証券取引法79条の20第3項2号に規定する「証券業に係る取引」と証券会社が同取引を仮装して行った取引
最高裁判所第1小法廷判決平成18年7月13日
補償金請求事件
『商法判例百選』有斐閣 2019年
【判示事項】 証券取引法79条の20第3項2号に規定する「証券業に係る取引」と証券会社が同取引を仮装して行った取引
【判決要旨】 証券取引法79条の20第3項2号に規定する「証券業に係る取引」と証券会社が同取引を仮装して行った取引
【参照条文】 証券取引法79の20-3
証券取引法79の56
【掲載誌】 最高裁判所民事判例集60巻6号2336頁
判例タイムズ1242号123頁
判例時報1966号154頁
金融法務事情1817号59頁
1 本件は,証券会社に対して社債の引受けの申込みをし,所定の金員を払い込んだ者らが,証券会社が破産宣告を受けたことなどにより,上記払込金の返還を受けることが困難となったなどとして,証券取引法(以下「法」という。)79条の56第1項に基づき,投資者保護基金に対し,補償金の支払を求めた事案である。
2(1)Yは,法79条の56の規定による一般顧客に対する支払その他の業務を行うことにより投資者の保護を図り,もって証券取引に対する信頼性を維持することを目的とする投資者保護基金(以下「基金」という。)である(法79条の21)。証券会社(政令で定める証券会社を除く。)は,いずれか一の基金にその会員として加入しなければならないこととされている(法79条の27第1項)。基金は,会員である証券会社について,破産の申立てがされたなどの通知を受け,法79条の54の規定に基づき顧客資産の返還に係る債務の円滑な履行が困難であるとの認定をした場合,認定を受けた証券会社(以下「認定証券会社」という。)の一般顧客の請求に基づいて,法79条の55第1項の規定により公告した日において現に当該一般顧客が当該認定証券会社に対して有する債権(当該一般顧客の顧客資産に係るものに限る。)であって基金が政令で定めるところにより当該認定証券会社による円滑な弁済が困難であると認めるもの(以下「補償対象債権」という。)につき,一定の金額の支払を行うものとされている(法79条の56第1項)。ここに,「顧客資産」とは,証券業に係る取引(有価証券店頭デリバティブ取引その他の政令で定める取引を除く。)に関し,一般顧客の計算に属する金銭又は証券会社が一般顧客から預託を受けた金銭等をいう(法79の20第3項1号から4号まで)。A証券株式会社は,Yの会員であった。
(2)A証券は,平成11年11月23日から,B株式会社ほか2社を発行会社とする各社債(以下「本件各社債」という。)の募集を開始した。本件各社債の払込期日は同年12月31日とされていた。
(3)Xらあるいはその一部被承継人は,平成11年11月23日から同年12月31日までの間に,A証券に対し,本件各社債の引受けの申込みをし,所定の金員をそれぞれ払い込んだ。
(4)平成12年3月6日,A証券について,金融機関等の更生手続の特例等に関する法律に基づき,東京地裁に対して破産の申立てがされた。Yは,A証券について,破産の申立てがされた旨の通知を受け,同月16日,法79条の54の規定に基づき,顧客資産の返還に係る債務の円滑な履行が困難であるとの認定をした。東京地裁は,同月21日,A証券につき破産宣告をした。Yは,同日,法79条の55第1項の規定に基づく公告をした。
3 Xらは,法79条の56第1項に規定する補償対象債権を有するなどと主張して,Yに対し,その支払を求めた。
原審は,本件各社債取引の実体や態様等について具体的な認定判断を示すことなく,「Xらは,本件各社債取引が事実として存在することなどから,本件各社債取引が私法上有効であるか無効であるかを問わず,法79条の20第3項2号に規定する「証券業に係る取引」に当たると主張するが,本件各社債取引がXらが主張するような実体のないものであれば,それは証券取引の形態を仮装したにすぎないものというベきであるから,証券業に係る取引に当たるということはできない。」などとし,Xらの請求を棄却すべきものとした。Xらのうち一部の者から上告受理の申立て。
4 第一小法廷は,上告受理の申立てを受理した上,次のとおり判示して,原判決のうち上告受理の申立てをしたXらに関する部分を破棄し,同部分を原審に差し戻した。すなわち,「補償対象債権の支払によつて投資者の保護,ひいては証券取引に対する信頼性の維持を図るという,基金が設けられた趣旨等にかんがみると,証券業に係る取引には,証券会社が,証券業に係る取引の実体を有しないのに,同取引のように仮装して行った取引も含まれるが,上記趣旨等からして,当該証券会社と取引をする者が,取引の際,上記仮装の事実を知っていたか,あるいは,知らなかったことにつき重大な過失があるときには,当該取引は証券業に係る取引の該当性が否定されるものというべきである。」とした上,「本件各社債取引は,証券会社とその顧客との間における社債取引として行われたものであり,本件各社債取引がA証券によって証券業に係る取引のように仮装されたものであるとしても,本件各社債取引者らが,本件各社債取引の際,そのことを知っていたか,あるいは,知らなかったことにつき重大な過失があるという事情がない限り,本件各社債取引は証券業に係る取引に当たると解すべきである。」と判示した。