長沼健一郎・編『介護事故の法政策と保険政策』
法律文化社、2011年。
介護の業務遂行中(送迎を含む)に起きる事故の損害賠償責任、保険政策について書かれた本である。
なお、類似の法律分野として、医療過誤がある。
気がついた点として、
・重複した記述が多い。特に裁判例の箇所。
・裁判例において考量されている要素の抽出と分析が不十分である。
・介護事故の損害賠償額の相場が、交通事故よりも安いという結論は、おかしい。
介護事故の被害者が、平均寿命よりも高齢で、かつ無職であるということを看過しているようである。
・医療過誤、看護師による看護過誤との対比が十分にできていない。
・損害賠償の強制保険の加入の点はよい。
・さらに、無過失損害賠償(補償)制度の導入についても、よい。
上記書籍を読み終えました。
第1章 研究対象としての介護事故
著者は、損害賠償責任の有無にかかわらず、介護中に起きた被介護者の生命身体について生じた事故と定義して、分析している。
この定義によれば、以下のようなものは除外されている。
・介護者の故意によるもの
・財産的損害のみに関するもの
・医療行為または責任原因が医療行為と競合するもの
第2章 介護事故に関する調査・統計・専攻研究の業績
比較的新しい分野のため、先行する研究業績は参考になる。
なお、本書が検討の対象としているのは、主に1990年以降の19事案、22件(うち3件は同じ事案のそれぞれの控訴審判決)の裁判例である。
第4章 介護事故の概念と裁判例の収集
第5章 介護事故の裁判例の概括的検討
第6章 介護事故の裁判例の横断的分析
「転倒」「誤嚥」「その他の介護事故」と、著者は、3つに大きく分けて論じている。
しかし、私は、裁判例について概観したところ、以下のように分類すべきではないかと考える。
「送迎バスや施設内で歩行中の転倒」
「ベッドなどからの転落」
「部屋の窓などからの転落」
「食事中の誤嚥」、
ただし、「食材の選択、調理方法の不備、食事介助の不備」を含む。
「施設からの脱出、失踪」
「その他」
「原因不明、または責任原因が証明できなかった事案」
なお、「誤嚥性肺炎」の医学的定義について、著者は、誤解しているようである。
寝たきりの老人では、自発的呼吸をする力が弱まって、本来、食道に飲み込むべき、つば・食べたものなどを、間違って気道に飲み込んでしまい、肺炎になることも、あるからである。
第7章 介護事故の金銭的賠償と損害賠償責任保険
第8章 介護事故による人身損害と保険政策
第9章 介護サービス契約の法的構造と介護サービスの安全性
なお、著者は、施設内の事故と、要介護者の自宅での在宅介護サービスとの区別を強調している。
たしかに、施設内の事故は、工作物責任も問題となる点で、区別すべき場合もあろう。
ただし、介護事故が起きるのは、介護者の介護が不十分な場合が多く、その意味では、工作物責任だけが独立して問題になる事例は少ないのではあるまいか。
しかし、現在では、施設内介護と在宅介護は、いずれも、介護保険法の対象となっており、区別すべき実益があるのは、リスクとなる要素、リスクの高低とそれを反映した保険料金の設定などであろう。
第10章 総括と展望