当時及び本件選挙当時の特例選挙区以外の選挙区間における議員1人当たりの人口の較差の状況等を総合すれば,本件選挙当時,本件条例による各選挙区に対する定数の配分が東京都議会の合理的裁量の限界を超えるものとはいえず,本件条例の定数配分規定が所論の憲法の各規定等に違反していたものとはいえない。

  (3) なお,本判決には,公職選挙法15条8項ただし書の趣旨や本件条例に同項ただし書が適用された趣旨等につきふえんするとともに,同項ただし書の適用に当たり都道府県議会において住民に対する十分な説明責任を果たしていくことが求められるとする櫻井裁判官の補足意見が付されている。