7年前の夏の日、夫が珍しくまじめな顔つきで話しかけてきました。
俺、最近、言葉が出ないんだよ..


元々饒舌な人ではなく、私の一方的なおしゃべりに対して、相づちを打ったり、短めのコメントを言う位の感じでした。
それでもその頃、何か言いかけて、あ、いいやと言って途中でやめてしまうことが多いなと、気になってはいたのでした。
私はそんな重大なことになっているとは夢にも思わず、一回お医者さんに行ってみようかと軽く答えていました。


神経内科を紹介してもらって実際に受診したのは秋になっていました。
検査を経て、アルツハイマー型認知症と診断されました。

そうなっても私はまだ、そんなに重大なことになったとは思いませんでした。
ちょうどその頃、テレビで、カナダのNeurochem社がTramiprosateという薬を開発しており、まだ治験の段階だけども、それを服用して、発病前と変わらない生活をしているという老婦人のドキュメントを放映していました。

また国内でも、名古屋大学で研究されていたワクチンが、臨床試験の段階に入ったとか、明るいニュースがありました。
根本的な治療薬はないということは知っていましたが、こうした新薬がでてきているし、治らないことはないと、とても楽観的でした。
ただ日本で使えるようになるのは、おそらく何年も先になるだろうから、間に合わなくなるといけないから、アメリカで認可になったら、早速行こうねと話していました。


当時唯一の認知症の薬、アリセプトを処方されて飲んでいましたが、効いてるのかな?と思ったのは最初だけでした。
Forest Pharmaseuticals社のNamendaという薬が、アリセプトと併用できて効果があるということ知り、それを手に入れたいと思いました。
これは塩酸メマンチン、即ち、今日本でも使えるメマリーと同じ成分のものです。
結局個人輸入なら手に入ることがわかりました。
塩酸メマンチンも最初のうちは効いているのかなと思いましたが、そのうち効果がわからなくなりました。


夫はゆっくりと、いつのまにか病状は進んでいきました。




朝、ベッドから一人で起き上がることができなくなりました。


まず両足をベッドから下ろし、背中側に回って、力ずくで背中を起こしています。


そのとき、なぜかおなかを突き出すように反り返ってしまいます。


全体に弱々しくなったとはいえ、まだまだ夫の力は強いです。


背中を起こす力に抵抗してのけぞります。


自分では起きるつもりでも、力が逆側にかかってしまう感じです。


ふっと力が抜けた時に起こせます。


いつも全力でやるしかなく、腕や腰が悲鳴を上げています。




一旦ベッドに腰掛けさせても、後ろにのけぞって倒れてしまいます。


倒れないように支えながら前に回り、両手をとって立ち上がらせます。


その状態までくれば、立ち上がるのはなんとかできます。




椅子に座っていても、おなかを突き出して反り返る体勢になってしまうので、椅子から滑り落ちて床に尻餅をついてしまいます。


こうなると、どんなことをしても立ち上がらせることができません。


二階でそうなったときは、階段まで引きずっていき、足を階段から下ろして、階段に腰掛けさせる状態にして、お尻を一段ずつ下ろします。


踊り場の二段上までお尻がきたら、踊り場に足をつかせ、両手をとって立ち上がらせます。




一階で床に寝転んでしまったときは、もうお手上げです。


立ち上がらせる手段がありません。抱え上げて立たせればいいのですが、私の力では無理すぎます。




2ヶ月ほど前、明け方ふと目を覚まし、隣のベッドを見ると、夫がいません。


びっくりして飛び起きました。


夫はベッドの下にいました..。


大きな音がしたわけでもなく、表情も穏やかでしたので、落ちたわけではなく、降りたんだろうと思います。


立ち上がらせてベッドに戻そうとしましたが、何をどうやってもダメでした。 


あきらめて、薄い掛け布団をもってきて敷き、その上に体を転がして乗せました。


上から毛布を掛けて寒くないようにしました。




幸いその日は、入浴介助のヘルパーさんが来てくれる予定になっていました。


もうどうしようもないし、ヘルパーさんを待つことにしました。


ヘルパーさんが来るのは10時なので、5時間位?夫は固い床の上で寝ていたことになります。




昨日もまた同じ状況になってしまいました。


実は昨日は、お天気もいいし、どうしても外に連れ出したくて、車で30分位のところに住む姉と3人でお花見をしてきたところでした。


外を歩いて疲れたろうと思い、もう二階には登らせないで、寝室で夕食を食べさせ、そのまま寝せようと思っていました。


二階にあったロッキングチェアを寝室に運び、それに座らせました。


夕食を用意して、寝室に戻ってみると、夫はベッドの掛け布団の上に寝そべっていました..。




いつも朝やるように、背中を押して上体を起こそうとしましたが、やはり突っ張ってしまって起こせません。


しかも掛け布団の上ですから、そのまま、ずるずる滑って掛け布団毎床にお尻が落ちてしまいました..。




なんとか起こそうと2時間近く無駄な努力をしました。


もうダメだな..と思いました。私一人ではどうにもなりません。非力さをつくづく恨めしく思いました。




ダメ元で、デイサービスをお願いしている事業所に電話をしてみました。


もう8時近かったのですが、人がいて、すぐ来てくれるとのことでした。


ここも車で30分ほどかかる場所にあるのですが、来てくれて、抱え上げて立たせてもらえました。


本当にありがたかったです。




毎日が綱渡りです。


なんとかその場その場をしのいでいます。

まだ使い方もわからないまま書いています。


ひょんな事から、アメーバに登録したら、頂いたブログのページ。


使うつもりもなかったけど、今の悩みを吐き出すにはいいかもと思いました。




夫を施設に入れようかどうしようか悩んでいます。


もちろんいつまでも一緒にいたい。


でも最近、無理なんじゃないかと思えることが頻繁に起きています。




私の家は二階建てで、二階がリビングです。


一階には寝室、予備室(今はおむつなどの荷物置き場)と、洗面バストイレしかありません。


最近までは二階に登らせるのも、それほど不安は感じませんでした。


手すりをもたせ、片方の手を引いてあげると、すんなり登って降りてくれていました。




今では非常に危険です。


後ろ側から腕を回して、私自身も手すりを掴み、倒れないようにして登っているのですが、それだと止まってしまって登ろうとはしなくなりました。


私が先に立って登れば、その気になって登ってくれるのですが、後ろにのけぞったりして、バランスがとても悪いのです。


いざというときに支えきれないかもと、ひやひやものです。




二階に上れないとなると、一日中、一階の寝室にいてもらうしかありません。


それってどうなんだろうな..と思います。


むしろ広々とした施設で過ごしてもらった方がいいのかもと思います。




階段に取り付けるリフトも検討していますが、スペース的な問題もあり、また実際つけてもあまり使わなかった例も聞いたりして、躊躇しています。




はぁ..どうしたらいいんだろう..。