人事院勧告によらずに国家公務員の給与を減額する給与改定・臨時特例法と憲法28条 | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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東京高等裁判所判決平成28年12月5日

『平成27年重要判例解説』憲法11事件

給与等請求控訴事件

【判示事項】 1 人事院勧告は文字どおり「勧告」の制度であって,人事院勧告によって国会および内閣を当然に法的に拘束できないことから,国家公務員の給与を定めるに当たり,憲法が許容する範囲内で具体的にどのような内容のものを定めるかについては,国会に裁量が与えられているといえること,国公法にいう「社会一般の情勢」の意味は,広く社会情勢や経済情勢を含み得ること等から,国会が,国家公務員について,人事院勧告や民間準拠原則に基づかず,給与減額支給措置の立法をすることが一義的に許されていないと解することはできないとして,一審判断が維持された例

2 国家公務員も,勤労者として自己の労務を提供することにより生活の資を得ているものであり,その生存権および財産権に配慮する必要があること,人事院勧告が国家公務員の労働基本権制約の代償措置としては中心的かつ重要なものであること,民間準拠原則が国家公務員の給与水準の増減決定において客観性を支えるものであることからすれば,国会は,国家公務員について給与減額支給措置を立法する場合,当該立法について必要性があり,その内容が上記の観点から不合理なものでないことや,労働基本権制約の代償措置として中心的かつ重要なものとして設けられた人事院勧告制度が本来の機能を果たすという点に留意すべきであって,当該立法について必要性がなく,または,その内容において著しく合理性を欠く立法がされた場合には,立法府の裁量権の範囲を超えるものとして違憲となることもあり得るとされた例

3 給与減額措置について,立法の必要性および立法内容の合理性を肯定した一審判断が維持された例

4 国家公務員について,特殊な公務員を除き,原則的にはいわゆる団体交渉権が認められているところ,給与の改定について,政府として団体交渉に応じる義務があるとしても,果たされるべき団体交渉義務の内容としては,勤務条件法定主義の観点から一定の限界があり,政府が合計6回の交渉において国公労連の要求・主張に対して回答・説明を行っていることからすると,控訴人(一審原告)X労連の団体交渉権を侵害する違憲,違法な行為があったと評価することは相当ではないとした一審判断が維持された例

5 給与改定・臨時特例法が憲法14条1項や同25条1項に反するとした控訴人(一審原告)X177の主張が棄却された例

6 ILO87号条約およびILO98号条約は,いずれも国家公務員の団体交渉権を保障したものではないとした一審判断が維持された例

【掲載誌】  労働判例1169号74頁