ジョージ・オーウェルというイギリスの作家がいました。

私が彼の名前を知ったのは、かつて「カタロニア讃歌」を読んだ時です。
フランコ独裁政権と闘うスペイン人民戦線に自ら従軍した体験を小説に著したものです。
そこでは、人民戦線を内紛に導いたスターリニズムを痛烈に批判していました。

また、後に「1984年」という近未来の全体主義の恐怖を著したものもあります。

今回観た映画は、そのジョージ・オーウェルが1945年に書き上げた「動物農場(Animaru Farm)」を原作としたアニメーション映画です。
因に、「カタロニア讃歌」が書かれたのが1938年ですから、それから7年後の作品になるわけです。







この映画が制作されたのは1954年で、監督はジョン・ハラスとジョイ・バチュラーです。
こんなに以前に作られた作品ですが、日本での初上映は「三鷹の森ジブリ美術館ライブラリー」が提供した2008年です。
宮崎駿監督がアニメに関わるようになったころ、大きな影響を受けたのはジョン・ハラスのアニメーション技術の本だったそうです。
そんな経過から、日本上映にこぎつけたのかな・・・と想像します。

この「動物農場」は大人向けの長編アニメ(74分/カラー/35mm)ですが、子どもの感性にも訴えることは可能な映画だと思います。


ソ連建国当初の出来事や政治家たちをモデルにしたもので、権力の独裁化を批判した作品ですが、冷戦下の政治的な寓話として動物たちによって表されています。


動物たちは自分たちを虐げる悪徳農場主の人間を革命で追放し、全ての動物は平等であるという「動物主義」を掲げて自ら農場経営に乗り出します。
しかし、動物のための戒律を作ったり、教育や風車建設の計画を進める指導者の豚(スノーボール)を気に食わぬと思う他の豚(ナポレオン)は、秘密裏に訓練した大型犬を使ってスノーボールを追放してしまいます。
そして、新たな指導者の位置についたナポレオンは、他の動物たちを管理して自らは農場主の家で寝起きする堕落した生活を送るようになります。
さらに外部の人間たちと取引して贅沢を貪るのですが、これに反対する動物たちがあれば犬たちを使って弾圧し、一層の独裁を形成します。
同じ動物たちの間に上層部と下層部を作っていきます。


この辺りがスターリニズムの様相を表現した様に思いますが、ジョージ・オーウェルの思惑とは離れて、このハラス&バチュラーの映画を「反共産主義」のプロパガンダとして見立てた当時のアメリカCIAが製作資金を提供したという事実もあります。
しかし、どこから資金が出ようと製作者たちは作品の完成に全てをかけていたようです。

もっとも、この映画のどこが反共映画なのか、私には分かりません。
権力は腐敗する。
労働貴族が仕切る政治は社会主義でも共産主義でもない。
それは分かります。


オーウェルの原作では、映画の最後の場面はなかったようですが、ハラス&バチュラーによって書き加えられ、腐敗した権力は決して維持されることなく新たな力によって倒されることが予見できます。


この映画は、残虐な場面は直接表現されることなく工夫された演出をしていますが、見方によっては様々なテーマが脳裏を駆け巡るような気がしました。
例えば、永続革命の必然性という見方も可能かもしれませんが、人間や組織の持つ業という視点からも見ることができます。

しかし、私は、最後の場面に単なる権力奪取の革命ではなく、それまでの闘いの歴史を学習したからこそ可能な共に生きる社会の創造が見えてくるのでした。

※「動物農場」は、7月中の土曜・日曜・祝日のみ「銀座メゾンエルメス10階 ル・ステュディオ」で上映中。予約制/入場無料です。




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