田島裕『外国法概論』
信山社、2012年。
著者は、もと筑波大学教授。
筑波大学院修士課程での講義を基にしたと思われる。
ソクラティス・メソッドの形式を取って展開される講義形式。
この本の考えと本音を理解するのは、憲法、公法、民事、刑事、訴訟法などに関する法的知識がないと無理であろう。
また、極端なレアケース、一見すると無関係にしか見えない事例の関係性・整合性、そのレトリックを見抜くのも大変であろう。
また、例えば、ヨーロッパ大陸法(主にドイツ法、フランス法)と民族法を起源とする日本法の裁判例、ローマ法・フランス法を起源とする債権者取消権などをエクイティであると説明することに疑問を感じました。
同書は、エクイティとコモンローの二元論で説明しようとしていますが、やや強引との感じを否めない。
ヨーロッパ諸国の法が、おおむねローマ法、宗教法、各民族固有の法をミックスして成立している経緯を考えれば、イギリス法独自のエクイティという概念で説明するのは、やや無理というものでしょう。
イギリス法、ヨーロッパ大陸法(ドイツ法、フランス法)は一見すると異なっているように見えるが、実は共通であるという著者のテーゼも、ある意味当然である。
歴史に照らせば、フランス、ドイツ、イギリスは、いずれも、かってはローマ帝国の版図であり、宗教、ローマ法を共通としている(いわゆる「ローマ帝国は3度世界を征服する」)。
あるいは、ゲルマン民族を祖先とするフランク王国。
上記3国の言語も、世界的に見れば、相互に「方言」といえるほど、おおむね共通であること。
フランスとイギリス、あるいは、フランスとドイツが相互に征服していたこと。
各国の王家・上流階級の婚姻、経済・文化などの交流などの歴史的事実に照らせば、ヨーロッパ各国の法が似ていることは当然である。
私見ですが、将来的には、例えばEU法のように、各国共通となる要素と、各民族固有の法とが、ある程度並存しながら、前者に収斂していくでしょう。
上記書籍のうち、以下の部分を読み終えました。
イギリス法
エクィテイ(衡平法)
コモン・ロー(普遍法)
判例法
法の支配
オンラインデータベース
第1章 外国法を学ぶ意義
著者が日本の裁判例を検索した結果、裁判例では、以下の外国法が主に問題となっていたようである。
アメリカ、中国、フランス、ドイツ、イギリス、韓国
なお、本書では、取り上げられていないが、EU法、ロシア法も問題になることも多いようである。
第2章 外国法研究の目的と外国法の調べ方
外国法の調べ方として、北村一郎『アクセスガイド外国法』には、以下の外国法が取り上げられている。
アメリカ法
EU法
イギリス法、フランス法、ドイツ法
ロシア法
中国法
韓国法
東南アジア法(カンボジア、インドネシア、マレーシア、タイ、ヴェトナム)
南アジア法(インド、パキスタン)
オーストラリア法
ラテンアメリカ法(ブラジルなど)
イスラム法
また、参考文献として、『外国文献の調べ方』がある。
第3章 国際裁判管轄
第4章 比較法、大陸法と英米法
43ページ、
①比較されるべきテーマ(制度、法律、条文など)を特定して、類似点と相違点を明らかにする手法。
②法系論。アメリカ法、イギリス法、ヨーロッパ大陸法、これらの影響を受けたアジア法、アフリカやラテンアメリカの諸国の法、
あるいは、これらと区別される共産主義・社会主義諸国の法、
あるいは、イスラム法
③法社会学、経済学、文化人類学、歴史学、言語、宗教などをもとに、外国法を比較検討する手法。
例えば、PL法では、制定法(民法、特別法)、判例法に分類し、消費者保護を重視しているか否かを分類する手法がある。
第5章 法律家の資格と社会的役割
55ページ
ドイツ、英米では、「法律家」は法律学者をさすとしているが、誤解のようである。
イギリスでは貴族院(最高裁判所)の裁判官は、必ずしも法律学者ではない。
アメリカでは、弁護士は、民間の弁護士、裁判官、大学教授、行政官などを転職したりするが、これはキャリア形成のためである。アメリカ連邦最高裁は弁護士の中から選ぶのであって、学者から選ぶのではない。
なお、イギリス、アメリカ、ドイツ、フランスなどでは、優秀な博士論文を執筆した弁護士が高い評価を得たりするが、これは高い能力を示しているからで、当然といえよう。
第6章 法学教育
第7章 裁判所に対する社会の役割
第8章 アメリカの裁判所
第9章 国民の司法参加
第10章 法律解釈の方法
第11章 法源としての判例法
第12章 先例拘束性
第13章 イギリス憲法
17ページ
特許法35条の「職務発明」について誤解していると思われる。
日本の海運会社は、海運事業を主たる業務とする日本の企業である。
日本郵船、商船三井、川崎汽船の大手三社を「三大海運会社」と呼ぶことが多い。
57ページ(注2)
ブルドソース事件最高裁判例については、新株予約権を有償で取得条項付きで高額で取得し消却したことが、投資ファンド側に、新たな資金を提供した結果となったと批判されている。
61ページ
弁護士法の弁護士になる特例として「法律学を専門とする大学教授など」が挙げられている。
その場合に対象となる「法律学」は、以下のものがある。
憲法、行政法、民法、商法、民事訴訟法、刑法、刑事訴訟法、 租税法、国際私法、労働法、倒産法は認められる。
司法試験で新たに選択科目となったもの(環境法、知的財産権法)については微妙である。
認められないものとして、法医学、刑事学、行政学、社会学(法律科目ではないから)
87ページ
フランス王政期の「パルルマン」は「高等法院」と訳されていた。
パルルマンは貴族が裁判官をつとめ、民衆に対して厳しく、民衆から信頼を得ていなかった。
フランスの有名な画家の作品に、パルルマンの裁判官たちを印象的に描いた作品を見たことがある。
そのため、フランス革命により廃止された。
「王会」と訳すのは、いかがなものと思われる。
97ページ(注3)
ハードシップはアメリカ法で「困難な」という意味である。
個人民事再生法で「ハードシップ免責」(途中まで返済したが再生計画どおりの返済が困難の場合に、その余の債務を免責する制度)という制度があるが、母法となったアメリカ法の用語を用いていると思われる。
120ページ(注1)
「自然人」には法人を含まず、「国民」には法人を含むという概念上の違いがある。
124ページ(注6)
英米法の「ウルトラ・ヴァイレス」(権限ゆ越)について述べている。
日本の最高裁判例も、行政の裁量権の権限逸脱または権限ゆ越の場合に違法と判断している。
127ページ
パローレ・エヴィデンス・ルールを「口頭証拠原則」と訳すのは、いかがなものかと思われる。
「口頭証拠禁止原則」「伝聞証拠禁止原則」と呼ぶべきと思われる。
165ページの事例は、日本の税法の解釈とは異なると思われる。
私立学校の関係者の子弟が授業料の4/5を免除された場合(奨学金の場合を除く)、課税当局としては、私立学校に対して、5/5を益金として、4/5を寄附金として認定して、課税するであろう。