役員退職慰労金の減額・不支給
定款の定めがない限り,株主総会の決議において退職慰労金の具体的金額が決定
されるのが会社法361条の建前ですから,株主総会は内規や慣行にとらわれずに自
由に退職慰労金を決定する権限があります。この点,「取締役会が退職慰労金支給に
関する内規を定めている場合には,株主総会において,右内規に則って退職慰労金
額を決定することを取締役会に一任することが許容されるが,右内規があるからと
いって,必ずこれによらなければならないものではなく,株主総会が,特定の取締
役の退職慰労金について,右内規によらず,当該退任取締役の功労の程度や会社の
営業状態を勘案して,独自に退職慰労金額を決定することはもとより可能であると
解される。」と判示する裁判例(東京地判昭和62・3・26金判776号35頁)があり
ます。
もっとも,株主総会から一任を受けた取締役会については,株主総会の決議の委
任に基づかない減額は効力が生じません(東京高判平成9・12・4判時1657号141頁)。
退任取締役は,定款の定めまたは株主総会の決議により,具体的な退職慰労金請求権を取得し,その額及び具体的な支給方法は会社と退任取締役間の契約内容となりますから,その後,取締役会が上記内規を廃止して退職慰労金の支給を停止する旨の決議をしても,当該退任取締役が同意しない限り,退職慰労金請求権を失うものではないと考えられます(最判平成4・12・18民集46巻9号3006頁)。
なお,近持,株主総会の決議を経て,内規に従い支給されることとなった会社法361条1項にいう取締役の報酬等に当たる退職慰労年金について,退任取締役相互間の公平を図るため集団的,画一的な処理が制度上要請されているという理由のみから,上記内規の廃止の効力を既に退任した取締役に及ぼし,その同意なく未支給の退職慰労年金債権を失わせることはできないとした判例(最判平成22・3・16判タ1323号114頁)が出ました。
この点,企業年金について,公的社会保障制度に代替する側面を有していることから,既受給者及び未受給者を含む制度加入者相互間の画一的公平を図る制度的要請から,その変更の効力が一定の要件の下に既受給者にも及ぼされるべきであるとの主張がなされることがあります。
前掲最判平成22・3・16は,「退職慰労年金の支給につき,退任取締役相互間の公平を図るために,いったん成立した契約の効力を否定してまで集団的,画一的な処理を図ることが制度上要請されているとみることはできない。」として,内規廃止の効力を,その同意なく,既に退任した取締役に及ぼすことを否定しました。