北海道には、ばんえい競馬というものがある。
サラブレットのようなスタイルの良い競走馬とは違い、太い足、一トン以上の巨体の馬が鉄製のそりに重量物を載せて走る競技である。
地方では大変人気がある。

この馬も元々は農耕馬である。
北海道で田畑を起こしたり荷物を引いたりするのは、全て馬であった。
歴史の教科書に牛が貴族を乗せて引く牛車には、違和感を持っていた。

本州では馬は戦争のために使われ、牛は農耕にと区分けされていたのだろう。
北海道はその逆で、牛は牛乳を絞り酪農として発展していき、馬は農作業の戦力となっていた。
その農耕馬も、耕運機やトラクターの機械化の技術革新にやがて駆使されてしまう。
現在農家で農耕馬を使っているところは、どこにもないがかつては貴重な財産であった。その名馬を絶やさないために、農耕馬のばんえい競馬(公営ギャンブル)として生き残ったと思う。

我が家にも馬がいた。
牡の大柄な馬で、冬はソリを引きよく走ってくれた。
農耕のためによく働き、どんな荷物も力強く運ぶ素晴らしい馬であった。
とても可愛く水や餌をやりに行くと、喜びの嘶きをしてくれた。
馬の背中に一度だけ、乗せてもらったことがあった。

馬は臆病な動物と云われ、自分が驚くと馬も驚くので、高くても驚かないようにと父に言われた。
しかし、高さに驚き馬に気持ちが伝わって、結局すぐに降ろされた。
小学3年生くらいだったので、馬より臆病だった。

その馬も中学生の時死んでしまった。
原因は分からないが、獣医が診察に来て元気になったのだが、念の為に打った強心剤的な注射が悪かったのか、目の前で具合が悪くなり亡くなった。
父は獣医に屠殺してはダメなのか聞いていたが、獣医はダメと言っていた記憶がある。
屠殺すれば、肉を食べることは可能だが、そのままだと処分するだけになってしまうからだ。
硬直した馬を見ながら、悲しくて泣いたことも覚えている。
その後新しい馬が家に来たが、なぜか可愛さや愛おしさが感じられなかった。

農家には時々「馬喰」という馬を売り買いする業者がきていた。
馬の売り買い=交換ということで、北海道の方言に交換することを「ばくる」と云う言葉がある。
東京にも馬喰町という地名があるが、多分馬の売り買いする市場があったと思われる。



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