最高裁判所第2小法廷決定平成30年4月18日
株式差押命令取消決定に対する執行抗告棄却決定に対する許可抗告事件
『平成30年度重要判例解説』民事訴訟法5事件
【判示事項】 株券が発行されていない株式(振替株式を除く。)に対する強制執行の手続において配当表記載の債権者の配当額に相当する金銭が供託され,その供託金の支払委託がされるまでに債務者が破産手続開始の決定を受けた場合における破産法42条2項本文の適用の有無
【判決要旨】 株券が発行されていない株式(振替株式を除く)に対する強制執行の手続において、当該株式につき売却命令による売却がされた後、配当表記載の債権者の配当額について配当異議の訴えが提起されたために上記配当額に相当する金銭の供託がされた場合において、その供託の事由が消滅して供託金の支払委託がされるまでに債務者が破産手続開始の決定を受けたときは、当該強制執行の手続につき、破産法42条2項本文(他の手続の失効等)の適用がある。
【参照条文】 破産法42-2本文
民事執行法91-1
民事執行法92-1
民事執行法166-1
民事執行法166-2
民事執行法167-1
民事執行規則61
民事執行規則145
供託規則30-1
【掲載誌】 最高裁判所民事判例集72巻2号68頁
判例タイムズ1452号30頁
金融・商事判例1550号56頁
金融・商事判例1546号8頁
判例時報2385号58頁
金融法務事情2104号72頁
1 事案の概要
本件は,執行裁判所が,株券が発行されていない株式(社債,株式等の振替に関する法律128条1項に規定する振替株式を除く。以下「株券未発行株式」という。)に対する差押命令に係る強制執行の手続が破産法42条2項本文により破産財団に対してはその効力を失うことを前提として,職権により上記差押命令を取り消す旨の決定をしたため,上記強制執行手続に同項本文の適用があるか否かが争われた事案である。後記4(1)のとおり,破産法42条2項本文により失効する強制執行手続等は,破産手続開始の決定時に係属中のもの(未だ終了していないもの)に限られると解されているため,上記強制執行手続が債務者に対する破産手続開始の決定時に既に終了しているものといえるか否かが問題となった。
2 事実関係の概要
(1) 債権者であるXは,平成27年12月,債務承認及び弁済契約公正証書の執行力のある正本に基づき,債務者であるAに対する貸金返還債務履行請求権等を請求債権とする株式差押命令の申立てをし,株券未発行株式であるA保有の株式(以下「本件株式」という。)に対する差押命令(以下「本件差押命令」という。)を得た。
なお,Xのほかに3名の債権者(B,C,D)もそれぞれ本件株式に対する差押命令を得ており,債権者Bに関しては,Bから請求債権を譲り受けたB´が債権者の地位を承継した。
(2) 本件株式につき売却命令による売却がされ,平成28年11月,本件株式の売却代金(約8315万円)について開かれた配当期日において,配当表に記載されたX及びB´の配当額(Xが約1941万円,B´が約3531万円)につき,Cから異議の申出があり,所定の期間内にX及びB´に対する配当異議の訴えが提起された。そのため,執行裁判所は,配当異議の申出のない部分につき配当を実施した上,X及びB´の配当額に相当する部分については,執行裁判所の裁判所書記官が上記配当額に相当する金銭の供託(配当留保供託)をした。
(3) ところが,Aは,上記供託の事由が消滅する前の平成29年1月11日,破産手続開始の決定を受け,同月13日,その破産管財人が執行裁判所に本件差押命令の取消しを求める旨の上申書を提出した。
原々審は,同月16日,職権により本件差押命令を取り消す旨の決定(原々決定)をしたところ,Xが執行抗告をした。
3 原審の判断の要旨及び本決定
原審は,本件差押命令に係る強制執行手続(以下「本件強制執行手続」という。)には破産法42条2項本文の適用があり,執行裁判所は職権により本件差押命令を取り消すことができる旨を判断して,執行抗告を棄却した。これに対し,Xが許可抗告をした。
論旨は,株券未発行株式に対する強制執行の手続は,売却命令による売却がされ,執行官が売得金の交付を受けた時に終了したとみるべきであり(そのように解する実質的理由として,当該売得金は,債務者の一般財産から離脱し,以後債務者に属する財産とはいえないこと等を指摘している。),以後破産法42条2項本文の適用はないから,本件強制執行手続に同項本文の適用があるとした原審の判断には,法令解釈の誤り及び判例違反がある旨をいうものである。
本決定は,決定要旨のとおり判示して,原審の判断を是認し,Xの抗告を棄却した。