「相続させる」旨の遺言と遺贈
まず、「相続させる」という遺言の相手が、相続人でない場合には、遺言の趣旨は遺贈以外にありえません。 問題は、「相続させる」という遺言の相手が、相続人の場合です。この場合、遺産分割方法の指定(相手方相続人の法定相続分を超える場合は、相続分の指定を伴う遺産分割方法の指定と解されます)の可能性も考えられます。 判例(最判平成3・4・19民集45巻4号477頁)は、遺言者の意思を合理的に解釈すれば、「相続させる」旨の遺言は、遺言書の記載から、その趣旨が遺贈であることが明らかであるかまたは遺贈と解すべき特段の事情がない限り、遺産分割の方法を定めた遺言と解すべきであり、当該遺言において相続による承継を当該相続人の受諾の意思表示にかからせた等の特段の事情のない限り、何らの行為を要せずして、被相続人の死亡の時に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継されるものと解すべきであると判示しました。 遺贈と解するか、遺産分割方法の指定と解するかによって、以下の違いが生じます。 (ⅰ)相続放棄との関係 遺贈の場合、遺贈の相手方は相続放棄をしても、なお、民法986条1項で放棄しない限り、対象となった遺産を取得することができます。 これに対して、遺産分割方法の指定の場合、相続放棄をすれば、遺産分割に参加することができなくなりますから、対象となった遺産を取得することができません。 したがって、遺贈の場合、遺贈の相手方は、相続放棄によって、消極財産を承継せずに、対象となった遺産を取得することが可能です。 (ⅱ)対抗要件の要否 遺贈の場合、二重の譲受人等との関係で対抗関係を生じ、その優劣は対抗関係の具備の先後により決せられます(民法177条)。 これに対して、遺産分割方法の指定の場合、法定相続分または指定相続分の相続の場合と本質的に異なるところはないとして、対抗要件の具備なくして当該権利取得を第三者に対抗することができるとするのが判例です(最判平成14・6・10家裁月報55巻1号77頁)。 したがって、遺贈の場合、遺贈の相手方は、直ちに登記手続をとる必要があります。 そして、遺贈は相続人の意思表示による物権変動であり特定承継ですから、一般原則の通り、登記手続には登記義務者たる相続人と受贈者の共同申請が必要となります(不動産登記法60条)。 これに対し、遺産分割方法の指定による場合には、当該相続人は被相続人名義となっている当該不動産について単独で「相続」を原因とする所有権移転登記手続を行うことができます(不動産登記法63条2項)。 (ⅲ)農地の場合の農地委員会の許可の要否 遺贈の場合、目的物が農地であれば、所有権移転に知事の許可(農地法3条)が必要になります(昭和43・3・2民3発第170号法務省民事局第3課長回答)。 これに対して、遺産分割方法の指定の場合、一般承継であることからこれが不要になります。 (ⅳ)借地の場合の地主の許可の要否 遺贈の場合、借地権が目的であれば、借地権設定者の承諾を得るか、これに代わる裁判所の許可が必要になります(借地借家法19条)。 これに対して、遺産分割方法の指定の場合、一般承継であることからこれらが不要になります。 (ⅴ)自社株承継の手続 目的物が譲渡制限株式の遺贈である場合、特定承継ですので会社の譲渡承認が必要になります。 これに対して、遺産分割方法の指定の場合、包括承継ですから、会社の承認が不要になります。 ただ、相続その他の一般承継により当該株式会社の譲渡制限株式を取得した者に対して、当該株式の売渡請求をすることができる旨の定款の定めがある場合(会社法174条)には、遺贈の場合、この定款の適用は受けませんが、遺産分割方法の指定の場合、この定款の適用を受けます。
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